By ARK Invest

本レポートは、2025818日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #475」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. PerplexityChromeへの突然の買収提案は流通戦略の一環

By Next Generation Internet Team | @ARKInvest
Nick Grous & Jozef Soja

 

先週、AI検索スタートアップのPerplexity(パープレキシティ)社は、世界最大のウェブブラウザであるGoogle Chrome(グーグル・クローム)の買収を、345億米ドルの現金による非公開提案(アンソリシテッド・ビッド)として打診しました[1] 。この提案が実現する可能性は低いものの、Perplexityが流通拡大を狙っているのは明らかです。

Chromeはブラウザ市場の65%を占め、ユーザー数はおよそ35億人[2]に達しており、世界で最も強力なデジタル流通プラットフォームのひとつです。もしブラウザ層にAIネイティブの検索を組み込めれば、Perplexityはユーザーの「意図」が生じる瞬間に、自然にその行動に影響を与えることが可能になります。

今回の345億米ドルの現金買収提案を比較すると、現在Google社はApple社に対し、Safari(サファリ)のデフォルト検索サービスの座を維持するために、ユーザー1人あたり年間およそ21米ドルを支払っています[3]。一方、PerplexityChromeに提示しているのは、ユーザー1人あたり年間わずか9米ドル程度にすぎません。それでもこの提案は、ブラウザ・OS・アシスタントといった流通層の主導権を握り、AI検索の勝者となるための大胆な試みと言えます。買収交渉であれ直接的な買収であれ、PerplexityGoogleの検索支配に挑むには「有機的な成長戦略」では成功できないと考えているようです。

 

2. Circle、新たなレイヤー1ブロックチェーン『ARC』を始動 機関投資家のステーブルコイン利用に特化

By Digital Assets Team | @ARKInvest
Raye Hadi & Lorenzo Valente

 

先週、Circle(サークル)社は、新たなレイヤー1ブロックチェーンである「ARC」をローンチしました。これはステーブルコイン、国際送金、為替取引に特化して設計されたものです[4]ARCは、 Circle社がアクイハイア(人材獲得を目的とした買収)したチームMalachite(マラカイト)によって開発され、当初はProof-of-AuthorityPoA)型ブロックチェーンとして始動します。約20の機関グレードのバリデーターを持つ「分散型ではあるが非分散化」のネットワークで、プロフェッショナルによる監督の下、バリデーター基準を厳格に管理し、パブリックチェーンにありがちな予測不可能性を回避します。 

Circle社のステーブルコインであるUSDCARCのネイティブガストークンとして機能し、さらにオンチェーンマネーマーケットファンドであるHashnote(ハッシュノート)の統合(USYC)が即時のユーティリティを提供します。ARCは毎秒3,000件のトランザクション処理(TPS)と350ミリ秒のファイナリティを目標に掲げており、高スループットかつ規制された金融サービス環境において必要とされる性能を実現しようとしています。

同社の狙いは明確です。効率性の高いブロックチェーン技術を活用したい金融機関は、パブリックチェーンが規制資本の流れを受け入れるうえで直面する課題「プライバシー、未知のバリデーター、Maximal Extractable ValueMEV、注文フローの対価に相当する概念)、スケーリング制約」に懸念を抱いています。パブリックネットワークが成熟するまでの間、Circle社は「今」実際に利用可能な実用性を金融機関に提供したいのです。ARCはその解決策です。

こうした動きには他社も参加しています。Stripe(ストライプ)社はTempo chain(テンポチェーン)を構築中であり、Tether(テザー)社はPlasma(プラズマ)を開発、Dinari(ディナリ)社はDinari Financial Network(ディナリ・フィナンシャル・ネットワーク)をローンチしました。いずれも、次のステーブルコイン成長フェーズがEthereumSolanaのようなパブリックチェーン上で起こるという前提に挑戦しています。

過去、Libra(リブラ)やXRP(エックスアールピー)といった許可型チェーンは大きく展開するには至りませんでしたが、ARCやその競合はタイミングやプロダクト市場適合性において有利に働く可能性があります。成功するかどうかは別として、Circle社はステーブルコイン基盤の進化における新たな局面を示しているのです。すなわち「非分散化」ではなく「分散型」という形で、金融機関のニーズに応えようとしているのです。

 

3. FDA、大胆な優先課題を着実に実現

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

今春に就任したコミッショナーのマーティ・マカリー博士[5]と最高医療・科学責任者のビナイ・プラサード博士[6]は、FDA(米国食品医薬品局)の近代化を急務と位置づけています。そのアプローチは、革新企業との連携、規制プロセスの簡素化、生成AI [7]などのツールによる効率向上、そして有望な兆候が見られた希少疾患治療薬を早期に承認することに焦点を当てています[8]

先週、その方針が実を結び始めていることを示す重要な事例がありました。FDAPrecigen(プレシジェン)のアデノウイルスベクター免疫療法「Papzimeos(パプジメオス)」を正式に承認したのです。この治療は、これまで承認済みの治療法が存在せず、患者が繰り返し外科手術[9]を余儀なくされてきた希少疾患「再発性呼吸乳頭腫症」に対処します。

私たちは、このPapzimeosの承認を画期的な出来事と捉えています。それは患者にとってだけでなく、開発中の他の希少疾患治療薬にとっても前例となるからです。特筆すべきは、FDAPapzimeosを単群試験(35人の患者コホートによる第1/2相試験)[10]の結果をもとに承認した点です。試験に参加した患者は年間少なくとも3回の手術を受けていましたが、Papzimeosをわずか4回注射した後、12ヵ月で約半数の患者が手術を必要としなくなったことが示されました[11]

当初、Precigenは迅速承認を申請し、FDAが通常求める市販後試験(確認試験)を開始していましたが、新体制のFDA35人のコホートデータを根拠に正式承認を下し、その確認試験を不要としたのです[12]

この承認は、7月に起きたSarepta(サレプタ)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー遺伝子治療薬[13]Replimune(レプリミュン)のがん向け溶瘍ウイルス療法[14]を巡る大きな騒動の直後に出されました。当時はFDAが薬剤承認に対して厳格化したのではないかと、多くのメディアが報じました[15]。しかし今回のPapzimeos承認は、その見方に反する重要な証拠と言えます。

私たちは、この決定をFDAによる希少疾患治療薬評価の転換点とみています。プラサード博士は「ランダム化試験が必ずしも必要ではない」と強調し[16]、今回の承認は疾患の有病率に応じてエビデンスと試験デザインを適正化したものだと述べています。厳密さを損なうことなく、この画期的な承認はイノベーションを後押しするものであり、今後も患者の大きなアンメットニーズに応える希少疾患治療薬の承認を加速させる、より柔軟な規制判断の先駆けとなる可能性があります。 

 

 

 

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[1] Roth, E. 2025. “Perplexity offers to buy Google Chrome for $34.5 billion.” The Verge.
[2] Tunguz, T. 2025. “What is Chrome Worth?”
[3] 同上
[4] Liao, G. et al. 2025. “Arc: An open Layer-1 blockchain purpose-built for stablecoin finance.” HubSpot.
[5] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “Martin A Makary M.D., M.P.H. Commissioner of Food and Drugs - Food and Drug Administration.”
[6] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “Vinay Prasad M.D., M.P.H. Chief Medical and Scientific Officer - Office of the Commissioner Director - Center for Biologics Evaluation and Research (CBER).”
[7] Makary, Martin A. and Prasad, Vinay. 2025. “Priorities for a New FDA.” JAMA.
[8] Taylor, Nick Paul. 2025. “FDA’s Prasad Vows To Make Rare Disease Drugs Available at ‘First Sign of Promise.’” BioSpace.

[9] Precigen. 2025. “Precigen Announces Full FDA Approval of PAPZIMEOS (zopapogene imadenovec-drba), the First and Only Approved Therapy for the Treatment of Adults with Recurrent Respiratory Papillomatosis.”

[10] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA Approves First Immunotherapy for Recurrent Respiratory Papillomatosis.”

[11] 同上

[12] Precigen. 2025. “Precigen Announces Full FDA Approval of PAPZIMEOS (zopapogene imadenovec-drba), the First and Only Approved Therapy for the Treatment of Adults with Recurrent Respiratory Papillomatosis.”

[13] Sarepta. 2025. “FDA Informs Sarepta That It Recommends That Sarepta Remove Its Pause and Resume Shipments of ELEVIDYS for Ambulatory Individuals With Duchenne Muscular Dystrophy.”

[14] Replimune. 2025. “Replimune Receives Complete Response Letter from FDA for RP1 Biologics License Application for the Treatment of Advanced Melanoma.”

[15] そのうち1件は、FDAが希少疾患患者への対応を怠っていたとの報告を含む。SThe Wall Street Journal. 2025. “Drug Approvals Hit an FDA Wall.”参照

[16] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA Approves First Immunotherapy for Recurrent Respiratory Papillomatosis.”

 

 

 

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