By ARK Invest
本レポートは、2025年9月8日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #478」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. Teslaのロボタクシーアプリ、リリース初日に米国iOS App Storeで首位に急浮上
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
9月4日、Tesla社の新しいロボタクシーアプリは米国iOS App Storeで総合ランキングトップ5入りを果たし、旅行カテゴリでは数日間連続で1位を獲得しました[1]。これまで招待制でしか利用できませんでしたが、現在はオースティンとサンフランシスコでTesla社のロボタクシー実証サービスに利用者が登録できるようになっています。
App Storeのデータによれば、初日のTesla社アプリのダウンロード数は、Uber社やWaymo社における月間ピーク時の新規利用者登録数をそれぞれ約40%、約700%上回りました(下図の紫色の四角、8万件を参照)。ロボタクシーサービスがわずか2都市での提供に限られているにもかかわらず、この早期の勢いは、同社のサービスに対する利用者の強い関心を示しており、車両規模を拡大したり安全ドライバーを外したりする前からその需要があることを示唆しています。
注記:Teslaのダウンロード数はApp Storeのランキングから推定。出所:ARK Investment Management LLC、2025年。SensorTowerおよび2025年9月5日時点のiOS App Storeランキングに基づく。本資料は情報提供のみを目的とするものであり、特定の有価証券の売買や保有を推奨する投資助言として解釈されるべきものではありません。
Tesla社のロボタクシーお披露目は、米国のライドヘイル(配車サービス)史上10番目に大きな新規利用者登録イベントとなりました。これは、Uber社の初期普及を後押しした大晦日やセント・パトリックス・デーといった主要な祝祭日に次ぐ規模です(下図参照)。一方で、今回のTesla社の記録は、特別なマーケティング支援もない9月の平凡な木曜日に達成されたものであり、ロボタクシーに対する消費者の強い関心を浮き彫りにしています。また、新規利用者登録数がWaymo社の過去最高記録日を6.5倍上回ったことから、Tesla社の競争上の優位性も明確に示されました。
出所:ARK Investment Management LLC、2025年。SensorTowerおよび2025年9月5日時点のiOS App Storeランキングに基づく。本資料は情報提供のみを目的とするものであり、特定の有価証券の売買や保有を推奨する投資助言として解釈されるべきものではありません。
Tesla社のロボタクシープログラムは依然として安全ドライバー同乗で運行されていますが、イーロン・マスク氏は2025年末までに無人化が可能になるとの見通しを示しています[2]。もし同社がサービス規模を拡大できれば、ロボタクシーは人間が運転する配車サービスや他の自動運転車両群と比べて、より優れたユニットエコノミクス(単位経済性)を実現する可能性が高いと考えられます。初期段階の成果は、Tesla社が予想以上に容易に新たな地域へ実証プログラムを拡大できることを示しており、システムが検証され次第、商業規模での展開に向けた道のりが加速する可能性があります。
2. 米国が国内ウラン濃縮能力を再構築すべき理由
By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst
先週、Tennessee Valley Authority社(テネシー・バレー・オーソリティ、TVA)は、最大6ギガワットのNuScale社(ニュー・スケール)小型モジュール炉(SMR)を導入する契約を発表しました。これは米国史上最大規模のSMR導入プログラムであり、TVAの7州にまたがるサービス地域で展開される予定です[3]。この動きは、ハイパースケーラー(巨大クラウド事業者)がAI主導のコンピューティング需要に対応するために、クリーンで安定した電力を求めている中で、高まる原子力の追い風を背景としています。
トランプ大統領の大統領令を実現し、2050年までに米国の原子力発電能力を4倍に拡大するためには、業界は重大なボトルネックを克服しなければなりません。それが「国内のウラン濃縮能力」です[4]。かつては西側諸国で唯一の供給者であった米国ですが、現在は事実上商業的な濃縮能力を持たず、下図のとおり、欧州、ロシア、中国に比べて数十年遅れをとっています。
注記:中国の産業規模の遠心分離プログラムは当初ロシアの技術に依存していましたが、過去数十年で国内能力を大幅に拡大してきました。出所:ARK Investment Management LLC、2025年。Tenexの2025年6月時点のデータに基づく[5]。本資料は情報提供のみを目的とするものであり、特定の有価証券の売買や保有を推奨する投資助言として解釈されるべきものではありません。
詳しくは、米国におけるエネルギー自立、イノベーション、そして国家安全保障にとって濃縮能力が不可欠である理由を解説した、ARKの最新リサーチをご参照ください。
3. 一人ひとりに合わせた医療のスケーリング:CoMETから学ぶ教訓
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
Epic(エピック)社とMicrosoft社の技術を基盤とするCosmos Medical Event Transformer(CoMET:コメット)[6]は、実世界の医療データを予測モデルに応用しています。1億1,800万人の患者、1,150億件の医療イベント、1,510億トークンに基づき、CoMETは患者の次の医療イベントを予測します。つまり、断片的で整理されていない診療記録を複数の妥当なシナリオ(リスク、検査値、医療利用などを照会可能なシミュレーションされたタイムライン)へと変換します[7]。集団ではなく個人記録に焦点を当てることこそが「N=1医療(個別化医療)」の基盤です。
規模は重要です。CoMETは6,200万、1億1,900万、10億パラメータの3種類で学習されましたが、大きなモデルほど一貫して優れた性能を示しました。最大規模のCoMET-Lは、糖尿病や高血圧、鎌状赤血球症イベントのような急性危機においてタスク特化型のベースラインを上回っただけでなく、30日以内の再入院予測を改善(AUCROC 0.770 vs. 0.717)し、外来、救急、入院の訪問予測における誤差を低減しました。ただし全てが良好な結果ではなく、高脂血症のアウトカムは遅れを示し、予測力がデータ密度やコホート規模に依存することを裏付けています。
生物学と医学におけるスケーリング法則も明らかになりつつあります。GPTのようなモデルがパラメータ当たり約10トークンで最適化されるのに対し、CoMETは1,000トークンを必要としました。医療データはテキストよりも膨大である一方、まばらで一貫性に欠け、不要な情報も多いため、予測イベントは稀でありトークン当たりの有効な信号も少なくなります。そのため同等の性能を達成するには、一般的により大規模なコホートと長期的な追跡データが必要となります。実際、1億1,800万人分のデータを活用するCoMETであっても、80億人の人類の一部に過ぎず、それぞれが固有の生物学的経路と疾患を持っています。言い換えれば、ヘルスケアモデルのスケーリングは機能するものの、まだ黎明期にあります。次のステップは、長期的な医療イベントに関するデータを、ゲノム、タンパク質構造、単一細胞システムといったより深層の生物学的レイヤーと融合させることです。そうして初めて、これらのモデルは予測から予防へと進化し、N=1医療の実現へ近づくでしょう。
4. 遺伝子編集は脂質管理の次なる大きな変革をもたらすか
By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst
先週、Ionis社(アイオニス)は重度高トリグリセリド血症(sHTG)患者を対象とした第3相試験で、olezarsen(オレザルセン)に関する良好なトップラインデータを公表しました。特筆すべきは、中性脂肪および急性膵炎イベントの有意な減少であり、中性脂肪はプラセボ調整後で最大72%、急性膵炎イベントは85%減少したことが示されました[8]。
OlezarsenはRNAを標的とした治療薬で、中性脂肪代謝の主要な調整因子であるapoC-IIIの発現を抑制します[9]。中性脂肪は血中の脂質(脂肪および脂肪様分子)の一種で、値が高いと膵炎や心血管疾患のリスクを高めます。既に家族性カイロミクロン血症に対してFDA承認を受けていますが、米国での市場機会はおよそ3,000人から300万人以上へと1,000倍規模に拡大する可能性があります[10]。
現在、sHTGの管理は低脂肪食と、処方オメガ3脂肪酸やフィブラートなどの慢性的な薬物療法の組み合わせで行なわれています。もし承認されれば、olezarsenは症状ではなく疾患の生物学的メカニズムに直接作用する初の標的療法となり、sHTG治療におけるパラダイムシフトを意味するでしょう。
当社のリサーチによれば、脂質管理における次の破壊的変革は、一度の投与で済むin-vivo(体内)遺伝子編集から生まれる可能性があります。6月にはEli Lilly社(イーライリリー)がVerve Therapeutics社(ヴァーヴ・セラピューティクス)を13億米ドルで買収する計画を発表し、LDLコレステロールを最大69%低下させた第1相in-vivo遺伝子編集候補を獲得しました[11]。先週はEditas社(エディタス)がLDLコレステロール低下を狙った前臨床段階のin-vivo遺伝子編集候補を発表しました[12]。さらに最も進んでいる例として、CRISPR Therapeutics社(クリスパー・セラピューティクス)が第1相試験で進める2つのin-vivoプログラムがあります[13]。そのうちANGPTL3を標的とするものでは、単回投与で中性脂肪を最大82%、LDLコレステロールを86%低下させることが確認されています[14]。今年後半に追加データが発表されれば、慢性的な管理から持続的かつ一度きりの治療への転換を通じて、遺伝子編集が心血管医療を変革する可能性を示すことになるでしょう。
5. 自律化のアーキテクチャ:研究開発の未来を築くのは誰か
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
OpenAI(オープンエーアイ)社が最近科学分野に参入したこと[15]は、自律型研究開発(R&D)がビットとアトム、すなわち計算と物理実験のギャップを埋める可能性を示しています。OpenAI社の取り組みは計算領域の莫大な可能性を裏付けるものの、物理的な研究室にどのように踏み込むかは依然として不透明です。真の自律型科学はこのループを閉じることにあります。
現在、さまざまなプレイヤーが独自の戦略でこの課題に挑んでいます。
- 純粋な「ビット」プレイヤー
日本のSakana AI(サカナAI)社のような企業は、in-silico(コンピュータ内)で仮説を立て、文章を書き、コードを繰り返し書き換える「AI科学者」を構築しています。これらは自己改善を続ける強力なデジタル脳を生み出していますが、物理世界と相互作用するための「身体」をまだ必要としています。 - 統合型「ビットからアトム」スタック
現在の革命の中心にある計算バイオテック企業、Recursion(リカーシャン)社やAbsci(アブシー)社は、モデルを構築し、それをハイスループットのロボティックラボに接続しています。ここでの革新はシームレスなフィードバックループにあります。すなわち、AIが化合物(ビット)を設計し、ロボットが研究室でそれを合成・試験し、そのデータが次世代AIモデルを訓練するという仕組みです。独自のエンジンはサイクルごとに賢くなり、必要な実験数や発見までの時間を体系的に削減することで効率性を高めます。
- 統合型フルスタックシステム
Lila Sciences(ライラ・サイエンシズ)社は、AIと自律型研究室の両方を開発し、分野ごとに分散したラボの知見を中央の包括的AIに統合する完全統合プラットフォームを構築しています。これにより、あらゆる科学分野を横断して学習・改善する強力な発見エンジンを実現しようとしています。
最終目標は「最も賢いAI」や「最速のロボット」を作ることではありません。ビットからアトム、そして再びビットへのフィードバックループを制した者こそが最大の価値を獲得し、科学的発見を迅速で反復的、かつ継続的に学習するシステムへと変革するのです。
この動きは「自動運転ラボ」という概念に収斂しています。これは完全自動運転を目指す自動運転車に類似したものです。この転換により科学のユニットエコノミクス(単位経済性)が変わり、実験1回あたりのコストや知見1つあたりのコストを劇的に低下させ、イノベーションのペースを加速させる可能性があります。
[1] Based on data from SensorTower, accessed September 5, 2025.
[2] Musk, E. 2025. “The safety driver is just there…” X.
[3] Fiedler, S. 2025. “TVA and ENTRA1 Energy Announce Collaborative Agreement in Landmark 6-Gigawatt NuScale SMR Deployment Program –Largest in U.S. History.” Tennessee Valley Authority.
[4] The White House. President Donald J. Trump. 2025. “Fact Sheet: President Donald J. Trump Directs Reform of the Nuclear Regulatory Commission.”
[5] Platov, M. 2025. “Uranium Enrichment.” WORLD NUCLEAR UNIVERSITY SUMMER INSTITUTE, Shanghai, China.
[6] https://www.alphaxiv.org/abs/2508.12104
[7] つまり、研究所の活動内容やその価値、医療資源の利用状況を予測できる。
[8] Ionis. 2025. “Olezarsen significantly reduces triglycerides and acute pancreatitis events in landmark pivotal studies for people with severe hypertriglyceridemia (sHTG).”
[9] Ionis. 2025. “Olezarsen significantly reduces triglycerides and acute pancreatitis events in landmark pivotal studies for people with severe hypertriglyceridemia (sHTG).”
[10] Ionis. 2025. “Expanding the Olezarsen Opportunity: Positive CORE and CORE2 Topline Results.”
[11] Eli Lilly. 2025. “Lilly to acquire Verve Therapeutics to advance one-time treatments for people with high cardiovascular risk.”
[12] Editas. 2025. “Editas Medicine Nominates EDIT-401, an LDLR-Targeted Medicine, as Lead In Vivo Development Candidate.”
[13] CRISPR Therapeutics. 2025. “CRISPR Therapeutics Reports Positive Additional Phase 1 Data for CTX310™ Targeting ANGPTL3 and Provides Update on In Vivo Cardiovascular Pipeline.”
[14] CRISPR Therapeutics. 2025. “CRISPR Therapeutics Reports Positive Additional Phase 1 Data for CTX310™ Targeting ANGPTL3 and Provides Update on In Vivo Cardiovascular Pipeline.”
[15] Wright, W. 2025. “OpenAI is hiring 'AI-pilled' academics to build a scientific discovery accelerator.” ZDNet.
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