By ARK Invest
本レポートは、2026年2月9日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #497」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. AIの進展が加速し、巨額の設備投資(CapEx)を促している
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, AI & Cloud
先週は、相次ぐプレスリリースやAI企業の決算発表があり、市場は消化すべき情報に溢れました。月曜日には、OpenAIがCodexアプリを発表しました[1]。このアプリは、複数のAIエージェントを連携させ、デスクトップ上で複雑かつ時間のかかるタスクを完了できるようにするものです。Codexは、Anthropic(アンソロピック)のClaude Codeに対抗するOpenAIの回答であり、Claude Codeは昨年初めのローンチ以降わずか6ヵ月で人気が爆発し、年間収益ランレート10億米ドル規模のプロダクトへと成長しました[2]。
Anthropicは先月発表したプロダクト「Claude Cowork」向けに、オープンソースの「プラグイン」一式を公開しました。これによりClaudeは、法務、金融、バイオメディカル研究といった分野におけるさまざまな職種で、構造化されたワークフローを実行する方法を学習します。
AIが従来型ソフトウェアとより直接的に競合し始めているのではないかという懸念も高まりました。AIモデルによってコーディングコストが急低下し、既存ソフトウェアの競争優位性(モート)が弱まる中、こうした懸念を背景に、火曜日には米国のソフトウェア株の時価総額が約3,000億米ドル減少しました[3]。
木曜日には、OpenAI [4]とAnthropic [5]の両社が、長時間かつ高度に複雑なタスクにおける性能を向上させた新たなフロンティアモデルを発表しました。特にOpenAIは、GPT-5.3-Codexが自己学習によって自らを訓練した初のモデルであると主張しています。さらにOpenAIは、Frontier [6]と呼ばれるエンタープライズ向けサービスも発表しました。これは、Palantir(パランティア)のFoundryプラットフォームから着想を得たもので、基幹システムに蓄積された業務コンテキストをAIエージェントに供給し、ビジネスワークフローへの導入を促進することを目的としています。
ARKの「Big Ideas 2026」[7]で強調している通り、AIのフロンティアを拡大していくには莫大なインフラ投資が必要となります。先週は、クラウドプロバイダー各社の好調な決算発表を横目に、こうしたインフラ投資が市場の注目を集めました。投資家からは、MicrosoftがAzure向けに十分なGPUを割り当てていないのではないかという声が上がる一方で、GoogleやAmazonは、市場予想を大きく上回る設備投資計画を発表しました[8]。
短期的な収益性には逆風となるものの、AIインフラに投じられる数千億米ドル規模の投資は、AIがあらゆる産業にもたらすと私たちが考える大幅な生産性向上を通じて、長期的には大きなリターンを生み出す可能性が高いと見ています。
2. 既存自動車メーカーに広がる未来戦略からの後退
By Akaash TK | @akaash_ARK
Research Analyst
先週、Stellantis(ステランティス)はEV関連で260億米ドルの減損処理を発表しました[9]。Volkswagen(フォルクスワーゲン、60億米ドル) [10]、GM(ゼネラル・モーターズ、76億米ドル) [11]、Ford(フォード、195億米ドル) [12]に続くものであり、既存自動車メーカーの間で、EVから内燃機関(ICE)やハイブリッド車へと資本配分を戻す動きが広がっていることを浮き彫りにしています。業界では、こうした判断を「現実的」な対応として正当化していますが、私たちは、彼らが「未来」への投資を見送る決断をしたと考えています。
これらの減損処理は、既存自動車メーカーが電気自動車の製造をスケールさせることに失敗していることを示しており、その結果、将来的に競争力を失う可能性が高いと考えられます。もし電動化の未来に本気でコミットしているのであれば、世界各地で生産台数を拡大し、価格を引き下げ、需要を創出しているはずです。対照的に、中国では政府補助金や手頃な価格を背景に、EVの普及が急速に進んでいます。
ARKのリサーチによれば、EVの普及を阻んできたのは消費者ではなく、メーカー側です。米国のTeslaや、世界の他地域で展開するBYD(比亜迪)のように、垂直統合を極めた企業は、スケール拡大を進め、大衆市場での需要喚起を始めています。私たちは、電池式電気自動車の運行コストがガソリン車のおよそ3分の1になると見込まれる中、今後5年以内に、世界の自動車販売の主流になると考えています。
3. OpenAIとGinkgoが示す、AI・ロボティクス・生物学の融合
By Ovid Amadi, PhD | @Ovid_ARK
Multiomics Portfolio Manager and Director of Research
先週、Ginkgo Bioworks(ギンコ・バイオワークス)とOpenAIは、AI・生物学・ロボティクスの融合が、バイオテクノロジー分野の生産性を大きく高める可能性を示す発表を行ないました[13]。両社は、創薬プロセスにおける重要なループを閉じることを目指しています。人の介在なしに、自律型ロボティックラボを用いて実験を実行し、データを生成し、その結果をAIモデルに投入しながら、システムを反復的に改善していく仕組みです。
両社が注力しているのは、無細胞タンパク質合成(CFPS)と呼ばれる合成生物学のプロセスで、これは多くの下流アプリケーションを支える基盤技術です。完全に自動化されたAI主導の実験サイクルにより、人間の研究者がこれまで探索してこなかった試薬の非直感的な組み合わせを特定できるようになります。2ヵ月間にわたり複数回の合成を重ねた結果、AIを活用したCFPSでは、コストが約40%、試薬使用量が約57%それぞれ低下し、従来は極めて複雑かつ高コストとされてきたシステムが大幅に改善されました[14]。
このブレークスルーが重要である理由はいくつかあります。多変量かつデータ集約型である自動化CFPSでは、必ずしも試薬使用量が減るとは限らず、むしろ増加する場合もあります。AIは、新規治療薬の開発および製造に関わる工程を効率化し、実験スピードを高めると同時に、従来手法よりも低コストで多くの情報を生み出します。
今回のGinkgoとの協業は、OpenAIがAIを活用して創薬を前進させるバイオテクノロジー企業を支援し、下流でロイヤルティを獲得するという関心とも合致しています[15]。また、創薬におけるデータ生成と垂直統合の重要性を改めて浮き彫りにしています。多くのAI創薬企業は、独自のウェットラボを保有し、新規データセットを創出してモデルを訓練しています。一方で、すべての企業がそうした垂直統合を望んでいるわけでも、実行できるわけでもありません。この点が、Twist Biosciences(ツイスト・バイオサイエンシズ)のように、AI対応の独自生物学データセットをサービスとして提供するプラットフォームにとっての機会を生み出しています[16]。
最終的に、今回のOpenAIとGinkgoの発表が示しているのは、単なるコスト削減ではなく、ひとつの設計図です。それは、生物学を分析するだけでなく、自ら実験を実行し、結果から学習し、プロセスを改善し、さらなる価値創出のためにリソースを解放するAIシステムの姿です。
[1] OpenAI. 2026. “Introducing the Codex app.”
[2] Anthropic. 2025. “Anthropic acquires Bun as Claude Code reaches $1B milestone.”
[3] Muir, D. 2026. “$300 Billion Evaporated. The SaaS -Pocalypse Has Begun.” Forbes.
[4] OpenAI. 2026. “Introducing GPT-5.3-Codex.”
[5] Anthropic. 2026. “Introducing Claude Opus 4.6.”
[6] OpenAI. 2026. “Introducing OpenAI Frontier.”
[7] ARK Investment Management LLC. 2026. “Big Ideas 2026.”
[8] Ping, Y. B. 2026. “CNBC Daily Open: Amazon’s projected capex dwarfs that of its peers — which have already spooked markets.”
[9] Stellantis. 2026. “Stellantis Resets its Business to Meet Customer Preferences and to Support Profitable Growth.”
[10] Volkswagen Group. 2025. “Volkswagen AG adjusts 2025 forecast in light of the effects of changes in product planning and the medium-term ambition of Dr. Ing. h.c. F. Porsche AG.”
[11] UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2026. “Form 8-K General Motors Company.”
[12] Ford. 2025. “Ford Follows Customers to Drive Profitable Growth; Reinvests in Trucks, Hybrids, Affordable EVs, Battery Storage; Takes EV-Related Charges.”
[13] OpenAI. 2026. “GPT-5 lowers the cost of cell-free protein synthesis.”
[14] Smith, A.A. 2026. “Using a GPT-5-driven autonomous lab to optimize the cost and titer of cell-free protein synthesis.” bioRxiv.
[15] Bass, D. 2026. “Altman Says OpenAI May Back Frims Using AI for Drug Discovery.” Bloomberg.
[16] Twist Biosciences. 2026. “Fiscal 2026 Q1 Financial Results.”
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