By ARK Invest

本レポートは、20251117日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #488」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 米国FDAの新制度“合理的な作用機序”が個別化遺伝子治療の扉を大きく開く

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

2週間前、米国食品医薬品局(FDA)の最高医療・科学責任者であるビナイ・プラサド博士が、オーダーメイド治療の提供を加速するための “合理的な作用機序(plausible mechanism)”制度の構想を予告しました[1]。先週、「New England Journal of Medicine に掲載されたFDA論文は、その将来像の初期的な青写真を示しています[2]

FDAの大胆な規制方針転換は、希少疾患を抱える家族がずっと前から理解してきた現実を認めたものでもあります。つまり、多くの遺伝性疾患の生物学的背景は既に十分解明されているということです。今回の新制度では、ある希少疾患の遺伝的原因が明確で、その疾患に直接作用する治療法である場合、FDAが連続した数名の患者データなど、従来よりも簡素化されたエビデンスをもとにして承認審査を行なう可能性が高まります。

この動きは、今年初めに世界の注目を集めた「Baby KJ」のケースを受けたものです[3]KJは、稀少な代謝疾患に対して世界初のカスタムCRISPR治療を受けた乳児であり、その成功が多くの家族に希望を与えると同時に、同様の選択肢を待ち望む患者の切迫した状況も浮き彫りにしました。プラサド博士の発表は、KJの症例が例外ではなく、今後より多くの患者が前例のない治療を受けられる未来をFDAが見据えていることを示唆するものです。 

その影響は医療産業にとって極めて大きいものです。希少疾患ごとに長年かけて治験を積み重ねるのではなく、企業は 共通の作用機序・化学・製造技術を基盤としたモジュール型プラットフォームを開発し、複数の遺伝的変異に拡張できるようになります[4]。こうした場合、生物学的妥当性、標的への作用、臨床的改善が示されれば、わずかな患者から多くの患者への急速な展開が可能となり、開発期間は劇的に短縮するかもしれません。

さらに重要なのは、この新制度が希少疾患だけに限定されない可能性です。FDAは、主に小児・致死性・重度障害を伴う遺伝性疾患を優先するとしつつ、効果的な治療が存在しない一般疾患や、遺伝子編集以外の低分子医薬・抗体治療にも適用範囲を広げ得ると示唆しています。

実際の運用に関する正式なガイダンスはまだ示されていないものの、FDAの方向性は明らかです。規制当局は、科学の進歩のスピードに追いつき、10年も治験結果を待てない患者の切迫したニーズに応えようとしているのです。

 

2. 初期採用者がビットコインを売却、機関投資家は買い増し

By David Puell | @dpuellARK
Research Trading Analyst/Associate Portfolio Manager, Digital Assets

 

今年、ビットコイン価格は、初期採用者と機関投資家の攻防によって振り回されてきました。いわゆる 「ホエール(クジラ:大口保有者)」 は売却している一方で、上場企業やETFは買い増しています。実際、この構図こそが今回の強気相場(ブルサイクル)を特徴づけています。

この現象を捉える指標のひとつが Liveliness(ライブリネス)」 です。ライブリネスとは、これまでに生成されたコイン日数に対して、どれだけの「コイン日数」が破壊(消滅)されたかの比率を測るもので、長期間動いていなかったコインがオンチェーンで移動すると上昇し、保有者が動かずに持ち続けると低下します。現在のライブリネスは 0.89 と、2018年以来の高水準にあり、長期保有者が2021年以来最も高いペースで利益確定していることを示唆しています(下図参照)[5]

SNL-Chart-1

出所:ARK Investment Management LLC, 2025GlassnodeおよびBitcoinTreasuries.netのデータ(20251115日時点)に基づく。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券または暗号資産の売買、保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

 

初期採用者が流動性を市場に供給してきた一方で、機関投資家の需要はその売りを吸収しているように見えます。「Vaulted(ボールテッド)サプライ」とは、ほとんど動かされることのない“停滞コイン” を指しますが、この量は強気相場の進行とともに減少してきました(下図参照)。

具体的には、

  • 2024年初時点:7,969,098 BTC
  • 2025年初時点:7,553,973 BTC
  • 20251115日時点:7,318,450 BTC

となっており、停滞していたコインが市場に放出され続けていることがわかります。

SNL-Chart-2

出所:ARK Investment Management LLC, 2025GlassnodeおよびBitcoinTreasuries.netのデータ(20251115日時点)に基づく。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券または暗号資産の売買、保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

 

これとは対照的に、機関投資家の保有残高は急増しています。米国の現物ビットコインETFが保有するビットコイン数は、以下のとおり大きく増加しています(下図参照)。

  • 2024111日の米国現物ビットコインETFのローンチ時点:0 BTC
  • 202511日時点:1,125,507 BTC
  • 20251115日時点:1,332,379 BTC

つまり、初期採用者による売却を、機関投資家の買いが吸収し続けている構図が、データからも明確に示されています。

SNL-Chart-3

出所:ARK Investment Management LLC, 2025GlassnodeおよびBitcoinTreasuries.netのデータ(20251115日時点)に基づく。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券または暗号資産の売買、保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

 

デジタル資産トレジャリー(DATs)を含む上場企業のビットコイン保有量も増加しています。その推移は以下のとおりです(下図参照)。

  • 2024年初時点:271,996 BTC
  • 2025年初時点:598,995 BTC
  • 20251115日時点:1,056,367 BTC

SNL-Chart-4

出所:ARK Investment Management LLC, 2025GlassnodeおよびBitcoinTreasuries.netのデータ(20251115日時点)に基づく。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券または暗号資産の売買、保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

 

ETFと上場企業のビットコイン保有量を合算すると、1115日時点で 2,388,746 BTC に達しました。202411日から20251115日までの間に、ETFおよび上場企業による純流入に加え、“Vaulted(停滞)サプライ” の減少を合算すると 合計1,466,102 BTC に上り、機関投資家の需要が、初期採用者の売り圧力を相殺してきたことが示唆されます。年初来データも同様で、ネットの変化量(Net Delta)は 428,721 BTC のプラスとなっています。

こうしたデータを総合すると、長期保有者から、ビットコインという新しい資産クラスへの参入を進める機関投資家へと、構造的に供給が移転している ことが分かります。年末から2026年にかけては、機関投資家が米ドル流動性の変化に敏感であることを踏まえると量的引き締め(QT)の終了[6]と金利低下という、私たちが実現の可能性が高いと考える環境は、ビットコイン(BTC)にとって追い風となるでしょう。

 

3. ヒト型ロボットはいつ頃私たちの生活に影響を及ぼし始めるのか?

By Akaash TK | @akaash_ARK
Research Associate

 

ARKの調査によると、ヒト型ロボットは2029年に人間レベルの性能に到達する見込みです。ARKのチーフ・フューチャリストであるブレット・ウィントンが最近指摘したように[7] 、自動運転ロボタクシーと汎用ヒト型ロボットのスケール化の難易度の差は、“段階的”ではなく“桁違い”です。Tesla(テスラ)のAIコンピュート(計算資源)のスケールを踏まえた当社の分析では、ヒト型ロボットをスケール化する難しさは、ロボタクシーの約20万倍にも達する と考えています。

本質的に、自律モビリティは「計算能力(Compute)」と「性能」の関数です。ロボタクシーの場合、コンピュートへの投資が増えるほど、ドライバーの介入なしで走行できる距離が伸びます。この関係を回帰分析することで、自律性を1桁向上させるために必要な“非線形のコンピュート量” をモデル化しました(下図参照)。

SNL-Chart-5

出所:ARK Investment Management LLC, 202520251114日時点の各種外部データソースに基づく。
本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券の売買または保有を推奨するものではありません。

 

イーロン・マスク氏は、ロボタクシーを大規模展開するには、完全自動運転(FSD)が人間の運転能力を上回らなければならないと主張しています[8]。図の破線の円がその水準を示しています。ヒト型ロボットの自律性も、これと同じ軌跡をたどるはずです。

ARKが推定する 20万倍の複雑性比」 は、ヒト型ロボットが現実世界で安定して動作するために必要となる“完成度の高さ”を表しています。当社がすでに確立しているAI改良曲線に基づくと、ロボタクシーより20万倍複雑な自律性の課題を解決するには、莫大なコンピュート(計算資源)が必要になる ことが、上図に示されています。

私たちの分析によれば、ヒト型ロボットは2029年に「人間レベルの性能」を多様なタスクで発揮できるようになる と考えています(下図参照)。初期段階の限定的な機能を持つロボットの商用販売は、今後数年のうちに始まる可能性がありますが、汎用的な性能(generalized performance)には、極めて大規模なコンピュート投資、つまり最低でも1,500億米ドルが必要になるでしょう。

SNL-Chart-6

出典:ARK Investment Management LLC, 2025年。本ARK分析は20251114日時点の外部データソースを基にしており、要請に応じて提供可能です。情報提供のみを目的としており、特定の証券の売買・保有を勧める投資助言とはみなされません。

 

 

 

 

 PDFをダウンロードする

 

 

 

[1] Smith, G. 2025. “FDA Clears Way for Faster Personalized Gene Editing Therapy.” Bloomberg.

[2] Prasad, V. and Makary, M. A. 2025. “FDA’s New Plausible Mechanism Pathway."

[3] Children’s Hospital of Philadelphia. 2025. “World's First Patient Treated with Personalized CRISPR Gene Editing Therapy at Children’s Hospital of Philadelphia."

[4] Astria Therapeutics / ACURO Research. 2025. “Recruitment Challenges for Rare Disease Clinical Trials: A Systematic Review."

[5] 本稿に使用したすべてのデータは、2025年11月15日時点の Glassnode およびnet に基づく。

[6] 量的引き締め(QT)とは、連邦準備制度(FRB)が保有する米国債を売却したり、償還によって保有残高を減らしたりすることで、バランスシートを縮小させる金融政策を指す。このプロセスは金融市場の流動性を低下させ、インフレ圧力を抑え、経済の過熱を防ぐことを目的として実施される。

[7] Winton, B. 2025. “Tesla Continues On The Challenging Road To Optimus.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[8] Tesla. 2025. “Tesla Releases Fourth Quarter and Full Year 2024 Financial Results."

 

 

 

ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.

ARK Invest

About the author

ARK Invest Read more articles by ARK Invest