By ARK Invest
本レポートは、2025年11月10日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #487」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. データセンターは宇宙を周回するようになるのか?
By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst
先週、Alphabet(アルファベット)は「Project Suncatcher(プロジェクト・サンキャッチャー)」を発表し、軌道上AIデータセンターの可能性を探る取り組みを開始しました[1]。これは、SpaceX(スペースエックス)がStarlink V3衛星を使って宇宙にデータセンターを展開する計画を明らかにしたこと[2] 、そしてNVIDIA(エヌビディア)がStarcloud(スタークラウド)と提携し、計算インフラを軌道上に送る構想を示したこと[3]に続くものです。AIインフラをスケールさせる上で、電力不足は重大なボトルネックとなっています。Microsoft(マイクロソフト)のサティア・ナデラ氏は、電力制約によって一部のGPUが稼働できていないと述べています[4]。さらに、ガスタービンの調達待ち期間は約7年に達し、原子力発電も長期的な解決策であることから[5]、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)はAI成長を支える“常時稼働”電力源として宇宙に目を向け始めているのです。
太陽同期軌道にある衛星であれば、ほぼ途切れない太陽光発電が可能で、レーザー通信を使って地球上と接続することで、グローバルで分散型の常時稼働コンピュートレイヤーを構築できると見られています。これまで、打ち上げコストは非常に高く、こうした構想は実現困難でした。しかし、2026年にStarship(スターシップ)が状況を一変させると言われています。イーロン・マスクは、「Starshipは5年以内に、1年あたり100GWの電力を高軌道へ届けられるようになる」と示唆しています[6]。もちろん、これは放熱処理や放射線対策といった課題を克服した場合の話です。
StarshipはARKのオープンソースモデルにとって不可欠な存在ですが、軌道上AIデータセンターのアップサイド(追加的成長余地)はまだモデルには織り込まれていません[7]。
2. AIリーダー各社が収益予測を上方修正、イーロン・マスクはチップの構想を描く
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, AI & Cloud
先週、主要な独立系AI研究所は、AI関連収益が予想以上の速度で拡大しているとの見方を示し、巨大テック企業が進める大規模AI投資プログラムの持続性について、投資家をある程度安心させました。一方、OpenAI(オープンエーアイ)のサム・アルトマン氏は、同社に政府による支援があるという誤ったコメントに反論しつつ、進捗に関する新たな詳細を共有しました[8]。
OpenAIは2025年に130億米ドルという収益目標を大きく上回る見通しであり、今年末には年間換算で200億米ドル超に達する可能性が高いといいます。アルトマン氏は、2030年には「数千億米ドル」の収益を見込んでおり、OpenAIが約1.4兆米ドル規模のインフラ投資をコミットしていることを正当化できると述べています。最近のポッドキャストでは、OpenAIは2027年に1,000億米ドルの収益に達する可能性に言及しましたが、年間収益なのか年換算レートなのかは明確ではありませんでした[9]。
OpenAIの最有力競合企業の一つであるAnthropic(アンスロピック)も同様に収益予測を上方修正しているようです。ロイター通信の10月の報道によると[10]、同社は2024年を年換算10億米ドルという比較的小規模な収益で終えたものの、今年末には年換算90億米ドルに達する見込みだといいます。さらに先週、TipRanksの記事によれば、Anthropicは2028年に700億米ドルの収益を想定しているとされています[11]。
一方、Tesla(テスラ)の年次株主総会では、イーロン・マスク氏が同社のAI5推論チップのスペックをアピールしました。このチップは、ロボタクシー用途でNVIDIAのBlackwellと同等の性能を持ちながら、消費電力は3分の1、コストは10分の1になると予測されています[12]。もしこの予測どおりになれば、Teslaの垂直統合戦略は非常に理にかなったものとなるでしょう。マスク氏は、TeslaのAIコンピュート能力をさらに高めることに集中しすぎて、チップのことを文字どおり夢に見るほどだと冗談めかして語っています。
物理世界でのAI展開における明確なリーダーであるマスク氏は、ロボタクシー、ヒト型ロボット、そして将来的には宇宙データセンターが、TSMC、Samsung、Intelといった半導体大手でも供給しきれないほど大量のチップ需要を生むと考えています。そのボトルネックを解消するために、Teslaはチップ製造に垂直統合し、「TeraFab(テラファブ)」を構築する可能性さえあるといいます。マスク氏は、リチウム調達と同様に、他社がサプライチェーンに投資するよう促す狙いで、こうした巨大需要を示唆している可能性があります。あるいは、莫大なコンピュート能力を必要とする未公表の計画があるのかもしれません。もちろん、イーロンの実現力を考えれば過小評価は禁物ですが、過去5年間におけるIntelの最先端工場建設の苦戦を見ると、難易度の高さは容易に想像できます。
3. イーロン・マスクが思い描く AIチップと“自動運転が当たり前になる未来”
By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies
先週の株主総会で最も注目を集めたのはTesla(テスラ)の新たなチップ工場構想でしたが、自動運転モビリティ戦略に関する重要なアップデートも投資家に共有されました。イーロン・マスク氏は、Full Self-Driving(FSD)が“1~2ヵ月以内”に、運転中にオーナーがテキストメッセージを送れるほどの機能に到達すると述べ、人の見守りを必要としない完全自律走行機能が近く展開されることを示唆しました。また、中国でのFSD承認が2月か3月には得られる見込みであること、そして欧州でのFSD承認に向けて顧客や投資家が声を上げてほしいと呼びかけました。
さらにTeslaは更新された安全データを公開し、FSDを使用する車両は、アクティブセーフティ機能を使わない人間の運転より約5倍安全であることを示しました。この結果は、自動運転によって交通事故が80%以上減少するという、ARKが10年以上にわたり提示してきた見通しと一致しています[13]。同社は、これまでに自社の技術が3万5000件の死亡事故を防いだと推計しており、これは、完全自動運転技術の承認を保留している規制当局に向けた強いメッセージとなっています。
[1] Pichai, S. 2025. “Our TPUs are headed to space!...” X.
[2] Musk, E. 2025. “Simply scaling up Starlink V3 satellites…” X.
[3] Nvidia. 2025. “Space isn’t just for stars anymore…” X.
[4] Boloor, S. 2025. “:MSFT CEO Satya just made one of the most revealing…” X.
[5] Anderson, J. 2025. “US gas-fired turbine wait times as much as seven years; costs up sharply.” S&P Global.
[6] Musk, E. 2025. “Starship could deliver 100GW/year to high Earth orbit…” X.
[7] Maguire, D. et al. 2025. “ARK’s Expected Value For SpaceX In 2030: ~$2.5 Trillion Enterprise Value.” ARK Investment Management LLC.
[8] Altman, S. 2025. “I would like to clarify a few things…” X.
[9] Bg2 P{od. 2025. “All things AI w @altcap @sama & @satyanadella. A Halloween Special. BG2 w/ Brad Gerstner.” YouTube.
[10] Hu, K. and D. Seetharaman. 2025. “Exclusive: Anthropic aims to nearly triple annualized revenue in 2026, sources say.” Reuters.
[11] Melamed, R. 2025. “Anthropic Eyes $70 Billion in Revenue by 2028 as AI Demand Soars.”
[12] Tesla. 2025. 2025 annual Shareholder meeting. YouTube.
[13] 同上。Keeney, T. 2015. “Autonomous Vehicles Will Reduce the Chances of Dying in an Auto Accident by over 80%.” ARK Investment Management LLC.も参照。
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