By ARK Invest

本レポートは、202592日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #477」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. StarshipSpaceXARKの約5兆米ドル評価額へ押し上げる原動力となる

By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst

 

先週、SpaceX社は10回目となるStarshipの試験飛行を実施し、主要な目標をすべて達成するとともに、競合他社に対する約10年のリードをさらに広げました。今回初めて、PEZ(ペッツ)ディスペンサー(キャンディを一粒ずつ押し出す容器)のように、次世代v3衛星のStarlinkシミュレーター8基を打ち上げました。再突入時には意図的に高い負荷をかけることで、耐熱シールドや機体構造に関する重要なデータを収集し、その後機体を反転させ、インド洋にソフトランディングすることに成功しました(下図参照)。これにより、再利用実現に向けた道のりがさらに前進しました[1]

SNL-090225-Chart-01

出所:SpaceX 2025[2] 本資料は参考情報として提供するものであり、特定の有価証券の売買や保有を推奨する投資助言として解釈されるべきものではありません。

 

打ち上げ後、イーロン・マスク氏は下図のとおりStarship v4の計画を明らかにし、SpaceX社を2027年におけるARKの基本シナリオで想定する商業化と再利用実現、そして2030年における約2.5兆米ドルの企業価値に向けた軌道に乗せました[3]

SNL-090225-Chart-02

出所:Musk 2025[] 本資料は参考情報として提供するものであり、特定の有価証券の売買や保有を推奨する投資助言として解釈されるべきものではありません。

 

当社のモデルにおいては、1キログラム当たりの帯域幅(Gbps/kg)で測定したStarlink v3の性能が最も感度の高い入力要素となっており、衛星の質量はいまだ不明です。ARKはこの性能を注意深くモニタリングしていく予定です。

 

2. トランプ政権、Intel社株式の10%を取得

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, AI & Cloud

 

先週、トランプ政権はIntel社の普通株式約10%の持分を、米国CHIPSおよび科学法(Chips and Science Act)およびSecure Enclaveプログラム(セキュア・エンクレーブ:米国の安全保障関連半導体支援制度)に基づき既に認定されていたものの未払いであった補助金を原資として、89億米ドルで取得しました[5]。この取引の仕組みにより、政府はIntel社が補助金として受け取るはずだった資金と引き換えに、投資収益を求めずに株式を取得することになります。

政府がこのように所有権を持つに至った背景には、世界最大の半導体メーカーである台湾積体電路製造(TSMC)にIntel社が大きく後れを取っている状況があります。Intel社は自社で高性能チップを設計・製造していますが、TSMCApple社、Nvidia社、AMD社といった自社設計で製造を外部委託する顧客向けに、現代的なファウンドリモデルを生み出しました。TSMCの専門性は、急増する研究開発(R&D)や設備投資(CAPEX)を分散させつつ、生産量と生産性を高め、ファウンドリモデルを基盤とする企業の成長を支えてきました。

ベン・トンプソン氏によれば、Intel社は2007年のiPhone発売時にIntel製チップを使わない形で進化してきたTSMCのファウンドリモデルの規模の経済を享受できていません[6]。その結果、Intel社は研究開発投資に対するリターンが低く、プロセスノードを進化させることが難しいため、企業はIntel社の製造能力に賭けず、引き続きTSMCを選好しているとみられます。  

政府の支援は成功の可能性が低い「ヘイルメアリーパス(起死回生の賭け)」に終わるかもしれません。しかし、それこそが、米国内における高性能半導体の製造能力を確保する唯一の機会となる可能性もあります。もちろん、米国内に建設されているTSMC社やSamsung社の施設を除けばの話ですが。

 

3. AbbVie社による12億米ドルでのGilgamesh Pharmaceutical社のBretisilocin買収は公的市場がサイケデリック治療薬を過小評価していることを示唆

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

先週、AbbVie(アッヴィ)社はGilgamesh Pharmaceutical(ギルガメシュ・ファーマシューティカル)社の主力開発品であるbretisilocin(ブレティシロシン)を最大12億米ドルで取得し、大手製薬企業がうつ病治療における即効性セロトニン作動薬の戦略的価値を認識し始めていることを示しました[7]。重要なのは、Gilgamesh社が非上場企業である点です。

Compass社(コンパス)やatai社(アタイ)が開発しているうつ病治療薬と同様に、bretisilocinは脳内のセロトニン受容体を標的とするよう設計され、第2a相試験で良好なデータを示しています[8]bretisilocinatai社のBPL-003はいずれも短時間作用型の治療薬で、Johnson & Johnson社(ジョンソン・アンド・ジョンソン)のSpravato(スプラバト:ケタミン由来のうつ病治療薬)で既に確立された2時間の治療枠に収まるよう設計されています。一方で、Compass社のCOMP360(シロシビン)は約68時間の監督下セラピーを必要とします[9]

開発初期段階にあるbretisilocinが戦略的買い手から最大12億米ドルの価値を認められるのであれば、既に相当の臨床的裏付けを持つ後期段階のプログラムであるCOMP360BPL-003は、現在の公的市場において過小評価されていると私たちは考えます。さらに、Compass社とatai社は主力パイプラインの進展に加え、幅広い精神疾患を対象とする多様な開発パイプラインを有していますが、それでも両社の時価総額はそれぞれ約5億米ドル、約10億米ドルにとどまっています。

一方で、規制面での追い風も強まっています。米国食品医薬品局(FDA)は2023年に初めてサイケデリック(幻覚作用を応用した新しい治療薬)に関する臨床試験ガイダンスを発表し、規制上の不明確さを減らし臨床開発の摩擦を低減することを狙いました[10]。注目すべきは、FDAが最近、サイケデリック支持者であるマイク・デイビス氏を医薬品評価研究センターの副所長に任命したことです[11]。また、FDA長官のマーティ・マカリー氏はサイケデリックを迅速審査の優先課題として位置づけており[12]、米国保健福祉長官(HHS)のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏も、短期的な目標として臨床アクセスの実現を強調しています。これは、この分野で加速審査ルートが現実味を増していることを示すシグナルと私たちは見ています[13] 

需要面では、うつ病は依然として十分な治療が行き届いていない疾患であり、米国では成人の約2,100万人が毎年重度のうつ状態を経験しています[14]。商業的には、Johnson & Johnson社の資産であるSpravatoの年間売上高約17億米ドル規模[15]が示すように、クリニックでの監督下投与モデルは治療抵抗性うつ病領域でブロックバスターとなり得ることが分かります。

要するに、AbbVie社の今回の取引は、サイケデリック治療薬における戦略的な価格発見の新たなデータポイントとなりました。進む臨床的裏付け、改善する規制環境、そしてブロックバスター商業化の前例と相まって、この取引はCompass社やatai社の市場価値が公的市場で十分に反映されていないことを示唆しています。サイケデリックは新たな治療領域として、潮目が変わりつつあるのかもしれません。

 

 

 

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[1] SpaceX. 2025. “Starship’s Tenth Flight Test."

[2] SpaceX. 2025. “View of Starship landing burn and splashdown...” X.
[3] Maguire, D. et al. 2025. “ARK’s Expected Value For SpaceX In 2030: ~$2.5 Trillion Enterprise Value.” ARK Investment Management LLC.
[4] Musk, E. 2025. “This slide needs an update…” X.
[5] Intel. 2025. “Intel and Trump Administration Reach Historic Agreement to Accelerate American Technology and Manufacturing Leadership.”
[6] Stratechery. 2025. “U.S. Intel.”
[7] AbbVie. 2025. “AbbVie to Acquire Gilgamesh Pharmaceuticals' Bretisilocin, a Novel, Investigational Therapy for Major Depressive Disorder, Expanding Psychiatry Pipeline.”
[8] Gilgamesh Pharmaceuticals. 2025. “Gilgamesh Pharmaceuticals Announces Positive Topline Phase 2a Results for GM-2505 in Major Depressive Disorder (MDD).”
[9] Atai. 2025. “atai Life Sciences and Beckley Psytech Announce Positive Topline Results from the Phase 2b Study of BPL-003 in Patients with Treatment-Resistant Depression.” Compass Pathways. 2025. “Compass Pathways Successfully Achieves Primary Endpoint in First Phase 3 Trial Evaluating COMP360 Psilocybin for Treatment-Resistant Depression.”
[10] U.S. Food and Drug Administration. 2023. “Psychedelic Drugs: Considerations for Clinical Investigations.”
[11] Manalac, T. 2025. “FDA Names Psychedelic Proponent as CDER Deputy Director, Top Spot Remains Open.” BioSpace.
[12] NewsNation. 2025. “FDA commissioner says research on psychedelic treatment ‘top priority' | On Balance.” YouTube. See also Manalac, T. 2025. “Makary Backs Psychedelics for Neuropsych, Promises Speedy Review.” BioSpace.
[13] C-Span. 2025. “Health and Human Services Secretary Kennedy Testifies on 2026 Budget Request, Part 1.” See also Perrone, M. 2025. “RFK Jr. and other Trump officials embrace psychedelics after FDA setback.” Associated Press.
[14] Mental Health America. “Depression.”
[15] Johnson & Johnson. 2025. “10-Q filing with the US Securities and Exchange Commission.”

 

 

 

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