By ARK Invest
本レポートは、2026年2月17日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #498」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. SpaceX、月へ軸足を移す
By Daniel Maguire, ACA & Tasha Keeney, CFA | @ARKInvest
Autonomous Technology & Robotics Team
先週、イーロン・マスク氏は、SpaceX が短期的な重点を火星から月へと移したことを明らかにしました[1]。 これは、これまで「月は気を逸らす存在(distraction)」と見なしていた従来の見解を覆すものです[2]。現在では、月面のマスドライバー(電磁加速装置)を活用することで軌道上データセンターを実現できる可能性があると考えており、宇宙ベースの計算資源やエネルギーインフラに結びつく、重要な商業応用を示唆しています。
この方針転換の背景には、地球上で自然災害や人為的災害が発生した場合、補給ミッションが中断し、火星植民計画が脅かされる可能性への懸念もあります[3]。月であれば打ち上げウィンドウは約10日ごとに開き、移動時間も約2日と、火星の26ヵ月ごとの打ち上げウィンドウおよび約6ヵ月の移動期間と比べてはるかに迅速です。さらに広い視点では、この動きは、中国との宇宙開発競争を含む地政学的競争が激化する中で、月に対する戦略的関心が一段と高まっていることを示している可能性もあります[4]。もっとも、マスク氏によれば、火星計画も並行して継続される予定です[5]。
ARKの見解では、この方針転換は戦略的に理にかなっています。昨年、ARKはMach33と共同で、火星へ物資を輸送する際のコストと複雑性を示したオープンソースのSpaceX評価モデルを公表しました[6]。火星への打ち上げ機会が26ヵ月ごとに限られる中、その間に月へ注力することで、SpaceXは試行錯誤を重ね、インフラを構築し、さらには軌道上データセンターの商業化を進めることが可能になります。それにより資本をさらに積み上げ、火星、そして多惑星社会への道筋を支えることができるでしょう。現在、ARKでは軌道上データセンターによる潜在的なアップサイドを織り込む形で、評価モデルの更新を進めています。
2. OpenAI、Cerebras Systemsの技術を活用した初の高速フロンティアAIモデルを発表
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, AI & Cloud
OpenAIは、Cerebras Systems(セレブラス・システムズ)が提供する750メガワット規模のAIインフラに関する提携を発表してからわずか1ヵ月後[7]同社の最新コーディングモデル「GPT-5.3」の派生版であるCodex Sparkを発表しました[8]。本モデルは、CerebrasのWafer Scale Engine上で高速動作するよう設計されています。
当初は月額200米ドルのChatGPT Pro加入者向けに提供され、最大で毎秒1,000トークンという処理速度を実現しています。これは、他の主要AI研究機関による最先端モデルが毎秒100〜200トークン程度にとどまっているのと比べ、大幅に高速です[9]。Codex Sparkは、CerebrasやGroqが先駆けてきた推論最適化チップ上で展開される初のプロプライエタリ(非公開)AIモデルでもあります。これまで同種のチップ上では、最先端ラボの最高性能モデルに劣るオープンソースモデルのみが稼働していました。なお、能力面では先週OpenAIおよびAnthropic(アンソロピック)が発表した最新モデルにわずかに及ばないものの[10]昨年11月に公開されたGPT-5.1 Codexと同等の性能を備えています。
エージェント型コーディングの普及が進み、複雑かつ時間を要するタスクをモデルが自律的に完了できるようになる中、毎秒あたりのトークン数の増加は、待ち時間の短縮や推論過程における対話性の向上を通じて、開発者体験を大きく改善すると見込まれます。ここ数ヵ月にわたりコーディング分野へ注力してきたOpenAIの戦略は成果を上げつつあり、同社のCodexツールのダウンロード数は、2025年末にAnthropicがOpus 4.5で公開したClaude Codeに急速に迫っています(下図参照)。

出所:Bloomberry.com、2026年[11]。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の購入、売却、または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の成果を示唆または保証するものではありません。
3. LayerZero Labs、第一原理に基づく汎用ベースレイヤー「Zero」を発表
By Raye Hadi | @rhadiARK
Research Associate
5年以上にわたり、複数のブロックチェーン間でロジックと状態を調整するオムニチェーン型メッセージングレイヤー「LayerZeroプロトコル」を運営してきたLayerZero Labs(レイヤーゼロ・ラボ)は、業界におけるL1[12]スケーリング手法に対して課題意識を強め、第一原理に立ち返った新たなベースレイヤーの構築を決断しました。
先週ニューヨークにて[13]3年以上にわたるステルス開発を経て、同社は新たなベースレイヤー「Zero」を発表しました。ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)を活用し、実行(execution)と検証(verification)を分離する異種(ヘテロジニアス)アーキテクチャを採用したZeroは、極めて高いスループットと超低手数料を志向しています。チームによれば、今秋のメインネット公開時には、約200万〜400万TPS(1秒あたり取引件数)を処理可能となる見込みで、Nasdaq(ナスダック)の50万〜100万TPSを上回る水準です。
LayerZeroはZeroを「新たなアプリチェーン」としてではなく、取引、決済、トークン化、機関投資家向け市場インフラなど、高取引量ワークフローを支える中核インフラとして位置づけています。同時に、分散性およびパーミッションレス性を設計上の基盤的目標として維持する方針です。2026年秋のローンチを目標に、Zeroはまず、Ethereum Virtual Machine(EVM)互換ゾーン、プライバシー重視型決済ゾーン、そして市場グレードの取引環境を含むパーミッションレスな「ゾーン」から開始する予定です。
もっとも、Zeroは競争の激しいL1市場に参入します。深い流動性の堀、強固な開発者ネットワーク効果、そして長年にわたり築かれてきた信頼性を持つSolana(ソラナ)、Ethereum(イーサリアム)、Hyperliquid(ハイパーリキッド)などのチェーンが存在します。なお、同社は新たなトークンを発行する計画はなく、ZeroはLayerZeroのZROトークンを用いたプルーフ・オブ・ステーク(PoS)ネットワークとして運営される予定です。
4. AIモデルの能力向上が加速する中、広告の潜在力も歩調を合わせて拡大
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
AIモデルの能力は猛烈なスピードで進化しています。最近、GoogleはGemini 3 Deep Thinkをアップグレードし、Humanity's Last ExamやARC-AGI-2で新たな基準を打ち立てると同時に、人間の査読者が見落としていた論文内の論理的欠陥を指摘しました[14]。OpenAIは、前世代比でSWE-Bench ProおよびTerminal-Bench 2.0において25%高速化し、自らを生成できる初のモデルGPT-5.3-Codexを発表しただけでなく[15]、Cerebras Systems(セレブラス・システムズ)によって駆動され、毎秒1,000トークン超という従来最高水準の5〜10倍の性能で動作するCodex-Sparkも公開しました[16]。一方、Anthropicは、100万トークンのコンテキストウィンドウ、エージェントチーム機能、そして独自の最先端ベンチマーク結果を備えたClaude Opus 4.6を発表しました[17]。そのうえで、スーパーボウルの広告枠でAI会話内広告の発想を揶揄しました[18]。しかし皮肉なことに、同イベントのCMの23%がAI関連でした[19]。
サム・アルトマン氏がAnthropicの広告を「明らかに不誠実」と批判し[20]、Omnicom Media Group(オムニコム・メディア・グループ)の30社超のクライアントがOpenAIの広告パイロットプログラムに参加しています[21]。こうした動きを踏まえると、より大きな潮流は明白です。消費者がAIチャットボットを急速に採用し、利用を深めている現状を踏まえれば、AIプラットフォーム内での広告は不可避であり、最先端モデルのマネタイズ戦略における重要な柱となる可能性があります。
AIエンゲージメントの測定:アクティブユーザー数
AIチャットのエンゲージメントを測る最も重要な指標は、アクティブユーザー数です。ARKの調査によれば、AIチャットボットの週間アクティブユーザー数はすでに12億5,000万人を超え、全スマートフォンユーザーの約20%に達しています。参考までに、PC所有者に占めるインターネット利用者の割合が20%を超えたのは1996年1月初旬であり、2000年のテクノロジー・通信ブームのピークの4年前でした。下図の普及曲線が示す通り、AIチャットの拡大スピードはインターネットの約2倍です。この傾向が続けば、AIチャットボットの利用者数は2028年までに50億人に到達する可能性があります。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年。SensorTower、SimilarWeb、ITU、World Bankのデータに基づく。対象はChatGPT、chat.deepseek、Gemini、Grok、Claude。Metaのチャットボット利用、Sora、ChatGPTのデスクトップアプリ利用は除外。日次アクティブユーザーにおけるチャットボット間の重複率を20%と仮定。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の購入、売却、または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の成果を示唆または保証するものではありません。予測には本質的な限界があり、これに依拠すべきではありません。
もう一つの比較対象は、スマートフォンの普及です。世界全体では、典型的な加速型の普及曲線に沿って、スマートフォンは10億人に到達するまでに6.8年、20億人に4.2年、30億人に2.6年、40億人に1.8年と、段階的に普及スピードを高めてきました。これに対して、AIチャットボットの拡大ははるかに速いペースで進んでいます。ChatGPTが最初の10億ユーザーに到達するまでに要した期間はわずか2.8年で、スマートフォン普及の半分以下の時間でした。スマートフォン普及の約2倍のスピードが続くと仮定すれば、チャットボットの利用者数は2029年後半までに50億人を超える可能性があります(下図参照)。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年。Sensor TowerおよびTechInsightsのデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の購入、売却、または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の成果を示唆または保証するものではありません。予測には本質的な限界があり、これに依拠すべきではありません。
AIエンゲージメントの測定:利用深度
AIチャットのエンゲージメントを測る第二の重要指標は、アクティブユーザーがサービスに費やす時間です。AIシステムの有用性は非常に高いにもかかわらず、その利用は意外なほど限定的です。利用時間は年間約70%増加しているものの、現在、アクティブなチャットユーザーがチャットボットに費やしている時間は週あたりわずか1時間にとどまっています。同様に、1990年代半ばのインターネット利用も過小活用の状態にあり、当時の利用時間は週30分程度でした[22]。
現在、米国の平均的なインターネット利用時間は1日約10時間に達しています[23]。1996年から2000年にかけて、PC保有者に占めるインターネット普及率が20%から75%へ上昇した期間に、アクティブユーザー1人あたりの利用時間は7倍に増加しました[24]。AIチャットボットが同様の利用拡大を遂げた場合、今後4年間でユーザーのエージェントとの対話時間は週1時間から1日1時間へと増加する可能性があります。
利用者が50億人に達した場合、1日1時間の利用は年間約1.8兆時間のAIチャットボット利用に相当します。参考までに、世界最大級のアプリであるYouTubeは、週間アクティブユーザー26億人が週7.4時間視聴しており、年間約1兆時間に相当します[25]。
直接的な対話を超えて:非同期エージェント経済
これらのエージェントの活用は、単なる「直接対話型」体験にとどまりません。AIの本質的な価値は「設定して任せる(set it and forget it)」点にあります。AnthropicのClaude CodeやOpenAIのCodexに関連するビジネス用途の多くは、ユーザーが他の業務を行ななったり、別のエージェントを管理したりしている間に、エージェントが非同期で作業を進める点にあります。例えば、OpenAIのGPT-5.3-Codexでは、モデルが作業を継続している最中でも、文脈を失うことなくユーザーが対話を続けることが可能です。実際、同モデルは数日間にわたり自律的に複雑なアプリケーションを構築することができます[26]。つまり、ユーザーが費やす時間は、実際の基礎的な効用と必ずしも比例しません。
消費者向け分野では、購買エージェントが商品やサービスの最良の取引条件を見つけたり、別のエージェントが個人生活を管理したりする可能性があります。反対意見はあるものの、AI企業は現在すでに獲得している約600億時間(下図参照)の注目時間、さらには将来的に蓄積し得る注目時間の両方をどのようにマネタイズするかを検討しています。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年。2026年2月9日時点のSensorTowerおよびSimilarWebのデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の購入、売却、または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の成果を示唆または保証するものではありません。
[1] Musk, E. 2026. “For those unaware, SpaceX has already shifted focus…” X.
[2] Musk, E. 2025. “No, we’re going straight to Mars. The Moon is a distraction.” X.
[3] Musk, E. 2026. “The priority shift is because I’m worried that a natural or manmade catastrophe…” X.
[4] Versprille, A. and Grush, L. 2025. “NASA Opening Up SpaceX Moon Landing Contract to Competition.” Bloomberg.
[5] Musk, E. 2026. “As I said in my post, we will still do Mars in parallel…” X.
[6] Maguire, D. et al. 2025. “ARK’s Expected Value For SpaceX In 2030.” ARK Investment Management LLC.
[7] Soja, J. 2026. “OpenAI Is Expanding Its Impressive Compute Roadmap With Chips From Cerebras.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.
[8] OpenAI. 2026. “Introducing GPT 5.3 Codex Spark.”
[9] Artificial Analysis. 2026. “Independent Analysis of AI: Intelligence. Speed. Price.”
[10] Downing, F. 2026. “AI Progress Is Accelerating, Incentivizing Huge Capital Expenditures (CapEx).” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.
[11] Bloomberry.com. 2026. “Daily Install Trends of AI Coding Tools.”
[12] Layer 1(L1):Layer 1ブロックチェーン(L1)とは、ブロックチェーンネットワークの基盤プロトコルを指す。取引処理、コンセンサスメカニズム(合意形成)、データ保存などの中核的機能を自らのチェーン上で担うものである。
[13] LayerZero. 2026. “Zero: The Decentralized Multi-Core World Computer.” X.
[14] GoogleのGemini 3 Deep Thinkは、ツール未使用の状態でHumanity‘s Last Examにおいて48.4%、ARC-AGI-2において84.6%を記録した(ARC Prize Foundationにより検証済み)。出所:Google(2026年)「Gemini 3 Deep Think: Advancing science, research and engineering」。Luong, T. および V. Mirrokni(2026年)「Accelerating Mathematical and Scientific Discovery with Gemini Deep Think」Google DeepMindも参照。
[15] OpenAI. 2026. "Introducing GPT-5.3-Codex."
[16] OpenAI. 2026. "Introducing GPT-5.3-Codex-Spark." See also Cerebrus. 2026. “Introducing OpenAI GPT-5.3-Codex-Spark Powered by Cerebras.”
[17] Anthropic. 2026. "Introducing Claude Opus 4.6."
[18] iSpot data(Ostwall, T. 2026. “AI Took Over the Super Bowl, Accounting for 23% of Ads.” Adweekによる報道).
[19] Kiefer, B. 2026. “Anthropic Makes Super Bowl Debut, Promising Ad-Free AI.” Adweek. Anthropic. 2026. , “Claude is a Space to Think.”も参照。
[20] Sam Altman氏の Xへの投稿。 (Capoot, A. 2026. “Altman lashes out at ‘clearly dishonest’ Anthropic ads as AI spat heats up.” CNBCによる報道)
[21] Russo, W. 2026. “OpenAI kicks off test phase for ChatGPT ads.” MM+M.
[22] Wired. 1998. “Net Surfing's Up.”
[23] Optimum. 2025. “The Digital Day: New Survey Reveals Americans Spend Over 10 Hours Online.”
[24] Raine, L. et al. 2021. . “Pew Internet Project: Internet tracking report.”
[25] SensorTowerによるデータに基づく。
[26] OpenAI. 2026. "Introducing GPT-5.3-Codex."
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