By ARK Invest
本レポートは、2025年8月11日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #474」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. OpenAI、技術的リーダーシップと大衆的普及を 目指しGPT-5をリリース
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst
先週、OpenAIはGPT-5[1]を発表しました。同社の主力モデルシリーズに加わった最新作です。各種ベンチマークでの性能向上は控えめですが、真のブレークスルーは「使いやすさ」にあります。GPT-5はよりニュアンスのあるテキスト応答を実現し、コード生成力も大幅に強化されており、個人ユーザーから企業チームまで幅広く実用的になっています。特に注目すべきは、従来モデルよりも統一され洗練されたユーザーインターフェースです。ユーザーのプロンプトやタスクに応じて推論力を動的に配分し、必要なだけ「考える」ように設計されています。
デモでは、アプリの簡単な説明をそのまま動作するプロトタイプに変換する「バイブ・コーディング」が大きな見どころとなりました。最難関のベンチマークではClaude 4のような先端的なコーディングモデルを上回るわけではありませんが、OpenAIの積極的な価格設定によって、週平均7億人にのぼるユーザーにAIを活用したコーディングを広く普及させる可能性があります。
GPT-5はすべてのChatGPTユーザーに段階的に提供されます。利用スタイルに応じたプランが用意されており、無料ユーザーは一定回数まではフルモデルを利用でき、その後はGPT-5 miniに切り替わります。一方、有料会員はより多くの利用枠を得られる仕組みです。ARK Investは、この展開がOpenAIの「プラットフォーム優先」の姿勢、すなわち使いやすさ、エコシステムとの統合、そしてスケーラブルなアクセスを重視する哲学を示すものだと考えています。言い換えれば、OpenAIはAIの可能性を押し広げ、世界の生産性を変革し、商業的な優位をさらに拡大しているのです。
2. 空飛ぶタクシーは予想以上に早く現実になる
By Akaash TK | @akaash_ARK
Research Associate
先週、Joby Aviation(ジョビー・エイビエーション)社はBlade Air Mobility(ブレイド・エア・モビリティ)社の旅客事業を最大1億2,500万米ドル[2]で買収すると発表しました。これにより、ニューヨーク市やヨーロッパにおけるバーティポート(垂直離着陸場)インフラ、ラウンジ、空港シャトル路線へのアクセスを獲得します。この取引によって、ジョン・F・ケネディ空港(JFK)からマンハッタンといった需要の高い主要ルートに即座に参入でき、商業運航に向けた体制が整う見込みです。Jobyは近く米国連邦航空局(FAA)の認証取得を目指しており、国際的な商業運航は2026年[3]に開始する計画です。
Joby社の電動エアタクシー。出典:Joby Aviation。本資料はイメージ目的のみであり、投資助言や特定の有価証券の売買・保有を推奨するものではありません。
ARKのリサーチによると、電動垂直離着陸機(eVTOL)分野ではJoby Aviation社と Archer(アーチャー)社がリーダー的存在です。両社は米国内での事業展開を主な焦点としていますが、規制プロセスがより早く進んでいる中東での商業運航も示唆しています。さらに、米国および海外で有力な航空会社との提携を結んでおり[4]、Archer社は2028年ロサンゼルス・オリンピックにおいて公式エアタクシーパートナーに選ばれています[5]。
安全性が実証され、規制当局の承認を得るにつれて、eVTOLは都市や地域の移動を一変させる可能性があります。ヘリコプターよりも低コストで、タクシー運賃と同程度の価格で利用できる、渋滞のない高速な移動手段を提供できるからです。
3. 新しい診断戦略のカギは 『イノベーション・流通・データ』
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
診断のあり方は大きく変わりつつあります。その成功は単一の技術的ブレークスルーに依存するのではなく、イノベーション・流通・データという3つの要素で構成される新しいバリューチェーンにかかっています。中でも持続的に強い基盤を築けるのは、この3要素のうち少なくとも2つを押さえる企業です。
最近の事例として挙げられるのが、Exact Sciences(イグザクト・サイエンシズ)社とFreenome(フリーノーム)社による大腸がん(CRC)スクリーニング検査に関するライセンス契約です。この契約はFreenome社に最大8億8,500万米ドルの価値をもたらす可能性があり、役割分担が明確です。同社は革新者として、マルチオミクスに基づくAIを活用した血液検査を提供し、Exact Sciences社は流通者として、全米で約400の統合型医療システムと26万人以上の医師を結ぶ巨大な商業インフラを活用します[6]。
重要なのは、Freenome社がすべてのマルチモーダル患者データにアクセスできる点です。これにより、現場からのデータが継続的に同社に戻り、AI/MLモデルを強化し、既存の検査を改善するとともに将来の検査開発につながる「動的なフィードバックループ」が生まれます。これは真の個別化医療の設計図になると考えられます。
同様に、Tempus(テンパス)社とPersonalis(パーソナリス)社のパートナーシップも米国の医療を個別化医療へと押し進めています。Tempus社は流通とデータの両面で強固な「堀(経済的な参入障壁)」を築き、世界最大級の臨床・分子データライブラリを保有しています。そして、Personalis社のように最先端のゲノム技術とデータを提供する革新企業とも提携しています。Tempus社は「流通チャネル」と「データエンジン」として機能し、Personalis社は基盤となる科学に注力しているのです[7]。
医療分野では、「イノベーションとデータ」、あるいは「流通とデータ」を組み合わせる企業が戦略的な優位を確立するでしょう。一方、流通力だけに依存する企業は、コモディティ化のリスクにさらされる可能性があります。
4. 10x Genomicsの成長の鍵はエンジニアリング
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
先週、10x Genomics(テンエックス・ゲノミクス)社はScaleBio(スケールバイオ)社を3,000万米ドルで買収しました。この戦略をARKでは「エンジニアリングによる成長(Growth by Engineering)」と呼んでいます[8]。多くの企業が収益拡大や競合排除を目的に買収を行なうのとは異なり、今回の10x社によるScaleBio社の買収は単なる補完的な取引ではありません。基盤技術と優れたエンジニアを自社エコシステムに統合し、シングルセルシーケンス市場を再構築しながら競争上の堀をさらに強化する動きなのです。
この買収の鍵となるのは、ScaleBio社が誇る最高水準の組み合わせインデキシング技術です。この技術は、専用の装置を使わずに数百万の細胞に分子バーコードを付与でき、シングルセルシーケンスのコストを細胞あたりわずか数セント以下にまで引き下げます。これは、大規模な創薬スクリーニングにとって極めて重要です。
この取引は戦略的に見ても極めて巧妙だと私たちは考えます。
- 攻めの面では、10x社はScaleBio社の大規模フロントエンド工程を自社の特許取得済み後工程アッセイ(解析手法)(例:V(D)J免疫プロファイリング)と組み合わせることで、競合他社が追随できない強力な一貫したワークフローを実現します。特に、大規模なCRISPRスクリーニング、細胞アトラスプロジェクト、仮想細胞構築といった成長分野において大きな優位性を発揮できるでしょう。
- 守りの面では、Parse Bio(パース・バイオ)社やIllumina(イルミナ)社が最近買収したFluent Bio(フルーエント・バイオ)社といった主要競合の動きを封じ込めることができます。
- 知的資本の面では、ScaleBioの著名な創業者陣(フランク・スティーマーズ氏、Stanford大学のギャリー・ノーラン教授、Washington大学のジェイ・シェンデュアー教授およびコール・トラプネル教授)をわずか3,000万米ドルで取り込めたのは極めて大きな成果です。
まとめると、10x Genomics社の「エンジニアリングによる成長」戦略は、シングルセルシーケンス分野でのリーダーシップを確固たるものにし、臨床市場への進出を加速させるでしょう。低スループットの装置ベース解析から大規模解析、さらには装置不要のスクリーニングに至るまで幅広いソリューションを提供することで、10xは創薬と診断の未来を牽引する包括的なツールキットを構築しています。
[1] OpenAI. 2025. “GPT-5 is here.”
[2] 1億2,500万米ドルの対価は、Joby社の裁量で現金または株式で支払われ、そのうち3,500万米ドルは業績マイルストーン達成および主要人材の確保を条件としています。Joby Aviation. 2025. “Joby to Acquire Blade’s Passenger Business, Accelerating Air Taxi Commercialization.”参照[3] Joby Aviation. 2025. “Joby Cements Global Lead in Air Taxi Industry with Dubai Flights and Beginning of Commercial Market Readiness Work.”
[4] Joby Aviation. 2022. “Delta, Joby Aviation Partner to Pioneer Home-To-Airport Transportation to Customers.”
[5] Archer. 2025. “Archer Selected As The Official Air Taxi Provider Of The LA28 Olympic And Paralympic Games And Team USA In Exclusive Deal.”
[6] Freenome. 2025. “Freenome Announces Exclusive License Agreement with Exact Sciences to Commercialize Freenome’s Blood-Based Screening Test for Colorectal Cancer.” See also Exact Sciences. 2025. “Exact Sciences Announces Exclusive License with Freenome for Blood-Based Colorectal Cancer Screening Tests.”
[7] Personalis. 2025. “Personalis Expands Tempus Strategic Collaboration to Bring Ultra-Sensitive Cancer Recurrence Testing to Colorectal Cancer Patients.”
[8] 10x Genomics. 2025. “10x Genomics to Acquire Scale Biosciences.”
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