By ARK Invest

本レポートは、20251027日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #485」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. ShopifyLovableの連携が起業のハードルを下げる

By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate

 

先週、Shopify(ショッピファイ)社はLovable(ラバブル)社と提携し、ユーザーがオンラインストアを構築・開設し、ショッピングカートやチェックアウト機能を設定し、完全なECサイトを立ち上げられるよう支援する取り組みを発表しました[1]Lovableは、自然言語による会話型プロンプトを使ってフルスタックWebアプリを構築できるAI搭載の「バイブ・コーディング」およびアプリ開発プラットフォームです。

このShopifyLovableの連携は、起業にかかるコスト(時間面・資金面の両方)を劇的に引き下げています。従来、ビジネスを始めるには、実店舗を確保し、物件探しや賃料、光熱費、在庫、人件費などに数千米ドル単位の初期費用を支払う必要がありました。その結果、人通りの多いエリアに店舗を構える場合、年間で2万米ドル以上の賃料がかかることもあり、多くの起業家志望者にとって参入の大きな経済的障壁となっていました。

しかし現在、その構図は完全に逆転しています。Shopifyのようなプラットフォームはデジタルを前提としたアプローチで起業のハードルを下げており、「誰もが、どこからでもビジネスを始められる」という理念のもと、同社のツール群と各種連携機能が技術的・資金的な障壁を取り除いています。年額約1,000米ドルのサブスクリプションを支払うだけで、起業家は完全に機能するオンラインストアを立ち上げ、数分で世界中の顧客にアクセスできるようになりました。

さらに、Lovableとの連携によってアイデアから実店舗公開までのプロセスが数週間から数分へと短縮されました。ShopifyのようなデジタルプラットフォームはAIを活用してビジネス立ち上げを可能にし、Etsy(エッツィー)やTaskRabbit(タスクラビット)、Upwork(アップワーク)などの双方向マーケットプレイスが流通を担う構図が形成されています。この変化は、マイクロ起業や独立系ビジネスの波を生み出しており、2020年以降に非企業系ビジネス申請が急増していることが、次のグラフにも示されています。

SNL-102725-Chart-01

出所:ARK Investment Management LLC, 2025U.S. Census Bureau(米国国勢調査局)2025年のデータに基づく[] 2025420日時点のデータ。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買または保有を推奨するものではありません。

 

プラットフォーム主導のツールにより、より多くの起業家が個人で事業を立ち上げ、働き方や所有の未来を再構築しつつあります。デジタルマーケットプレイスがどのようにしてマイクロ起業の好循環(フライホイール)を生み出してきたのかについては、こちらのブログ[3]をご覧ください。

 

2. Googleが量子アルゴリズムの開発を推進

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst

 

先週、Google社は、量子コンピューティングにおける画期的なアルゴリズムの進歩として「Quantum Echoes(クオンタム・エコーズ)」[4]を発表しました。この手法は、最初の信号とその“エコー(反響)”の両方を捉えてデータを強化することで、量子相互作用から得られる情報の精度を高めるというものです。この革新により、量子計測の誤差が減少し、Googleの量子プロセッサは従来のコンピューターより13,000倍高速に問題を解くことが可能になりました。検証のため、同社のチームはこのアルゴリズムを分子構造マッピング(molecular mapping)に適用。量子的に導き出された分子構造を、従来の実験室手法で得られた構造と比較したところ、量子モデルは従来法の結果と一致しただけでなく、従来技術では捉えられなかった分子の詳細構造をも明らかにしたことが確認されました。

とはいえ、量子コンピューティングはまだ黎明期にあります。Googleは、スケーラブルで誤り訂正機能を備えた量子システムの実現に向けて、6段階のロードマップ[5]を策定しています。最終段階であるマイルストーン6では、誤り率10¹³100万個の物理キュービット(量子回路の基本論理要素)を処理できる、大規模かつフォールトトレラント(耐障害性)のある量子コンピューターの完成を目指しています。一方で、現在のGoogleの到達段階はマイルストーン2であり、約100個の物理キュービットと誤り率10²で動作しており、目標値まではキュービット数で4桁、誤り補正では11桁の差があります。 

それでもなお、Quantum Echoesのような革新が累積的な進歩をもたらし、Googleを量子優位(quantum advantage)を安定的に活用できる閾値へと着実に近づけているのは確かです。ただし、商業化の本格的な普及にはなお10年以上かかる可能性があります。

さらに、量子コンピューティングの進展は研究室の枠を超えつつあります。報道によれば、米政府が国内の量子関連企業への出資を検討している可能性があり[6]、暗号技術、材料科学、防衛分野などにおける量子技術の国家安全保障上の重要性を示唆しています。ただし、執筆時点で米政府はこの報道を否定しています[7] 

今後のタイムラインには不確実性が残るものの、Quantum Echoesのようなアルゴリズム的飛躍は、量子性能が指数関数的に向上していることを浮き彫りにしており、これは古典コンピューター初期の発展を想起させます。スケーラブルな量子システムが実現すれば、化学、ロジスティクス、人工知能の分野で計算の限界を押し広げる可能性があります。

 

3. OpenAIOpenAIBroadcomおよびAMDと提携し、大規模コンピュート目標の達成へ

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst

 

今月初め、OpenAIBroadcom(ブロードコム)との提携を発表し、100億ワット(10ギガワット)規模のAIコンピュート能力を共同開発・導入する計画を明らかにしました[8]。この動きは、AIモデル開発企業と半導体メーカーとの垂直統合の深化を示しています。このアクセラレーター群は、OpenAIBroadcomが共同設計し、Broadcomが製造するカスタムチップであり、長年にわたる最先端言語モデルの学習・運用経験から得た知見が組み込まれる予定です。OpenAIはこれらのチップを2026年後半に導入し、2029年にかけて順次スケールアップしていく計画です。前四半期にBroadcomが公表した「100億米ドル規模の“謎の顧客”」の存在が、OpenAIとの関係をめぐる憶測を呼びましたが、Broadcomはこの最初の取引の相手がOpenAIではないことを明言しており、今回の発表が新たな勢いを加えていることを示しています。

Broadcomとの提携発表は、OpenAIAMD(エーエムディー)と結んだ協定の直後に続くもので、こちらは2026年末からAMDMI450アクセラレーターを用いて6ギガワット分のコンピュート能力を提供するという内容です[9]。この契約により、OpenAIAMDハードウェア利用が拡大します。サム・アルトマンCEOは以前から、推論処理(inferencing)におけるAMD製品のコスト効率を高く評価していました。注目すべきは、この契約にOpenAIAMDの株式を最大10%まで取得できる新株予約権(ワラント)が含まれている点です。この権利は、パフォーマンスおよびバリュエーション目標の達成を条件としており、AMD株価が2025年の約253米ドルから2030年までに600米ドルへと137%上昇することなどが条件に含まれています[10]。この条件設定からは、OpenAIAMDが長期的な戦略的提携関係にあることがうかがえます。両社はともに、逼迫するコンピュート資源市場において優位な立場を確保することを狙っています。

これらの提携は総じて、OpenAIが目標とする250ギガワット規模のコンピュート基盤に向け、供給源を多様化・拡大する戦略を明確に示しています[11]NVIDIAAMDBroadcomなど複数のパートナーから能力を調達することで、特定のサプライヤーへの依存を減らしつつ、より堅牢なインフラを構築しています。このマルチサプライヤー戦略は、大規模言語モデル(LLM)や生成AIの特殊な計算要件に最適化されたチップ開発競争を促進し、ハードウェアのイノベーションを加速させる可能性があります。結果として、OpenAIのインフラ投資は単なる規模拡大にとどまらず、AIハードウェアの革新をも触発しているといえるでしょう。

 

4. Tesla、険しい道のりの中で「Optimus」の開発を着実に前進

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

先週の四半期決算説明会で、Tesla社はロボタクシー事業の商用化に向けた進展を強調するとともに、人型ロボット「Optimus(オプティマス)」の生産を年間100万体以上に拡大する計画を明らかにしました[12]。ただし、イーロン・マスク氏は同時に、ヒューマノイドロボットの設計と量産には多くの課題があることも指摘しています。ARKの分析モデルもその見解を裏づけています。

ヒューマノイドロボットの課題は、製造面だけでなく、自律制御の難しさにもあります。ロボタクシーとヒューマノイドロボットの両方は、ロボティクス、エネルギー貯蔵、人工知能(AI)の融合分野に属しますが、ロボタクシーのスケール化はヒューマノイドロボットに比べてはるかに単純です。その理由はいくつかあります。

ロボタクシーの特徴:

  • 操作系統が限られている(アクセル、ブレーキ、ステアリングなど)
  • 直接的に関わるオブジェクトが少ない(主に道路上の車輪)
  • 動作環境が比較的限定されている(道路という明確な構造)
  • 目的が単一(人や物を「ある場所から別の場所へ」移動させる)

ヒューマノイドロボットの特徴:

  • 関節の数が桁違いに多く、精密な協調制御が必要
  • 多様な環境や物体との相互作用を理解・予測する必要がある(さまざまな地形での歩行やツール操作など)
  • 構造化されていない環境で動作しなければならない
  • タスクの種類や目的が膨大である

もっとも、ヒューマノイドロボットには一つ有利な点もあります。それは、ロボタクシーよりも誤差許容度(エラー・トレランス)が高いということです。運動エネルギーの規模が異なるため、ヒューマノイドロボットがつまずいたり足の指をぶつけたりしても、目的の遂行に致命的な支障をきたすことはほとんどありません。一方で、ロボタクシーの「エラー」は重大事故につながる可能性があります。

ARKでは、ロボタクシーとヒューマノイドロボットの難易度の違いを以下の5つの変数で分類しています。

  • アクション帯域幅(Action bandwidth
  • 相互作用の複雑性(Interactions
  • 環境の予測不能性や変動の大きさ(Scene entropy
  • タスクの多様性(Task diversity
  • 誤差許容度(Error tolerance 

これらの要素が複合的に重なり合うことで、ヒューマノイドロボットの開発は指数関数的に難しくなります。ARKでは、この違いをモデル化・定量化して比較した結果を、以下の図表で示しています。

SNL-102725-Chart-02-2

出所:ARK Investment Management LLC, 2025年。本ARKの分析は、20251024日時点のさまざまな外部データソースに基づいており、要望に応じて提供される場合があります。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買や保有を推奨するもの、または投資助言として解釈されるべきものではありません。

 

5つの要素、つまり、アクション帯域幅(Action Bandwidth)、相互作用(Interactions)、シーンのエントロピー(Scene Entropy)、タスクの多様性(Task Diversity)、そして誤差許容度(Error Tolerance)を総合的に比較すると、ヒューマノイドロボットの制御は自動運転ロボタクシーの約20万倍も難しい可能性があると推定されます(大きな誤差範囲を伴う前提で)。とはいえ、これは決して不可能な課題ではありません。実際、Tesla社は2023年以降、完全自動運転(FSD)ソフトウェアの性能を約1万倍向上させてきました[13]。しかし、ヒューマノイドロボットに対する汎用的な解決策を確立するには、莫大な努力に加え、累計で1,000億米ドル(約15兆円)規模のAIコンピュート投資が必要になると考えられます[14]

ARKの調査によると、自動運転ロボタクシー事業は、Optimus開発に必要なAI投資資金を十分に生み出すキャッシュフローを生み出せる可能性があります。このため、株主の支持を得ながら、イーロン・マスク氏はこの極めて困難な道を進み続けると見られます。Autopilotから監視付きFSDSupervised Full Self-Driving)、さらに非監視型FSDおよびロボタクシーへの進化だけでも極めて難しいものでした。そして、そこからさらに汎用的なヒューマノイドロボットの実現に進むことは、これまで以上に険しい挑戦となるでしょう。それでも、この取り組みが成功すれば、ARKが予測するロボタクシー市場の数兆米ドル規模の価値をも凌駕する商業的成果が得られる可能性があります。Optimusプログラムは、おそらく史上最も困難なビジネス挑戦ですが、その見返りは努力に見合うものとなるでしょう。

 

5. Tesla、ロボタクシーの展開を加速

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

最新の決算発表[15]で、Tesla社はロボタクシー戦略の成功に対する確信を一段と強めたことを明らかにしました。自動運転ソフトウェアに対する信頼が高まる中、イーロン・マスク氏は、同社が今後24ヵ月以内に年間生産台数を現在の約170万台から約300万台へ拡大できると見込んでいます[16]。また、さらにロボタクシーの運用地域を現在の2都市から2025年末までに810の大都市圏へ拡大し、テキサス州オースティンの一部地域では人間のオペレーターを撤廃する計画も発表しました。

この勢いを裏づけるように、TeslaAI担当副社長アショク・エルスワミ氏は、同社がクローズドループ・シミュレーションをトレーニングプロセスに統合したことを明らかにしました[17]。これにより、システムは事前に記録されたデータ(オープンループ)に依存せず、自らの判断結果をリアルタイムに学習できるようになっています。また、イーロン・マスク氏は、Teslaの完全自動運転(FSD)ソフトウェアに「推論能力(reasoning)」が組み込まれることにも言及しました。これは、パターン認識の枠を超え、文脈理解や意思決定といった人間の認知に近いレベルへと進化することを意味します。

ARKのリサーチによれば、テスラが世界の交通システムを変革していく過程で、同社のロボタクシープラットフォームは今後4年以内に企業価値を大きく押し上げる潜在力を持つと考えられます[18] 

 

 

 

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[1] Lovable. 2025. “Introducing the Lovable Shopify integration.”

[2] U.S. Census Bureau. 2025. “Business and Industry, 2024-2025, Business Applications from Corporations.”

[3] Grous, N. and V. Prasanna. 2025. The Evolution of Marketplace Convenience.” ARK Investment Management LLC.

[4] Neven, H. and V. Smelyanskiy. 2025. “Our Quantum Echoes algorithm is a big step toward real-world applications for quantum computing.” Google Blog.

[5] Google. 2025. “Our quantum computing roadmap.”

[6] Partsinevelos, K. 2025. “Rigetti Computing tells @CNBC it’s in ongoing talks with…” X.

[7] Leswing, K. 2025. “Trump admin not negotiating equity stakes with quantum firms: Commerce official.” CNBC.

[8] OpenAI. 2025. “OpenAI and Broadcom announce strategic collaboration to deploy 10 gigawatts of OpenAI-designed AI accelerators.”

[9] OpenAI. 2025. “AMD and OpenAI announce strategic partnership to deploy 6 gigawatts of AMD GPUs.”

[10] UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2025. “Form 8-K ADVANCED MICRO DEVICES, INC. October 5, 2025.”

[11] Gardizy, A. and A. Afrati. 2025. “Sam Altman Wants 250 Gigawatts of Power. Is That Possible?” The Information.

[12] Tesla. 2025. “Q3 2025 Update.”

[13] ARK Invest. マネジメントによるコメントに基づく推定。

[14] ARK Invest. AIソフトウェアの性能向上およびテスラのAI資本効率に関する想定に基づく推定。

[15] 同上

[16] 同上

[17] Elluswamy, A. 2025. “Tesla’s Approach to Autonomy.” X.

[18] Keeney, T. et al. 2024. “ARK’s Expected Value For Tesla In 2029….” ARK Investment Management.

 

 

 

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