By ARK Invest
本レポートは、2026年1月20日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #494」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. クレジットカード金利(APR)上限規制が消費者金融の“次の主役”への移行を加速させる
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
先週末、トランプ大統領は、クレジットカードの年率金利(APR)に1年間、上限10%を設ける案を提唱しました[1]。仮にこの規制が導入されれば、消費者向け融資市場に大きな歪みをもたらす可能性があります。クレジットカードのエコシステムは極めて競争が激しく、無担保・リボルビング型信用においては、金利収入が経済的な原動力となっています。特にサブプライム層では、高いAPRが高水準の貸倒れリスクを相殺しています。APRに10%の上限が設けられれば、銀行は与信審査の厳格化、利用限度額の引き下げ、ポイント還元などの特典削減を余儀なくされ、結果として信用へのアクセスが制限される可能性が高いと考えられます。
こうした懸念は、銀行トップからも示されています。JPMorgan ChaseのCEOであるジェイミー・ダイモン氏は、金利上限が導入されれば広範な信用アクセスの喪失につながりかねないと警鐘を鳴らしました。また、Bank of AmericaのCEOブライアン・モイニハン氏も、上限金利の引き下げはクレジット供給を収縮させ、カードの利用可能性や残高の双方を減少させると指摘しています。
従来型の消費者信用が引き締められると、需要そのものが消えるわけではなく、個人向けローンや「Buy Now, Pay Later(BNPL)」といった代替型の融資モデルへと移行します。SoFiのCEOアンソニー・ノト氏によれば、金利9〜13%のSoFiの個人向けローンは、20〜30%に達するクレジットカードAPRよりも条件の透明性が高く、利用者に残高返済を促す設計になっているといいます。BNPLの導入も加速しています[2]。Block傘下のAfterpayは、Z世代の消費者の63%がクレジットカードから離れていると報告しています。また、ブラックフライデーからサイバーマンデー(BFCM)にかけたBNPL分割払いの96%が期日通りに支払われたことも明らかにしており、これはより健全な返済行動と、消費者金融における代替型信用の役割拡大を示唆しています[3]。
重要なのは、トランプ大統領の提案する法案が成立しなかったとしても、高水準のAPRに対する監視が強まることで、リボルビング型信用の真のコストが可視化されつつある点です。その結果、代替型消費者金融プラットフォームの価値提案は、今後さらに強化されていくと考えられます。
2. Tesla、完全自動運転(FSD)の“売り切り”をやめサブスクリプションモデルへシフト
By Autonomous Technology & Robotics Team | @ARKInvest
Daniel Maguire, ACA & Tasha Keeney, CFA
先週、イーロン・マスク氏は、Teslaが2月14日以降、フルセルフドライビング(FSD)ソフトウェアの一括購入オプションを終了すると発表しました[4]。現在、一括価格は8,000米ドルに設定されていますが[5]、今後米国では月額99米ドルのサブスクリプションモデルに一本化されます[6]。この発表は、テスラ・コミュニティ内で大きな議論を呼んでいます。
この移行は、FSDをSoftware as a Service(SaaS)として展開する自信の表れとも考えられる一方、マスク氏の2025年CEO業績連動報酬パッケージに盛り込まれた「1,000万件のサブスクリプション」達成という運営上のマイルストーン[7]や、2月14日までにマーケティング手法を見直さなければFSDの販売が制限される可能性のある、カリフォルニア州での規制圧力[8]とも整合的です。
ARKの見方では、このモデル変更自体は二次的であり、より重要なのは、FSDの第14世代への進展、オースティンでの監視不要(unsupervised)ロボタクシー運行[9] 、そして第2四半期の量産開始を予定するCybercabに向けたテスト[10]です。これらはいずれも、2026年がロボタクシー事業拡大の分水嶺となることを示しています。なお、ARKは公開しているTeslaの評価モデルにはFSDのサブスクリプション収益を含めていません。というのも、この事業は、1台あたり年間数千米ドルのキャッシュフローを生み出し得る、フリート型ロボタクシーサービスに比べて、相対的に小さくなると考えているためです。
ARKは、一般消費者にとっての監視不要FSDの価値を、年間約8,000米ドルと試算しています。これは、米国のドライバーが1日平均約1時間を車内で過ごしていることに加え、個人の自由時間(運転時間の約80%)は時給の半分、通勤時間(約20%)は時給の全額として評価されるとする研究結果に基づいています[11]。月額99米ドル、年額999米ドルという価格設定は極めて割安であり、技術が完全自動運転に近づくにつれて、Teslaの価格決定力はさらに高まることを示唆しています。
ARKのリサーチによれば、2029年にはテスラの企業価値(EV)の約90%をロボタクシー事業が占める可能性があります[12]。今週公表予定の『Big Ideas 2026』レポートでは、ロボタクシーを取り巻く最新の見解を共有する予定です。
3. OpenAI、Cerebras製チップで計算基盤ロードマップをさらに拡張
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst
先週、OpenAIは、チップスタートアップのCerebras(セレブラス)と3年間の契約を締結し、750メガワット分の計算能力を確保したと発表しました[13]。この取引の規模は約100億米ドルと見積もられています[14]。OpenAIのより広範なインフラ構想と比べれば控えめではあるものの、この契約は、急速に拡大するOpenAIの計算資源パートナー群に新たに加わるものです。すでにOpenAIは、AMD(6ギガワット) [15]、Broadcom(ブロードコム)(10ギガワット) [16]、NVIDIA(10ギガワット) [17] といった企業と提携しています。 2025年10月時点で、OpenAIは総計約30ギガワットの計算能力にコミットしており、その累計投資額は1.4兆米ドル超に達しています[18]。
こうした背景の中で、Cerebrasとの取引が際立つのは、規模そのものよりも戦略的な意味合いにあります。Cerebrasのアーキテクチャは、積層型の高帯域幅メモリ(HBM)や高密度インターコネクトに依存するのではなく、膨大な容量のSRAM(スタティックRAM)を単一のシリコン・ウェハー上に搭載している点が特徴です。アクセラレーターの大部分を1チップ上に集約することで、データ移動量を削減し、ネットワーキング負荷を最小化すると同時に、特定のワークロードにおける推論速度を大幅に向上させます。例えば、1秒あたり約3,000トークンのスループットを実現しており[19]、これはOpenAIのOSS-GPT-120Bのようなモデルを従来型GPUで動かした場合の約200トークン/秒の15倍に相当します。また、このアーキテクチャははるかに大きなコンテキストウィンドウを可能にしており、エージェント型システムや長時間の推論タスクにとって重要な要件を満たします。
OpenAIにとって、Cerebrasとの提携は、慢性的な計算資源不足に直面する中での供給拡大であると同時に、将来のコンシューマー向けデバイスやリアルタイム・アプリケーションを支え得る、超低レイテンシかつ高スループットな推論能力へのアクセスを意味します。一方Cerebrasにとっても、この契約は世界有数のAI研究機関からの大きな信任票であり、同社が220億米ドル規模の評価額を目指しているとの報道[20]を裏付けるものです。これは、わずか数ヵ月前の約81億米ドルからの大幅な上昇となります。AIワークロードが学習中心から大規模なリアルタイム推論へと多様化する中で、Cerebrasの特化型アーキテクチャは、汎用GPUの性能とスピードをさらに引き出す存在となる可能性があります。
4. Google×Shopifyの新プロトコルがエージェント型コマース競争を加速
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
オンライン・コマースは、いま大きな変革の入口に立っています。消費者が商品探索においてAIを活用した検索へと移行する中、検索から購入(チェックアウト)までの一連の購買体験が、AIインターフェース内で完結する可能性が高まっています。OpenAIはその先陣を切り、Agentic Commerce Protocol(ACP)を発表しました。これは、AIエージェントがユーザーに代わって商品を閲覧し、購入できるようにするための仕組みです。
そして今、競争はさらに加速しています。GoogleとShopify(ショッピファイ)が共同で立ち上げた新プロトコル、Universal Commerce Protocol(UCP)[21]が登場したためです。UCPは、AIシステムが小売業者の商品在庫やチェックアウト機能と直接やり取りできるようにするフレームワークです。UCPを通じて、Googleは商品検索、カスタム割引コードの適用、ロイヤルティプログラムの統合を、ユーザーを小売サイトへ遷移させることなく実行できます。今後、このUCP対応のショッピング体験は、SearchのAI ModeやGeminiアプリ全体に展開され、月間約6億5,000万人のアクティブユーザーにリーチするとともに、加盟店にとって極めて大きな新たな流通チャネルとなる見込みです。
消費者行動が変化する中で、このシフトは大きな意味を持ちます。手動での商品閲覧がAIエージェントに置き換わるにつれ、小売業者は、自社の商品データをエージェント型システムがアクセス可能で、かつ理解できる形で提供する必要に迫られます。実際、Shopify、Etsy(エッツィー)、Walmartといった主要プラットフォームは、OpenAIのACPとGoogleのUCPの双方に向けて在庫データを提供しています。
AI時代において、エージェントへの対応可否は競争優位性そのものになりつつあります。AIエージェントは、アクセスでき、かつ理解できる商品しか推薦・取引できないため、エージェント型コマースと接続されていない小売業者は、次第に取り残されていく可能性があります。
5. J.P. Morgan Healthcare Conference、がん診断のブレークスルーに注目
By Ovid Amadi | @ARKInvest
Multiomics Portfolio Manager and Director of Research
先週開催された第44回 J.P. Morgan Healthcare Conference(J.P.モルガン・ヘルスケア・カンファレンス)では、がん診断分野において、「ビジョン重視」の構想段階から、臨床面・財務面の双方で測定可能な成果へと移行が進んでいることが強調されました。Tempus AI(テンパス・エーアイ)は、総契約額(TCV)が10億米ドル超に達する堅調なデータ事業を紹介しました[22]。バイオ医薬品企業パートナーからの需要が引き続き拡大する一方で、同社は急成長を管理するためデータ提供のペースを調整しつつ、データおよびアプリケーション事業で年率30%の成長を目標としています。
もう一つの注目点は、微小残存病変(Minimal Residual Disease:MRD)検査が、がん患者ケアを改善するツールとして実証段階に入ったことです。Natera(ナテラ)は、同社のSignatera(シグナテラ)において過去最高の四半期実績を報告しました。これは、前年同期比55%の検査ユニット増[23]によるもので、その一因となったのがIMvigor011試験です。この試験では、ctDNA陽性患者が、より広範な患者群では効果が見られなかったアテゾリズマブからも恩恵を受けることが示されました。この結果は、MRD検査が、さまざまな治療法に反応しやすい患者を特定できることを裏付ける、分野における重要なマイルストーンです[24]。一方、Guardant Health(ガーダント・ヘルス)は、大腸がんの早期発見を目的としたShield(シールド)検査において、初年度としては好調なスタートを切り、8万7,000件の検査実施を報告しました[25]。
今年はまた、「パッシブAI診断」という新たなパラダイムも際立ちました[26]。その代表例がTempus AIのアプリ事業です。同事業は現在、約12.5億米ドルの売上基盤のうち1,000万〜1,500万米ドル規模にとどまっていますが、AIベースのアルゴリズム群によって、将来的には最大の事業部門へと成長する可能性があります。同社はすでに、既存の心電図(ECG)データを解析し、12ヵ月以内の心房細動(AF)リスクを予測するFDA承認済みアルゴリズムで初期の成果を上げています。この検査には、1件あたり128米ドルの請求を可能にする専用のCPT(Current Procedural Terminology)コードが設定されており、この「インテリジェント診断」モデルは極めて高いスケーラビリティを備えています。仮に、35,000件のECG記録を有する100病院でリアルタイム運用された場合、Tempusの解析ソフトウェアは2億米ドルの売上を生み出す可能性があります[27]。このモデルでは、AIがバックグラウンドで機能し、脳卒中の予防に寄与します。
個別化がんワクチン、すなわち個別化ネオアンチゲン療法(INT)は、2026年のダークホースとなる可能性があります。Personalis(パーソナリス)は、Moderna(モデルナ)向けにシーケンシングエンジンとして重要な役割を担っており、免疫系ががん細胞を認識・破壊できるようにするカスタムINTの構築に必要な、腫瘍特異的抗原の特定を行なっています[28]。さらに、記憶T細胞を通じて再発を防ぐ点も特徴です。第3相試験データは今年後半に公表予定であり、順調に進めば、2028年には商業サンプルの処理が可能になると見込まれています。
[1] Trump, D.J. 2026. “Please be informed…” Truth Social.
[2] Noto, A. 2026. “Yes, sir. If this is enacted…” X.
[3] Block. 2026. “Afterpay Data Reveals 96% of U.S. Customers Paid Off Black Friday Cyber Monday Purchases Early or On Time, Demonstrating Responsible Spending During Peak Shopping Season.”
[4] Musk, E. 2026. “Tesla will stop selling FSD after Feb 14….” X.
[5] Tesla. 2026. “Model Y.”
[6] Tesla. 2026. “Full Self-Driving (Supervised) Subscriptions.”
[7] Merritt, S. 2026. “Here are eight things that come to my mind with this announcement:…” X.
[8] CleanTechnica. 2026. “Ah, THIS Is Why Tesla ‘Full Self Driving’ Sales End On February 14.”
[9] Elluswamy, A. 2026. “It’s an amazing experience!” X.
[10] Motley Fool Transcribing. 2025. “Tesla (TSLA) Q3 2025 Earnings Call Transcript.”
[11] Sources: ARK Invest, U.S. Department of Transportation. 2016. “Revised Departmental Guidance on Valuation of Travel Time in Economic Analysis.” U.S. Department of Transportation. 2017. “Summary of Travel Trends.” AAA Foundation for Traffic Safety. 2024. “American Driving Survey: 2023.” U.S. Bureau of Labor Statistics. 2026. “Table B-3. Average hourly and weekly earnings of all employees on private nonfarm payrolls by industry sector, seasonally adjusted.”
[12] Keeney, T.et al. 2024. “ARK’s Expected Value For Tesla In 2029...” ARK Investment Management LLC.
[13] Cerebras. 2026. “OpenAI Partners with Cerebras to Bring High-Speed Inference to the Mainstream.”
[14] OpenAI. 2026. “OpenAI partners with Cerebras.”
[15] OpenAI. 2025. “AMD and OpenAI announce strategic partnership to deploy 6 gigawatts of AMD GPUs.”
[16] OpenAI. 2025. “OpenAI and Broadcom announce strategic collaboration to deploy 10 gigawatts of OpenAI-designed AI accelerators.”
[17] Nvidia. 2025. “OpenAI and NVIDIA Announce Strategic Partnership to Deploy 10 Gigawatts of NVIDIA Systems.”
[18] OpenAI. 2025. “Live Video.” [https://openai.com/live/?video=1131297184]
[19] Cerebras. 2025. “Get Instant AI Inference.”
[20] King, I. et al. 2026. “Cerebras in Discussions to Raise Funds at $22 Billion Valuation.” Bloomberg.
[21] Shopify. 2026. “The agentic commerce platform: Shopify connects any merchant to every AI conversation.”
[22] Tempus. 2026. “Tempus Achieves Record Total Contract Value Exceeding $1.1 Billion.”
[23] Natera. 2026. “Natera Announces Strong Preliminary Fourth Quarter and 2025 Financial Results Driven by Record Signatera™ Growth.”
[24] Powles, T. et al. 2025. “ctDNA-Guided Adjuvant Atezolizumab in Muscle-Invasive Bladder Cancer.” The New England Journal of Medicine.
[25] Guardant Health. 2026. “Guardant Health Announces Preliminary Fourth Quarter and Full Year 2025 Results.”
[26] TempusAI. 2026. “44th Annual J.P. Morgan Healthcare Conference.”
[27] 同上
[28] Merck. 2024. “Moderna & Merck Announce 3-Year Data For mRNA-4157 (V940) in Combination With KEYTRUDA® (pembrolizumab) Demonstrated Sustained Improvement in Recurrence-Free Survival & Distant Metastasis-Free Survival Versus KEYTRUDA in Patients With High-Risk Stage III/IV Melanoma Following Complete Resection.”
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