By ARK Invest

本レポートは、20251124日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #489」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. Gemini 3GoogleAI支配力を確立するのか?

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst

 

先週、GoogleGemini 3 ProGemini 3 Deep Thinkを発表しました。これらは同社にとってこれまでで最も重要なAIモデルになる可能性があります[1]。初期の評価によると、Gemini 3は複数の最先端モデル・ベンチマークでトップに躍り出ており、Humankind’s Last Exam(学術的推論)、AIME 2025(高等数学)、GPQA Diamond(大学院レベルの科学的推論) などのテストでAnthropicOpenAIを上回っています。また、Gemini 3は自動販売機ビジネスを運営するための計画力・推論力を測る VendingBench 2[2]でも最高スコアを記録しました。

こうした性能向上により、Googleは強力なフロンティアAIの競合企業としての地位を確立しました。同社は他にない規模の配信網、データ資産、研究力を有しています。実際、Gemini 3Googleのフルスタック戦略の強さを示しています。Googleは自社製のTPUTensor Processing Unit)インフラでモデルを学習させていますが、他のモデル企業の多くは NVIDIAAMDなど外部のアクセラレータに依存しています[3]。ハードウェア、クラウド基盤、モデル設計、製品レイヤーをすべて自社で垂直統合している点で、Googleは分断されたサプライチェーンに依存する競合との差別化を続けています。

Googleの垂直統合アプローチは、モデルだけにとどまりません。複雑なマルチステップ作業に対応する新しいエージェントプラットフォーム「Gemini Agent[4]、そしてAIを活用した新たなコーディング環境「Google Antigravity[5]。この2つにより、Googleはシリコンからソフトウェア、そして消費者向け規模の配信に至るまで、スタック全体でイノベーションを牽引する AIの総合的リーダー としての地位を固めています。

Gemini 3はフロンティアモデルであると同時に、Googleのインフラ・研究力・製品統合の組み合わせが、次世代AI時代における支配力を決定づける可能性を示す存在でもあります。

 

2. Blockが技術的原点回帰へ

By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate

 

先週開催されたBlock(ブロック)の投資家向け説明会では、ジャック・ドーシー氏が再び前線に立ち、同社が攻勢に転じつつあることが明確になり、また技術的な原点回帰とプロダクト開発スピードの再加速が強調されました[6]Square(スクエア)とCash App(キャッシュ・アップ)の事業ごとの縦割り組織を機能別チームに再編し、ドーシー氏はここ数年で失われていたプロダクト開発の勢いを取り戻す考えを示しました。

同社は、オープンソースのAIエージェントフレームワーク「G2(通称“Goose”)」を基盤に、自動化を中核能力として強化し、同社の二者間ネットワーク全体で大きなレバレッジを効かせ始めています。加盟店向けには、Squareの新しい「Manager Bot(マネージャー・ボット)」が“AI版最高執行責任者(AI COO)”として機能し、手作業の業務を自動化するとともに、Squareの販売事業者がより効率的にビジネスを運営できるよう洞察を提供します。消費者向けには、「Money Bot(マネー・ボット)」が“パーソナル最高財務責任者(個人CFO)”として、Cash Appユーザーに予算管理、資金計画、日々の金融判断に関するガイダンスを提供します。

おそらく最も重要なのは、ドーシー氏が強調した“Neighborhoods(ネイバーフッズ)です。これはCash App利用者を近隣のSquare店舗と結びつける野心的な構想で、Blockの二者間ネットワークを活かして地域コマースのフライホイールを生み出す可能性があります。ロイヤリティポイントに加え、決済手数料は1%と、従来のカードネットワークが課す2.5%の半分以下であるため、NeighborhoodsBlock全体のエコシステムでエンゲージメントを一段と深める潜在力を秘めています。

私たちは、これらの新サービスは同社がテクノロジー・ファーストの原点へ回帰している兆候を示していると考えています。そしてすでに、プロダクトの勢いが再び加速し始めている兆しが見られます。

 

3. AbbottによるExact Sciencesの買収は、医療提供の変革への戦略的な賭けなのか?

By Ovid Amadi, PhD | @ARKInvest
Multiomics Portfolio Manager & Director of Research

 

先週、Abbott(アボット)は、スペシャルティ診断ラボ企業であるExact Sciences(イグザクト・サイエンシズ)を210億米ドルで買収すると発表しました[7]。これは、これまでで最大の診断領域における取引です。Exact Sciencesは、Cologuard(コロガード)やOncotype(オンコタイプ)DXといった主要事業を擁し、がん診断およびマネジメントに特化しています。また、微小残存病変(MRD)や大腸・肝臓・多発がんスクリーニング向けの次世代血液ベースのリキッドバイオプシー検査を豊富に開発中です。 

この買収は、Abbottの診断事業の成長を強化すると同時に、リキッドバイオプシー分野の巨大な市場機会を浮き彫りにするものです。また、ヘルスケア市場のこの領域における統合の初期段階において、戦略的な価格形成にも寄与する可能性があります。

近年、この新興分野のさまざまな領域で成功を収めている企業がいくつかあります。計測可能な微小残存病変(MRD)検査のNatera(ナテラ)[8]、血液ベースの大腸がん(CRC)スクリーニングのGuardant(ガーダント) [9]、多発がん早期発見のGrail(グレイル)[10]などです。こうした巨大市場が、Abbottに中央ラボビジネス(患者サンプルを処理する業務)への参入を促しました。これは、同社のポイント・オブ・ケアやキットを中心とした従来モデルとは異なるアプローチです。経営陣はコスト相乗効果を引き出すことよりも、グローバル規模を活かして成長加速に注力する姿勢のようです。 

とはいえ、Abbottは競争や償還(保険適用)に関連する大きな課題に直面する可能性があります。診断テストは開発の過程で、対象となる患者集団が大きく多様になるほど、一般的に性能が低下します。スクリーニングラボは、感度(疾病のある人を正しく陽性と判定する能力)と特異度(疾病のない人を正しく陰性と判定する能力)の最適化が求められます。

特に多発がんの早期発見においては、がんの有病率が低いため、健康な患者に不要で精神的負担の大きい診断プロセスを強いることを避けるために、「偽陽性」は1%未満に抑えなければなりません。最も成功する企業は、膨大なデータを収集し、アルゴリズムを学習・改良することで検査の精度を高めていきます。

私たちの見解では、AbbottによるExact Sciencesの買収は、いわゆる「シックケア」から「ヘルスケア」への移行が始まっていることを示しています。このテーマは広く議論されているものの、十分に償還されているとは言えません。技術は急速に進歩し、対象市場は極めて大きく、臨床的有用性も明確である一方で、支払いシステムは変化に消極的です。

AbbottによるExact Sciencesの買収は、早期発見、AI強化診断、血液ベースのスクリーニングがヘルスケア提供の基盤となるよう、業界構造が再編されていくという戦略的な賭けのように見えます。

 

4. MSCI の最近の上場廃止の発表はビットコインの価格に影響を与えたか?

By David Puell | @dpuellARK
Research Trading Analyst/Associate Portfolio Manager, Digital Assets

 

1010日、仮想通貨市場のフラッシュクラッシュによって190億米ドル相当のアカウントが吹き飛んだ日[11]MSCI(エムエスシーアイ)は、主要な複数の株式指数からStrategyMSTR、マイクロストラテジー)を除外する可能性を検討していると発表しました。この発表は、デジタル資産が企業の財務の50%以上を占める企業に焦点を当てたものでした。 

1120日、JPMorganは、MSCIMSTRを各種指数から除外する決定を下した場合、パッシブ指数ファンドから約28億米ドルの資金流出が発生し、他の指数プロバイダーが同様のルールを採用した場合には約88億米ドルに達する可能性があると報告しました。MSCI指数やNasdaq 100(ナスダック100)をベンチマークとするパッシブファンドは、MSTR株の約15%を保有しています[12]。ベンチマークに敏感なアクティブ運用の株式マネジャーも、売り圧力をさらに強める可能性があります。 

1121日時点で、Strategy649,870 BTC(ビットコイン供給量の約3%)を保有しており、その価値は546.9億米ドルでした[13]。平均取得価格は74,430米ドルで、Strategyが保有するビットコインの含み益はわずか13%にとどまっています。時価総額が490億米ドル、完全希薄化後の時価総額が550億米ドル、企業価値(Enterprise Value)が640億米ドルです。StrategymNAV [14]0.89、完全希薄化後mNAV0.99、企業価値ベースのmNAV1.16です。最初の2つの指標に基づくと、MSTR株はビットコイン保有価値に対して割安で取引されていますが、企業価値ベースでは依然として割高となっています。

MSCIの指数における今回の変更の審査期間は115日に終了する見込みです。より長期的には、Strategyの時価総額と企業価値は、ビットコイン採用の進展、流動性環境、規制動向に左右されることになるでしょう。

 

 

 

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[1] Pichai, S. et al. 2025. “A new era of intelligence with Gemini 3.” Google Product News.

[2] Andon Labs. 2025. “Vending-Bench 2.”

[3] Google. 2025. “Gemini 3 Pro Model Card.”

[4] Woodward, J. 2025. “Gemini 3 brings upgraded smarts and new capabilities to the Gemini app.” Google Product News.

[5] Google. 2025. "Google Antigravity. Experience liftoff with the next-generation IDE."

[6] Block. 2025. “Block Investor Day 2025.”

[7] Abbott. 2025. “Abbott To Acquire Exact Sciences, A Leader In Large And Fast-Growing Cancer Screening And Precision Oncology Diagnostics Segments.”

[8] Natera. 2025. “Natera Reports Third Quarter 2025 Financial Results.”

[9] Guardant. 2025. “Guardant Health Reports Third Quarter 2025 Financial Results and Increases 2025 Revenue Guidance.”

[10] Grail. 2025. “GRAIL Reports Second Quarter 2025 Financial Results.”

[11] Benjamin, G. 2025. “$19.35 Billion in 24 Hours, Largest Crypto Liquidation Event Recorded.” Coinspeaker.

[12] Canny, w. 2025. “JPMorgan Warns MSCI Decision Could Force Strategy Out of Top Equity Indices.” CoinDesk

[13] BitcoinTreasuries.Net. 2025. “Strategy.”

[14] 一般に「market-to-bitcoin NAV」として知られるmNAVは、上場企業の想定評価額を、その企業が保有するビットコイン価値で割った指標。

 

 

 

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