By ARK Invest
本レポートは、2025年10月6日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #482」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. OpenAIの「Instant Checkout」、チャットとEコマースを統合
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
人工知能(AI)は、オンラインショッピングのあり方を一変させようとしています。通常、購買体験は「検索・発見」「比較・意思決定」「決済」の3段階を経ます。これまでAIチャットボットは前者2つのステップを担ってきましたが、OpenAI社の「Instant Checkout(インスタント・チェックアウト:即時決済機能)」[1]により、チャット内で購入を完結できるようになり、このプロセスが一つのループとしてつながりました。
OpenAI社はStripe(ストライプ)社との提携のもと、オープンソース化されたAgentic Commerce Protocol(ACP)を通じてInstant Checkoutを実現しています。ACPはREST API(Representational State Transfer Application Programming Interface)とMCP(Model Context Protocol)の両方をサポートしており、Anthropic(アンスロピック)社のMCPを利用する小売事業者・販売業者とも互換性があります。ACPによってChatGPTは取引情報を販売業者のバックエンドに送信し、注文を受け付け、既存の決済プロバイダーを通じて支払いを処理し、出荷管理までを行ないます。重要なのは、販売業者が現在利用している決済プロセッサーからStripe社に切り替える必要がないという点です。Stripe社の「Shared Payments Token」が、エージェントを介さず安全に決済情報を転送します。
Amazonなどの既存プレイヤーは、ユーザーがインターネットを使いやすくするためにEコマースを構築してきましたが、AI購買エージェントは消費者に代わって行動します。この変化により、小売業者やマーケットプレイスは、エージェントが意思決定を行なう際に自社製品を優先的に扱ってもらうためのAgent Oriented Optimization(AOO:エージェント指向最適化)を進めざるを得なくなっています。消費者、ひいてはエージェントの選択を左右し続ける要素は、価格、在庫、配送の3つです。
この変化の中で、Shopify(ショッピファイ)社は重要な役割を担う可能性があります。近い将来、数百万の販売者がAIによる新しい流通チャネルにアクセスできるようになり、販売機会とコンバージョン(購買転換率)が飛躍的に拡大する可能性があります。
OpenAI社のInstant Checkoutは、「会話型コマース(Conversational Commerce)」という新しい概念を提示しています。週あたり7億人を超えるアクティブユーザーを抱えるChatGPTは、消費者が「発見」と「購入」を同じ場所で完結できる環境を提供しており、小売業者や販売者にとっては膨大な集客チャネル(トップ・オブ・ファネル)となると同時に、OpenAI社にとっても収益化の道を開いています。エージェント主導型コマース(Agentic Commerce)は、大規模なパーソナライゼーション(個別最適化)を可能にし、リアルタイムで消費者の意図に合った商品を提示するだけでなく、スムーズな決済を実現するインフラとしても機能するのです。マーケットプレイスにおけるエージェント主導型コマースの展開と影響については、ARKの最新ブログ[2] をご覧ください。
2. OpenAI、Sora 2でソーシャルメディア分野へさらに進出
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst
先週、OpenAI社は、最新の生成AI動画モデル「Sora 2(ソラ・ツー)」[3]を発表しました。これは、高精細でリアルなAI生成メディアを実現する競争の中で大きな前進を意味します。1年以上前に登場した初代Soraのブレークスルーを基盤に、新バージョンでは物理的挙動、動作、音声の同期などの再現性が大幅に向上しました。初期デモでは、これまでAI動画システムにとって難題だった体操やアイススケートなどのシーンが紹介され、さらにサム・アルトマンCEO本人のAI生成映像も披露されました。これにより、Sora 2が声と人物の動きを精密に連動させる能力を持つことが示されています。
Sora 2は単なる技術アップデートではなく、Google社のVeo 3など、最先端の動画生成モデルとの直接的な競争を意味します。さらにOpenAI社は、著作権保護されたコンテンツについて、デフォルトで学習に含まれる(inclusion)方針[4]を採用しました。すなわち、知的財産(IP)保有者が自ら「除外(opt out)」を申請しない限り、その素材がモデルの学習に使用されるという仕組みです。この判断は議論を呼ぶ可能性がある一方で、Sora 2の創造的出力を拡大させ、コンテンツがバイラル化する確率を高めるとみられます。
最も革新的なのは、OpenAI社がSora 2をソーシャルメディア型の専用アプリとしてローンチした点です。ユーザーはこのアプリ上で、自分自身のリアルなAIバージョンを生成・共有し、他の動画に挿入することができます。この戦略により、OpenAI社は広告、プレミアムプラン、利用料などを通じた収益化の実験場を確保しつつ、計算資源の負荷を抑えることができます。アプリは招待制で運用され、初期ユーザーには友人4名分の招待枠が与えられています。月額200米ドルのChatGPT Proユーザーは、より高度で実験的なバージョン「Sora 2 Pro」にアクセス可能です。近く、標準版Sora 2もAPI経由で提供予定であり、OpenAI社が生成AI動画の分野で消費者と開発者の両方のエコシステムを育成しようとしていることを示しています。
3. DoorDash、自律走行型ロボット「Dot(ドット)」を公開
By Autonomous Tech & Robotics Team | @ARKInvest
Daniel Maguire, ACA, Tasha Keeney, CFA, & Varshika Prasanna
先週、DoorDash(ドアダッシュ)社は「Dash Forward(ダッシュ・フォワード)」[5]のイベントで、地域商取引(ローカルコマース)を一変させうる複数の革新を発表しました。中でも注目を集めたのは、自転車専用レーン、車道、歩道、そして私道までを走行できる、商用としては初の自律走行型ロボット「Dot(ドット)」です。最高時速は約32km(20マイル)で、現在アリゾナ州フェニックスで実証実験が行なわれており、年末までに地域規模での展開が予定されています[6]。Dotは自社生産されており、同社がこれまで採用してきたパートナー企業との連携モデル、たとえば、歩道配達を担うCoco Robotics(ココ・ロボティクス)社[8]や、ドローン配達を行なうAlphabet(アルファベット)社のWing(ウィング)との協業[9]からの転換を意味します。
自動化された配達の垂直統合は、DoorDash社にとって極めて戦略的な一手となる可能性があります。同社の利用者は、料理そのものの価格とほぼ同額に達するプレミアム料金を支払うことがしばしばあります。もし自律走行車が配達コストを引き下げることができれば[10]、DoorDash社は顧客基盤を大幅に拡大できるでしょう。
ARKのリサーチによると、走行型ロボットを導入することで、地域配達の一括配送コストは約83%削減され、1件あたり2.40米ドルから0.40米ドルに低下する可能性があります。ドローンと組み合わせることで、2030年までに約4,400億米ドル規模の配達収益を生み出す潜在性があると推計されています。(下図参照)。
出所:ARK Investment Management LLC, 2025本分析は2024年12月17日時点の複数の外部データソースに基づいており、要請に応じて開示される場合があります。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買または保有を推奨するものではありません。予測には限界があり、その実現を保証するものではありません。
[1] OpenAI. 2025. “Buy it in ChatGPT: Instant Checkout and the Agentic Commerce Protocol.”
[2] ARK Investment Management LLC. 2025.“Are Marketplaces Defensible In The Age Of AI Purchasing Agents?”
[3] OpenAI. 2025. “Sora 2 is here.”
[4] Hagey, K. et al. 2025. “OpenAI’s New Sora Video Generator to Require Copyright Holders to Opt Out.” The Wall Street Journal.
[5] DoorDash. 2025. “Dash Forward 2025: Delivering The Future of Local Commerce.”
[6] DoorDash. 2025. “DoorDash Unveils Dot, the Delivery Robot Powered by its Autonomous Delivery Platform to Accelerate Local Commerce.”
[7] Zeff, M. 2025. “DoorDash unveils Dot, its autonomous robot built to deliver your food.” TechCrunch. See also Lung, N. 2025. “DoorDash Unveils Delivery Robot, Smart Scale in Hardware Debut.” Bloomberg.
[8] DoorDash. 2025. “DoorDash and Coco Expand Global Partnership with U.S. Sidewalk Robot Delivery Launch.”
[9] DoorDash. 2025. “DoorDash Expands Drone Delivery Partnership with Wing in Charlotte.”
[10] ARK Investment Management LLC. 2024. Big Ideas 2024.”
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