By ARK Invest
本レポートは、2025年9月22日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #480」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. Metaはハードウェアをメガネ優先へとシフトしているのか?
By Nick Grous | @GrousARK
Director of Research, Consumer Internet and Fintech
先週開催されたConnectイベントで、Meta(メタ)社は「Ray-Ban Display」を発表し、一般消費者向け拡張現実(AR)メガネ市場に参入しました[1]。価格は799米ドル[2]で、手首装着型の入力デバイス「Neural Band(ニューラル・バンド)」と組み合わせて利用します。このデバイスにはテキスト、翻訳、動画クリップを表示できるマイクロディスプレイが搭載されており、スマートフォンを取り出さずに素早く確認できるインタラクションを可能にします。
スマートフォンにすぐ取って代わることは考えにくいものの、このメガネは特定の用途(通知の確認、写真の閲覧、会話の翻訳)には最適といえるでしょう。リアルタイムでのアクセスが最も重要となる場面において、ARメガネは他のモバイルデバイスを補完するプラットフォームとなり得ます。私たちの見解では、Meta社は流通リスクをヘッジしていると考えられます。刷新された「Ray-Ban Gen 2」やスポーツ向けの「Oakley Vanguard」により、スタイルや機能を横断してメガネのラインを拡大し、親しみのある消費者ブランドにARを組み込んでいます。装着性への注力は、Meta社が技術的能力と同じくらい社会的受容性を重視していることを示唆しています[3]。
私たちが注視しているのは次の点です。
- 新鮮味が薄れた後もユーザーはこのメガネを使い続けるだろうか?
- Neural Bandは適切な入力を取得し、期待通りの出力につなげられるのか?
- 開発者はどのくらい早く、消費者が日常的に装着したくなるアプリを構築できるのか?
これら3つの問いに対してRay-Ban Displayが説得力のある答えを示すことができれば、Meta社のARメガネは補完的なデバイスから破壊的な存在へと進化し、スマートフォンから利用時間を奪い、次世代の主要なコンピューティングプラットフォームの基盤を築くかもしれません。
2. Googleがエージェント型決済プロトコルを発表
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
Google社の新しい「Agent Payments Protocol(AP2)」は、パーソナライズされたエージェント型ショッピングを現実のものにしつつあります[4]。従来の消費者購買行動は「検索 → 発見 → 購入」という流れでしたが、生成AIはこの最初の2つのステップを圧縮しています。無数のリンクやタブを探し回る代わりに、1つのプロンプトで数秒以内に最適な商品を提示できるのです。AP2を商取引のあらゆる段階に組み込むことで、AIアシスタントは消費者を最適な選択へ導き、代わりに購入まで完了してくれるでしょう。
AP2はオープンで決済手段に依存しない標準として設計されており、エージェント間連携(A2A)やモデルコンテキストプロトコル(MCP)を含む幅広いエージェント基盤にシームレスに統合されます。その柔軟性により、エージェントはカード、銀行振込、さらにはステーブルコインを用いて即時に購入代金を支払うことが可能です。エージェント型ショッピングが普及するにつれ、消費者は商品発見や購入を自らではなくエージェントに委ねるようになり、消費者取引プロセスは大きく変革されるでしょう。これまで商品やサービスを比較・検索するのに数分から数時間かかっていたものが、エージェントによって数秒に短縮されるのです。
さらに、エージェント型購買は、マーケットプレイス間の乗り換えコストと摩擦を下げることで、それぞれが築いてきた参入障壁を脅かす可能性があります。競争力を維持するため、マーケットプレイスは価格、品揃え、配送速度といった運営の卓越性を一層追求し、消費者需要を満たすエージェントに選ばれる必要があります。かつて消費者が「ワンストップでシームレスに買い物できるマーケットプレイス」を選んだように、AI購買エージェントもAP2に対応したマーケットプレイスを好む傾向が強まると考えられます。トラフィックが増えることで競争力の高いマーケットプレイスにおける取引成功率が高まり、市場シェアの拡大につながるでしょう。
3. NVIDIAの最新チップ、大規模コンテキスト推論に最適化
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, AI & Cloud
NVIDIA(エヌビディア)社は先ごろ、「Rubin CPX GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)」を発表しました。これは、大規模コンテキスト推論に特化して設計されたアクセラレーターです[5]。従来のGPUは学習や短いコンテキストでの推論に最適化されてきましたが、ワークロードは変化しています。コードアシスタントは数百万トークンに及ぶリポジトリを理解する必要があり、生成系動画モデルは数時間にわたる計算集約的なコンテンツを「推論」することが求められています。
Rubin CPXは推論の「プレフィル(事前入力)」段階に注力しています。この段階では計算需要が高く、メモリ帯域幅は比較的低くなります。高価なHBM(High Bandwidth Memory)をGDDR7(Graphics Double Data Rate 7)に置き換えることで、NVIDIA社は1米ドルあたりのFLOPS(毎秒浮動小数点演算数)を大幅に向上させ、推論コストを削減します。SemiAnalysisによれば、Rubin CPXの部材コストは、主要チップであるRubin R200の約75%低くなる可能性があります[6]。
推論処理を「プレフィル」 [7]専用チップとデコード専用チップに分離することは、エージェント型ワークロードにおける推論経済を改善する可能性があります。トークン単位で課金するモデル開発者は、ハードウェア投資1米ドルあたりに生成できるトークン数を増やせるからです。NVIDIA社は、1億米ドルの投資で50億米ドルのトークン収益を生み出せると見積もっています[8]。もしRubin CPXが普及すれば、AMD(エーエムディー)社などの競合は、NVIDIA社に対抗してパフォーマンス/コスト比での均衡を目指し、自社のハードウェアロードマップを見直さざるを得なくなるでしょう。
GPUにとどまらず、NVIDIA社はIntel(インテル)社との提携も発表しました[9]。同社はIntel社の普通株に50億米ドルを投資し、データセンターおよびPC向けのカスタムチップを共同開発します。Intel社は、AIインフラ向けのNVIDIA社カスタムx86 CPU(中央演算処理装置)や、PC向けにNVIDIA RTX GPUチップレットを統合したx86 SoC(システム・オン・チップ)を設計する予定です。この投資は、米国政府がIntel社に100億米ドルを出資した決定に続くものであり、中国向け半導体販売をめぐる交渉において、NVIDIA社がトランプ政権の支持を取り付ける助けとなる可能性があります。
4. Coinbase、Morphoとの提携拡大でUSDCをDeFiへ流入
By ARK Digital Assets Team | @ARKInvest
Raye Hadi & Lorenzo Valente
Coinbase(コインベース)社は「DeFiマレット(表向きは伝統的な金融サービスのように親しみやすいが、裏側ではDeFiが動いている構造を指す業界用語)」戦略を推進しており、分散型金融(DeFi)によって裏側が支えられたシームレスなユーザー体験を提供しています[10]。同社は、モジュール型レンディングプロトコルであるMorpho(モルフォ)プロトコルを通じたビットコイン(BTC)レンディングの統合を基盤とし、ユーザーの預金を分散型市場に流しつつ、同社アプリの馴染みやすく使いやすいインターフェースを維持しています。
現在、Coinbase社はMorphoプロトコルとの統合をUSDC[11]レンディングに拡大し、同社のLayer 2であるBase上にオンチェーン構成を構築しています。BaseはすでにMorphoプロトコルのボールト残高の20%以上を占めています。ユーザーはCoinbase社上でUSDCを貸し出し、最大10.8%の利回りを得ることができます。これは、9月18日時点でアプリ内にUSDCを保有することで得られる4.1%の報酬を大きく上回ります[12]。舞台裏ではSteakhouse Financialがボールトを運用し、流動性をレンディング市場間に配分してリターンを最適化しています。言い換えれば、Coinbase社はユーザーフレンドリーなDeFiへのゲートウェイになりつつあるのです。
Morphoプロトコルは急成長しています。9月8日から14日の週には、過去最高となる540万米ドルの収益を生み出しました(下図参照)。
出所:Blockworks、2025年9月18日時点のデータ。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券または暗号資産の売買や保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
Coinbase(コインベース)社の流通力とMorpho(モルフォ)プロトコルのモジュール型インフラが組み合わさることで、ステーブルコイン流動性の強力な供給ルートが形成されています。つまり、規制されたフロントエンドがユーザーの預金を分散型ボールトへと流し込み、より広範な金融戦略群の基盤となり得る仕組みです。流動性が拡大し、統合が広がるにつれて、Coinbase社とMorphoプロトコルは、ステーブルコインやレンディング市場がオンチェーンでどのように流通・運営されるかを再定義していく可能性があります。
[1] Meta. 2025. “Meta Connect 2025.”
[2] Roth, E. 2025. “Meta Connect 2025: the 6 biggest announcements.” The Verge.
[3] 同上
[4] Parikh, S. and R. Surapaneni. 2025. “Powering AI commerce with the new Agent Payments Protocol (AP2).” Google Cloud Blog.
[5] NVIDIA. 2025. “NVIDIA Unveils Rubin CPX: A New Class of GPU Designed for Massive-Context Inference.”
[6] Patel, D. et al. 2025. “Another Giant Leap: The Rubin CPX Specialized Accelerator & Rack.” SemiAnalysis.
[7] 計算負荷の高い「プレフィル」は、大規模言語モデル(LLM)処理の初期段階を指す。
[8] NVIDIA. 2025. “NVIDIA Unveils Rubin CPX: A New Class of GPU Designed for Massive-Context Inference.”
[9] NVIDIA. 2025. “NVIDIA and Intel to Develop AI Infrastructure and Personal Computing Products.”
[10] Khatri, Y. 2025. “Coinbase now lets users lend USDC onchain with current yields up to 10.8%.” The Block.
[11] USDC:米ドルの価値に連動した暗号資産。
[12] 2025年9月18日時点のBlockworks社のデータに基づく。
ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.