By ARK Invest

本レポートは、2025113日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #486」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. OpenAI、待望の組織再編を完了

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst

 

先週、OpenAIは、かねてから予告されていた公益企業(Public Benefit Corporation, PBC)への組織再編[1]を正式に完了し、ガバナンス体制とMicrosoft(マイクロソフト)とのパートナーシップを明確にしました[2]。新しい体制のもとで、非営利団体であるOpenAI Nonprofitは営利法人の26%を保有し、業績達成に応じて持分をさらに増やすワラント(新株予約権)を有します。一方、Microsoft27%の出資比率を維持し、2032年までOpenAIの製品およびモデルに関する知的財産権を、2030年まで研究利用権を、そしてAGI(汎用人工知能)が検証可能な形で達成されるまで収益分配権を保持します。さらにOpenAIは、Azure(アジュール)上の演算リソースを2,500億米ドル分追加購入することを約束し、両社の長期的なインフラおよびクラウド基盤での連携を一層強化しました。

この再編により、OpenAIは資金調達の柔軟性を大幅に高めることができ、最先端モデルの学習・展開に必要とされる大規模な投資の前提条件を整えました。ARKの見方では、2026年末から2027年にかけてのIPO(新規株式公開)が実現すれば、今後10年を代表する上場案件の一つとなる可能性があります。

新しい企業構造は、「公益志向」と「営利インセンティブ」の両立を目指すものです。OpenAIの設立当初の理念である「AIの恩恵を広く人類に行き渡らせる」という使命を維持しつつ、モデル開発競争の最前線で戦うために必要な資金力と戦略的パートナーシップを確保する狙いがあります。この変化は、AIの制度化(institutionalization)を象徴しており、基盤モデルの開発企業が実験的な研究所から、巨額の資本を要するグローバルテクノロジー企業へと進化しつつあることを示しています。

関連するライブ配信の中で、CEOのサム・アルトマン氏は、OpenAIの研究体制拡張計画を発表しました。彼は、2026年までに自律型の研究インターンを開発し、2028年までに完全自動化された研究エージェントを実現する構想を明らかにしました[3]。また、OpenAIが今後数年間で3,000万キロワット(30ギガワット)規模、総額1.4兆米ドルに相当する演算能力を確保しており、将来的には週あたり1ギガワット規模のAIインフラを展開できる「インフラ工場」を構築する長期計画を進めていることも明らかにしています。

アルトマン氏の発表と時を同じくして、NVIDIA(エヌビディア)が今後5四半期で5,000億米ドル分のBlackwell GPUの受注を確保したとの報道もありました[4]。これは、AIインフラ投資サイクルの資本集約度がかつてない水準に達していることを示しています。AIが単なる研究分野から、垂直統合型のグローバル経済セクターへと進化する中で、OpenAIはその最前線を切り拓いているのです。

 

2. Intellia(インテリア)のつまずきにもかかわらず、個別化遺伝子編集への道を進化させているFDA

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

先週、Intellia Therapeutics(インテリア・セラピューティクス)は、トランスサイレチンアミロイドーシス(心筋症および多発性神経障害を対象)向けの単回投与型遺伝子編集治療「nex-z」の第3相試験を一時中断しました[5]。これは、ある患者がグレード4の肝トランスアミナーゼ上昇と総ビリルビン増加を伴い入院したためです。翌日、米国食品医薬品局(FDA)は同試験を臨床ホールド(clinical hold)の対象としました[6]。規制当局がリスク軽減策に合意し次第、数ヵ月以内に登録再開が見込まれています。

今年初めにも、Rocket Pharmaceuticals(ロケット・ファーマシューティカルズ)がダノン病を対象に行なっていたウイルスベースの遺伝子治療薬の第2相試験が、毛細血管漏出症候群による合併症で患者が死亡したことを受けてFDAによって臨床ホールドとなりました。約3ヵ月後、FDAは免疫反応管理レジメンの修正を含む改訂プロトコルを承認し、臨床ホールドを解除しています[7]

先週のIntelliaの試験におけるつまずきにもかかわらず、FDAの最高医療・科学責任者(Chief Medical and Scientific Officer)であるビナイ・プラサード博士は、個別化遺伝子編集治療の承認プロセスを合理化する計画を発表しました[8]。この新しい枠組みにより、開発期間が短縮され、一度の投与で根治が期待できる治療法へのアクセス拡大が可能になる見通しです。また、従来の「疾患ごとに個別の臨床試験を行うモデル」に代えて、遺伝的に関連する疾患群をまとめて1つの試験で評価できる仕組みを導入することが認められます[9]

この動きは、今年初めに「ベビーKJ」と呼ばれる患者へのオーダーメイドCRISPR治療が成功した事例に続くものです[10]。これは、規制当局が科学の進歩に歩調を合わせる姿勢を明確に示すものであり、Intelliaの一時停止は短期的な後退にすぎないと私たちは見ています。CRISPRベースの治療革新は今後さらに加速し、個別のブレークスルーがスケーラブルで変革的な治療法へと進化していくと考えられます。

 

3. UberNvidia、ロボタクシー革命に参入するため提携

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

先週、Uber(ウーバー)とNVIDIA(エヌビディア)は提携を発表し、2027年からUberのプラットフォーム上で10万台の自動運転車を展開する計画を明らかにしました[11]。このフリートはNVIDIAGPUによって動作し、約5,000台がStellantis(ステランティス)、約2万台がLucid Motors(ルシード・モーターズ)から供給される予定です。Lucidはこの計画のために2024年の生産台数の2倍以上の供給を約束しています。Uber3億米ドルを追加投資し、サウジアラビアからの既存の15億米ドルの資金を補完する形となります[12] 

複数の自動車メーカー(OEM)パートナーを巻き込むことで、NVIDIAGPU需要の増加という恩恵を受けることになります。一方、Uberにとっては、供給の多様化と長期的な配車コストの削減につながる見込みです。ARKの見解では、この市場が「勝者総取り」型の競争構造であることを踏まえると、Uberはグローバル競合にはやや後れを取る可能性があるものの、サウジアラビア市場では規制面で優位に立つ可能性があります。

すでに、Tesla(テスラ)とWaymo(ウェイモ)は米国でロボタクシーネットワークを運営しており、Baidu(バイドゥ)、Pony.ai(ポニー・エーアイ)、WeRide(ウィーライド)といった中国勢もアジア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)で展開を進めています。Lucidとの関係を考えると、今回のUberNVIDIALucid3社連携もサウジアラビアでの展開が有力と見られます。自動運転ネットワークは自然に地理的独占構造を形成しやすいため、地域単位での支配力確立が鍵となるでしょう。

 

 

 

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[1] OpenAI. 2025. “Built to benefit everyone.”

[2] OpenAI. 2025. “The next chapter of the Microsoft–OpenAI partnership."

[3] OpenAI. 2025. No Title. (Company video regarding restructuring [https://openai.com/live/?video=1131297184].

[4] Meredith, S. “Nvidia becomes first company to reach $5 trillion valuation, fueled by AI boom.” CNBC.

[5] Intellia Therapeutics. 2025. “Intellia Therapeutics Provides Update on MAGNITUDE Clinical Trials of Nexiguran Ziclumeran (nex-z).”

[6] UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2025. “8-K”- Intellia Therapeutics. October 29, 2025.”

[7] Rocket Pharmaceuticals. 2025. “Rocket Pharmaceuticals Announces FDA Has Lifted the Clinical Hold on the Pivotal Phase 2 Trial of RP-A501 for the Treatment of Danon Disease.”

[8] Smith, G. 2025. “FDA Clears Way for Faster Personalized Gene Editing Therapy.” Bloomberg.

[9] 同上

[10] Children’s Hospital of Philadelphia. 2025. “World's First Patient Treated with Personalized CRISPR Gene Editing Therapy at Children’s Hospital of Philadelphia.”

[11] Nvidia. 2025. “NVIDIA Makes The World Robotaxi-Ready With Uber Partnership To Support Global Expansion.”

[12] 同上。The Fly . 2025. “Stellantis announces new collaboration with Nvidia, Uber and Foxconn.” Reuters. 2024. “Lucid gets $1.5 billion cash infusion from Saudi shareholder, beats revenue estimates.” Lucid Team. 2025. “Lucid, Nuro, and Uber Partner on Next-Generation Autonomous Robotaxi Program.”も参照。

 

 

 

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