By ARK Invest

本レポートは、2025929日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #481」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. ARC Institute、生物学とAIの最先端技術を推進

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

Stripe(ストライプ)社のパトリック・コリソン氏らの資金支援を受ける非営利団体のArc Institute(アーク・インスティテュート)は、AIと生物学/マルチオミクスの融合を加速させ得る3つの重要な研究成果を発表しました。その意義は明確です。分子データを読み取る最先端のマルチオミクスツールは、それを解釈するAIモデルと組み合わされることで一層価値を高め、やがてゲノム編集や合成技術によってデータが実験や医薬品へと変換されるようになります。生物システムから「読み取り、考え、書き込む」能力は急速に進展しているのです。

Arcの成果は「read, think, write(読む、考える、書く)」のループ全体にまたがっています。すなわち、AI生成ゲノム、抗体設計のためのオープンソースシステム、そして大規模なDNA再編成に対応するCRISPRのプログラム可能な代替手法であるブリッジ編集です。

Arcの研究者たちは、NVIDIA(エヌビディア)社のチップで学習したDNA向け大規模生成モデル「Evo 2」を用い、完全なバクテリオファージのゲノムを設計し、実験室で良好に機能させることに成功しました。直接比較の試験では、AIが設計したファージは、既知の野生型ファージに耐性を持つよう育種された大腸菌を死滅させました。このAIツールによって、新しい機能的に方向付けられた変異の作成が可能になり、その中には研究者が有利になると仮定していたものの、従来の非AI的手法では実現できなかった組み合わせも含まれていました[1]  

もしモデルがタンパク質だけでなく機能するゲノム全体を安定的に生成できるなら、薬剤耐性感染症に対抗するファージ療法だけでなく、産業用バイオテクノロジーの設計空間も大きく広がる可能性があります。Evo 2EVO Designerのインターフェースとコードとともに公開されており、現在入手可能な最大規模のゲノム基盤モデルのひとつです[2] Arcは以前、EVOモデルが新規の単一タンパク質や、CRISPR-Cas複合体のような複数コンポーネントから成るシステムを開発できることを示していましたが、Evo 2はツールを用いて新種と分類され得る完全なゲノムを開発した初の事例となります[3]

 

世界初のAI生成ゲノムの構築

92925snl1

出典: King and Hie 2025[3] 本資料は説明のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買や保有を推奨するものではありません。

 

Stanford(スタンフォード)大学のSynBioGao Labと共同開発された「Germinal(ジャーミナル)」は、指定されたエピトープに対してデ・ノボ抗体(AIなどで新規設計される抗体)を提案するオープンソースAIシステムです。Arcの論文では、このシステムが最大22%のヒット率で結合候補を提示できることが示されました。チームは再現を容易にするため、コードとプロトコルを公開しています[5]

「ラボ・イン・ザ・ループ(実験室とAIを循環的に結びつける研究サイクル)」型の創薬企業は、設計・構築・テストの迅速なサイクルに依存しています。二桁のヒット率を持つオープンシステムは、ウェットラボでのスクリーニング時間を短縮し、抗体探索プログラムの拡大に寄与する可能性があります。またこれは、Arcが推進する単一細胞/perturb-seqモデリングにおける「read(読む)」の取り組みを補完し、インシリコ設計と実験的検証のループをさらに強固にするはずです[6]

2024年、Arcは「ブリッジ編集」を発表しました。これはIS110のような可動性要素に由来するRNAガイド型リコンビナーゼを用い、DNAを挿入、除去、反転させる技術で、プログラム可能な「ブリッジRNA」によって制御されます。これはCRISPRの「切断と修復」とは異なる仕組みです。本ニュースレターの後半では、シェア・ウィルボルグ氏がこの画期的成果についてさらに詳しく解説しています。

ブリッジ編集の開発は、おおよそ2014年前後のCRISPRと同じ段階にあります。すなわち、説得力のあるメカニズムと初期のヒト細胞データはあるものの、今後大規模なエンジニアリングが必要とされる段階です。一方、Germinalはすぐに利用可能でオープンソースであり、「ラボ・イン・ザ・ループ」型の研究パイプラインを加速するはずです。Evo 2による機能的ゲノムは概念実証となり、抗生物質耐性への対抗手段を拡張するとともに、新しいゲノム規模の設計ワークフローの萌芽となる可能性があります。

2021年に設立されたArcは、2022年に研究所を開設した非営利団体で、研究者に柔軟な複数年の支援を提供しています。同団体のツール志向(公開モデル、ポータル、チャレンジを含む取り組み)は、AIと生物学の境界領域でリターンを複利的に高めるよう設計されています。

マルチオミクスとAIの融合はまだ初期段階ですが、シーケンシングや摂動(細胞や遺伝子に刺激を加えて反応を記録した)データセットはすでに数億細胞規模に達しており、ゲノムや細胞状態に対応する基盤モデルは急増しています。とはいえ、臨床応用には、継続的な反復を通じてのみ実現できる堅牢性、安全性、生産適合性が求められます。先週の発表を一つの指標とするなら、Arcは「読み取り思考書き込み」のフィードバックループを加速させており、それとともに生物学的発見のテンポも速まっているといえるでしょう。

 

2. ブリッジ編集技術が疾患治療の可能性を拡大

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

先週、Arc Institute(アーク・インスティテュート)の研究チームは、人間の細胞において「ブリッジ編集」と呼ばれる新しい遺伝子編集システムが、最大でほぼ100万塩基対に及ぶ大規模なゲノム領域に対応できることを示す画期的な論文を発表しました[7]。そのスケール感を例えるなら、32億塩基対のDNA1冊の本とすると、CRISPRやベース編集は「誤字(typos)」を修正し、プライム編集は短い文章を修正できるのに対し、ブリッジ編集は段落から章全体を書き換えることができるのです。

では、ブリッジ編集はどのように機能するのでしょうか。これは構造化された「ブリッジRNA」と、分子の「再配置装置」として作用する酵素リコンビナーゼを組み合わせた仕組みです。誤字修正にたとえられるCRISPRは、ガイドRNAを使ってヌクレアーゼ(分子の「ハサミ」として作用する酵素)を1つのDNA部位に誘導して切断します。一方、ブリッジRNA2つのDNA部位を同時に「つなぎ合わせる」ことができ、この「二重認識」が分子の足場の役割を果たし、遠く離れたゲノム領域同士を近づけます。これによりリコンビナーゼ酵素は、大規模な再編成(挿入、欠失、逆位)を、単一のプログラム可能なステップで実行できるのです。

ブリッジ編集はまだ完全ではありません。Arcの研究者らは、DNA挿入で約20%の効率、オンターゲット特異性で約82%を達成することを示しました[8]。それでも私たちは、ブリッジ編集がこれまでの遺伝子編集ツールでは不可能だった新しい種類の疾患に対して、治療の扉を開く可能性があると考えています。

たとえば、ハンチントン病やフリードライヒ失調症のようにリピート(繰り返し)配列の伸長が関与する疾患、あるいはデュシェンヌ型筋ジストロフィーのように複数の部位にわたる変異が存在する疾患に対して、ブリッジ編集は特に有効である可能性があります。重要なのは、遺伝子内の有害なリピート塩基を部分的に切除するだけでも臨床的な効果が得られる点であり、疾患の重症度はリピートの長さに相関することが多いのです。

遺伝子編集のアプローチは疾患ごとに棲み分けされる可能性があります。軟骨無形成症や鎌状赤血球症のように、主に明確で短い変異が原因となる疾患に対しては、CRISPRやベース編集が依然として最適なツールとなるでしょう。しかし、ハンチントン病やフリードライヒ失調症のような大規模ゲノム構造に根ざす疾患に対しては、ブリッジ編集がパラダイムシフトをもたらし、これまで遺伝子医療の射程外にあった治療機会を開く可能性があります。

 

3. Teslaの完全自動運転(FSDv14、今週大規模リリースへ

By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst

 

先週、イーロン・マスク氏は、Tesla社が今週「FSD v14」を展開することを発表しました。その後、約2週間で「v14.1」、さらにその後「v14.2」がリリースされ、その段階になると車はまるで知覚を持っているかのように感じられる可能性があると述べました[9]。パラメータ数の約10倍の増加[10]によって実現されたこのアップデートは、2024年初頭に同社の技術をエンドツーエンドのAI自律システムへと移行させた「v12」以来、最も重要なものです[11]

Waymo(ウェイモ)社と比較すると、Tesla社のロボタクシーはすでに約42%広い範囲をカバーしています[12]。そして、Tesla社は依然として安全監視員を使用していますが、マスク氏は年末までにその廃止を見込んでいます[13]

FSDの急速な進展とロボタクシーの拡大は、マスク氏にとって約1兆米ドル規模の報酬パッケージ達成に向けた重要なマイルストーンであると同時に、Tesla社のビジネスモデルがハードウェアの一回売り切りから、ソフトウェアに近い利益率を持つ継続収益型へと根本的にシフトしていることを示しています。ARKのリサーチ結果によれば、Tesla社のロボタクシープラットフォームは2029年までに同社の企業価値の約90%を占める可能性があります[14]

私たちは、FSD v14の展開とTesla社のロボタクシー事業の拡大を引き続き注視していきます。なお、ロボタクシー展開に関するARKの最新の見解については、こちらのブログをご覧ください[15]

 

4. トランプ氏が新たなTikTok取引を発表

By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate

 

先週、ドナルド・トランプ大統領は、TikTokの中国親会社であるByteDance(バイトダンス)社と、同社の米国事業(現在の評価額は約140億米ドル)の再編に関する取引を発表しました。所有構造は変更される可能性がありますが、現行の計画では、Oracle(オラクル)社、Silver Lake Management(シルバー・レイク・マネジメント)社、そしてアブダビ拠点のMGX社を含むコンソーシアムが、TikTok米国事業の約80%を支配し、ByteDance社は残り20%を保有する予定です。現行案のもとでは、TikTok米国事業はアルゴリズムへのアクセスを維持するため、ByteDance社に多額のライセンス料を支払うことになります。このアルゴリズムこそが、アプリの利用定着を実現している仕組みです。

各種推計によると、TikTok米国事業は17,000万人のアクティブユーザーを抱え、年間約100億米ドルを生み出しています。評価額140億米ドルに基づくと、TikTok米国事業の株価売上高倍率(P/S倍率)は1.4倍となり、成熟した低成長企業並みの水準であり、Meta社の約10倍やAlphabet社の約8倍と比べると割安といえます[16]

注目すべきは、現行計画では米国内ユーザーが新しいアプリに移行する必要がある点であり、競争の激しいショート動画市場に大きな影響を与える可能性があることです。移行に摩擦が大きすぎれば、ユーザーはInstagram ReelsYouTube Shortsといった代替サービスに流れる可能性があります。実際、TikTok米国ユーザーの約85%はすでにInstagramを利用しているため[17]、切り替えコストはごく小さい可能性があります。こうした状況では、クリエイターやインフルエンサーの動向が最大の変数となるでしょう。

たとえば、インドがTikTokを禁止した際には、大半のユーザーがMeta社が積極的に誘致した元TikTokのクリエイターやインフルエンサーを追ってReelsに移行しました。私たちの調査によると、ユーザーはプラットフォームではなく才能を追う傾向があります。そのため、インセンティブ・パッケージこそが、クリエイターがReelsへ移るのか、それともYouTubeへ移るのかを決定づけ、オーディエンスもそれに伴って動くことになるでしょう。

 

5. Pumpのストリーミングサービスがクリエイター経済を再構築する可能性

By Raye Hadi | @rhadiARK
Research Associate

 

2024年初頭、Solana(ソラナ)上のミームコイン発行プラットフォームとしてデビューした暗号資産アプリケーションPump.fun(パンプ)(以下「Pump」)[18]は、トークン作成に必要な技術的ステップを抽象化し、誰でもシームレスにトークンを発行できるようにしました。現在、Pumpは即時トークン発行機能を軸に、ソーシャルとストリーミングを融合させた「暗号資産版TikTok」を目指しています。

Pump20251月に初めてライブ配信機能を導入しましたが、危険なスタントや受け入れがたいコンテンツが原因で世論の強い批判を浴び、混乱の末にオフラインに追い込まれました。その後、9月初旬に再びストリーミング機能を導入し、更新されたモデレーション方針[19]と、より厳格なデューデリジェンスおよびガイドラインを伴って再始動しました。 

興味深いことに、Pumpの新しいモデルは広告やサブスクリプションを回避し、独自の方法でクリエイター収益を生み出します。各ライブ配信は独自のトークンを生成し、配信者はそのトークンの取引量から生じる取引手数料の一部を獲得できます。クリエイターの取り分は総手数料の0.95%から始まり、トークンが98,240 SOL(当時の価格で約1,990万米ドル、1SOL203米ドル換算)の時価総額に達すると0.05%まで段階的に減少します[20]。各トークンのライフサイクルは配信の長さに一致するため、配信がバイラル化するとの期待に基づいた熱狂的なサイクルを促します。一方、Pump自身はSOL建てで固定の0.05%を得ます[21]

これまでのところ、1万米ドル以上を稼いだクリエイターは全体の約0.09%819ウォレット)に過ぎません[22]が、トップのクリエイターウォレットは2,222 SOL(約44.4万米ドル)を蓄積しています[23]。大多数の配信者は収益がほとんどありませんが、注目を集めてバイラルな瞬間を作り出せる者にとっては大きな機会が広がっています。Pumpは勢いをさらに強めるため、累計で約260PUMPトークン(現在価格で約13,800万米ドル[24]、流通供給量の約7.3%)を買い戻す資金を拠出しています [25]

たとえば、Twitch(ツイッチ)の配信者カイ・セナット氏は約727,000人のサブスクライバーを抱え、月間収益は約360万米ドルに達します[26]。一方、Pumpの一部の配信は視聴者数がはるかに少なくても、わずか2日間で約8.3万米ドル(換算すると月間125万米ドル)を稼ぎ出しています[27]Twitchの同時配信市場シェアの約1%に迫る中[28]Pumpのプラットフォームはマネタイズの仕組みを再定義し、従来型のストリーミングモデルよりも短期的にクリエイターに大きなリターンを提供しているのです。

 

 

 

 PDFをダウンロードする

 

 

 

[1] King, S. and Hie, B. 2025. “How We Built the First AI-Generated Genomes.” Arc Institute.

[2] Costa, A. 2025. “Massive Foundation Model for Biomolecular Sciences Now Available via NVIDIA Bio.” Nvidia.

[3] Turner, D. et al. 2021. “A Roadmap for Genome-Based Phage Taxonomy.” Viruses.

[4] King, S. and Hie, B. 2025. “How We Built the First AI-Generated Genomes.” Arc Institute.

[5] Mille-Fragoso, L.S. 2025. “Efficient generation of epitope-targeted de novo antibodies with Germinal.” bioRxiv.

[6] Roohani, Y.H. et al. 2025. “Virtual Cell Challenge: Toward a Turing test for the virtual cell.” Cell.

[7] 同上

[8] 同上

[9] Musk, E. 2025. “Version 14.0 goes into early wide release next week…” X.

[10] Musk, E. 2025. “Tesla is training a new FSD model with ~10X params…” X.

[11] Musk, E. 2025. “(He was just on version 13)….” X.

[12] Robo Tracker. 2025. “Leaderboard. Waymo, Tesla, Zook.”

[13] Musk, E. 2025. “The safety driver is just there…” X.

[14] 14

[15] Maguire, D. 2025. “Tesla Has Launched Its Robotaxi…Now What?” ARK Investment Management LLC.

[16] Bloomberg News. 2025. “ByteDance to Get About 50% of TikTok US Profit Under Trump Deal.” Bloomberg.

[17] eMarketer. 2023. “TikTok Has the Most User Overlap With Instagram.”

[18] 暗号資産ローンチパッドとは、新しいブロックチェーンプロジェクトと投資家をつなぎ、資金調達やコミュニティ形成を支援し、初期分散型取引所公開(IDO)や初期取引所公開(IEO)といったイベントを通じてトークンの早期販売を可能にするプラットフォームのこと

[19] Pump.fun. 2025. “Livestream Moderation Policy.”

[20] Sunday, September 28, 2025.

[21] Pump.fun. 2025. “Fees.”

[22] Choy, D. 2025. “What makes Pump livestreaming different from Twitch or OnlyFans?”

[23] Dune. “@adam_tech / Pump.fun Creator Earnings.”

[24] Coingecko. 2025. “Pump.fun. PUMP Price.”

[25] Blockworks Research. 2025.

[26] Vallese, Z. 2024. “Streamer Kai Cenat earns millions, breaks Twitch subscriber record during 30-day livestream.”

[27] Gladwin, R. 2025. “Pump.fun Streamers Earned $83,000 from Leaking Drake and Future Songs.” Decrypt.

[28] Christopher, D. 2025. “Pump's Stream-to-Earn Payday.” Bankless.

 

 

 

ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.

ARK Invest

About the author

ARK Invest Read more articles by ARK Invest