By ARK Invest
本レポートは、2025年10月20日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #484」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1.「V2」の成功を受け、SpaceXが「Starship V3」開発へ前進
By Daniel Maguire, ACA| @DMaguireARK
Research Analyst
先週、SpaceX(スペースエックス)社はStarship(スターシップ)の第11回飛行試験を無事に完了し、「V2」シリーズの最終ミッションを達成しました(下図参照)。この試験では、Starlink(スターリンク)V3のシミュレーター8基を展開し、インド洋への着水、そして大気圏再突入時の耐熱シールドに関する貴重なデータ収集など、主要な目標をすべて達成しました[1]。

出所:SpaceX 2025年。本資料はイメージを目的としたものであり、特定の有価証券の売買または保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
SpaceX社は現在、「V3」設計への移行を進めており、その技術革新のスピードは極めて速いものとなっています。最終目標は完全かつ迅速に再利用可能な機体の実現ですが、たとえStarshipが単回使用モードのままでも、Falcon 9(ファルコン・ナイン)を上回る大幅なコスト削減と高いペイロード(積載能力)を実現できる見通しです。Starshipは、人類を複数の惑星に拡げるというSpaceXの中核的ミッションにおいて重要な役割を担っており、同時に、ARKが公開しているオープンソースの評価モデル(こちらで閲覧可能)においても中核的存在です。このモデルでは、同社の企業価値が2030年に約2.5兆米ドルに達すると試算されています。
2. 清算の連鎖が暗号資産市場のレバレッジと脆弱性を露呈
By Raye Hadi| @rhadiARK
Research Associate
10月9日、中国はレアアース(金属資源)へのアクセスを外交的武器として利用する方針を発表し、これをきっかけに暗号資産市場史上最大級の清算(リクイデーション)が発生しました[2]。これに対し、ドナルド・トランプ前大統領はTruth Social(トゥルース・ソーシャル)上で迅速に反応し、中国製品に対して100%の関税を課す可能性があると発言[3]。この発言が市場に世界的な弱気ムードを引き起こし、暗号資産市場にも波及しました。
トランプ氏の発言の直前、正体不明のトレーダーまたはトレーダー集団が、Hyperliquid(ハイパーリクイッド)というオンチェーン型の永久先物取引所で大規模なショートポジションを構築していました[4]。永久先物(Perpetuals)とは、ブロックチェーン上で取引されるデリバティブ(金融派生商品)で、満期日がなく、資金調達率(Funding Rate)によって原資産価格との乖離を調整しながら、レバレッジをかけたロングまたはショートポジションを取引できる仕組みです。各市場が関税リスクに反応する中で、広範な売り圧力と集中したショートポジションが重なり、清算の連鎖(Liquidation Cascade)が発生。多くの暗号資産トレーダーが不利なポジションに追い込まれました。利下げや年末の強気相場を見込んでロングポジションを取っていた投資家は相次いでポジションを失い、未決済建玉(Open Interest, OI)は急減。わずか1日でビットコインのOIは約670億米ドルから330億米ドルへ、イーサリアムのOIは約380億米ドルから190億米ドルへと半減しました[5]。
その衝撃は市場全体に波及し、個人投資家・機関投資家ともに多額の損失を被りました。流動性が逼迫し、ネットワークの負荷が高まり、中央集権型取引所やDeFi(分散型金融)プロトコルにも影響が及びました。一部のアルトコインは40〜80%急落し、イーサリアムの取引手数料は一時1件あたり600米ドル超に急騰しました[6]。推計によれば、総損失は約190億米ドル、約170万件の取引口座が清算されたとされています[7]。
混乱の中でも、実績あるDeFiプロトコルは高い耐性を示しました。Aave(アーベ)は問題なく稼働を続け、わずか1時間で1億8,000万米ドル相当の担保を清算しました[8]。記録的なトラフィックと取引量にもかかわらず、Hyperliquidのオンチェーン永久先物プラットフォームは停止することなく稼働しました[9]。一方で、同じくオンチェーン永久先物を扱うLighter(ライター)は数時間の停止を余儀なくされました[10]。ただし、Hyperliquidも自動デレバレッジ(Auto-DeLeveraging, ADL)機能を通じて、多くのトレーダーのポジションを強制的にクローズしました[11]。ADLは、極端なボラティリティ発生時に取引所の健全性を維持するための仕組みです。
中央集権型取引所も例外ではありませんでした。Binance(バイナンス)のADLはAPI障害を引き起こし、一部ステーブルコイン(特にUSDe〈ユースディー〉/Ethena発行)[12]のペッグ(価格連動)を崩壊させました。この障害により、マーケットメイカーがペッグ裁定を行なえなくなり、USDeの価格は一時的に1米ドルから0.68米ドルへ急落しました[13]。結果としてBinanceは、過剰かつ不公正な清算を実施したとみられ、その後多くのユーザーに補償を行ないました[14]。
このように、暗号資産市場における1日の大規模清算は、エコシステムの効率性と同時に、その脆弱性も浮き彫りにしました。多くのトレーダーは、ADLの仕組みや、中央集権的インフラ、過剰なレバレッジのリスクを痛感する結果となりました。何よりも、この出来事は、暗号資産という新しい資産クラスがいまだ発展途上にあることを改めて思い出させる一日となりました。
3. マルチオミクス解析の技術革新が、コストと複雑性のギャップを縮小
By Shea Wihlborg| @Shea_ARK
Research Analyst
先週、PacBio(パックバイオ)社は、高精度なロングリード全ヒトゲノム解析を大規模に実施する際に必要なシーケンス用試薬および消耗品コストが約40%低下し、300米ドル未満になる見通しを発表しました[15]。これにより、ロングリード解析の経済性は、現在約100〜200米ドルで提供されているハイスループット型ショートリード解析の水準に近づきつつあります[16]。
これまで以上に身近になったロングリード解析には、ショートリード解析に対する大きな利点があります。それは、長い繰り返し配列、重複、挿入や欠失など、ゲノムの複雑で解析が難しい領域を1本のリードで網羅的に捉えることができる点です。これにより、構造的変異(ストラクチュラルバリアント)の検出精度が大幅に向上します。
PacBio社のこの重要な進展は、シーケンスコストの低下がムーアの法則を上回るペースで進んでいることを示しています。比較のために言えば、2003年に完了した初のリファレンスヒトゲノム解析には約27億米ドルもの費用と13年の歳月がかかりましたが、その大部分はツールやインフラの整備に費やされました[17]。
また同週、ショートリード解析のリーダー企業であるIllumina(イルミナ)社は、DNAとメチル化の両方を同時に検出できる統合的手法を発表しました[18]。メチル化(methylation)とは、DNAに化学的なタグが付加されることで遺伝子の「オン/オフ」を制御するエピジェネティック修飾の一種です。PacBioのロングリード解析は、より幅広いエピジェネティック修飾を検出できますが、がん検出のためのリキッドバイオプシーのような一部の用途では、引き続きショートリード解析の方が優位に立つ可能性があります。
これらの遺伝子(genetic)およびエピジェネティック(epigenetic)情報の読み取り精度向上により、遺伝子発現の制御メカニズムや疾患リスクモデルの理解がさらに深まり、がん特異的メチル化パターンなどのバイオマーカー発見が加速するでしょう。ARK社のリサーチによると、マルチオミクス解析の急速な進歩は、診断と精密医療の両分野で進歩を加速させる多層的な知見への需要を今後も押し上げると考えられます。
[1] SpaceX. 2025. “STARSHIP'S ELEVENTH FLIGHT TEST."
[2] Haseeb. 2025. “Did Ethena Really Depeg?...” X.
[3] Trump, D. 2025. “It has just been learned…” Truth Social. Diogenes. 2025. “Black Friday: What Happened?” X.
[4] Blasto. 2025. “Hyperliquidis trying hard to defend…” X.
[5] Diogenes. 2025. “Black Friday: What Happened?...” X
[6] Trading View 2025年10月17日時点のデータに基づく。Smith, D. 2025. “The average transaction fee per minute…” X.も併せて参照。
[7] CoinGlass. 2025. “The largest liquidation event in crypto history…” X.
[8] Stani.eth. 2025. “Today, @aave experiences the largest stress test…” X.
[9] Blasto. 2025. “Hyperliquidis trying hard to defend…” X.
[10] Biogenes. 2025. “Black Friday: What Happened?...” X.
[11] 同上
[12] Haseeb. 2025. “Did Ethena Really Depeg?...” X.
[13] 同上
[14] 同上
[15] PacBio. 2025. “PacBio Announces Major Advances for Revioand Vega to Lower Genome Cost and Expand MultiomicCapabilities.”
[16] Ultima Genomics. 2022. “Ultima Genomics Delivers the $100 Genome. Emerges from Stealth with $600 Million in Funding.” See also Illumina. 2023. “Illumina's revolutionary NovaSeqX exceeds 200th order milestone in first quarter 2023.”
[17] National Human Genome Research Institute. 2021. “The Cost of Sequencing a Human Genome.” National Human Genome Research Institute. See also Tripp, Simon and Grueber, Martin. 2021. “The Economic Impact and Functional Applications of Human Genetics and Genomics.” American Society of Human Genetics.
[18] Illumina. 2025. “Illumina fuels multiomic discovery with launch of 5-base solution, unlocking simultaneous genomic and epigenomic insights.”
ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.

