By ARK Invest

本レポートは、2026223日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #499」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. GrailNHS試験、主要評価項目を達成できず

By Ovid Amadi, PhD | @Ovid_ARK
Multiomics Portfolio Manager & Director of Research

 

先週、マルチキャンサー早期検出(MCED)診断検査としてこれまでで最大規模の無作為化比較試験である、Grail(グレイル)の英国国民保健サービス(NHS)による「NHS-Galleri(ガレリ)試験」が速報結果を公表しました。その結果、主要評価項目は達成されませんでした。すなわち、本検査はステージIIIおよびIVで初めて診断されるがんの件数を有意に減少させることができませんでした。この発表を受け、同社の株価は約50%下落しました。

Galleriは、いわゆるリキッドバイオプシー(血液検査)であり、腫瘍が血中に放出するDNAを検出し、そのがん信号から発生臓器(組織起源)を特定します。組織起源の予測は、その後の精密検査を適切に導くうえで重要です。Grail(グレイル)は、人口規模でのスクリーニングを前提に、偽陽性率を1%未満に抑える設計を行なっています。大規模検診では、わずかな偽陽性率の上昇でも不要な追加検査が急増する可能性があります[1]。その一方で、この制約は感度の低さという代償を伴っています。現在、Galleriは全がんの約4050%、またがん死亡の大半を占める12種類のがんの約75%を検出可能とされています。これらの多くは現時点で定期スクリーニング手段が存在しません[2]

本試験では、イングランド全土の5077歳の142,000人を対象に、標準的ながん検診のみを受ける群と、標準検診に加えて年1回のGalleri検査を3年間実施する群とに無作為に割り付けました[3]。主要評価項目は、ステージIIIおよびIVで診断されるがんの件数が統計学的に有意に減少することでした。しかし、Grailの試験はこの主要評価項目を達成できませんでした。介入群ではステージIVの診断件数は有意に減少した一方で、ステージIIIの診断件数は増加し、さらにステージIおよびIIの検出件数も増加しました。全体としての傾向は想定された方向に動いたものの、統計学的有意差には到達しませんでした。

本試験の科学的根拠は、Galleriががんを早期に診断することで、対照群では後期(IIIIV)に進行してから発見される症例を、より早い段階で検出できるという仮説に基づいています。一般に、ステージIVのがんは治癒が困難とされ、ステージIIIのがんも治療後にIVへ移行するリスクが高いとされています。したがって、後期への移行を減らすことができれば、がんによる死亡者数の減少につながる可能性があります。

もっとも、がんが一つのステージから次のステージへ移行するまでに要する時間は、がん種によって大きく異なります。例えば、膵臓がんは数ヵ月でステージIからIVへ進行することがある一方で、大腸がんや前立腺がんは10年かけて進行することもあります。そのため、3年間という観察期間ではステージ移行の全体像を十分に捉えられなかった可能性があります。試験終了後、Grail(グレイル)はフォローアップ期間を延長し、時間の経過とともにより明確なシグナルが現れるかを検証する予定です。また、2026年半ばに詳細結果を査読付き論文として公表する意向を示しています[4]

本試験におけるもう一つの課題は感度です。現在、ステージIの検出率は約17%、ステージIIは約40%にとどまっており、多くの早期がんを見逃している状況です[5]。特異度を維持しながら感度を高めることが、次世代MCED技術にとっての中核的な技術課題となっています。

今回の結果は、MCEDの有効性を否定するものでも、現行モデルを全面的に肯定するものでもありません。むしろ、生物学的に妥当と考えられる仮説を、臨床試験という制約の中で集団レベルの健康成果へと転換することの難しさを示しています。今後の方向性としては、年齢や行動要因、その他のバイオマーカーに基づくリスク層別スクリーニングの導入や、既存の検診フローにMCEDを組み込むアプローチが考えられます。例えば、Guardant Health(ガーダント・ヘルス)は既存スクリーニングへの統合を進めており、これはGalleriが直面している早期感度や償還の課題の一部を回避できる可能性があります。

広範ながんを日常的な血液検査で早期に診断することは、科学的にも商業的にも実現可能性があると考えられています。Grail(グレイル)経営陣によれば、同社はGalleriFDA承認取得を引き続き目指しており、米国では既に自費診療ベースで約15,000万米ドルの売上を計上しています。また、英国での展開も依然として可能性があるとしています。

 

2. FDA(米食品医薬品局)の「単一ピボタル試験」への移行が、創薬経済を変える可能性

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

先週、U.S. Food and Drug AdministrationFDA/米食品医薬品局)のコミッショナーでマーティ・マカリー氏と、Center for Biologics Evaluation and ResearchCBER/生物製剤評価研究センター)ディレクターのヴィナイ・プラサド氏は、医学誌「New England Journal of Medicine」において、医薬品承認の原則基準を、従来の「2本のピボタル試験」から「1本のピボタル試験+補足的確認証拠」へと移行する方針を発表しました[6]。これは、FDAのエビデンス評価枠組みにおける数十年ぶりの大きな変更といえるものですが、実際には同局が長年かけて徐々に進めてきた方向性を明文化したものでもあります。

 

これまでの基準

現在のFDAのエビデンス基準は、1950年代後半から1960年代初頭に発生したサリドマイド事件にさかのぼります。当時、つわり治療薬として使用された鎮静剤が、何千人もの新生児に重度の先天異常を引き起こしました[7]。これを受けて米国議会は1962年にKefauver-Harris改正法を可決し、医薬品メーカーに対して「安全性」だけでなく「有効性」についても、十分かつ適切に管理された試験による実質的証拠を提示することを初めて義務付けました。FDAはこの文言を、「それぞれ単独で説得力を持つ2本以上の試験が必要」と解釈し、いわゆる「2試験ドグマ」基準を確立しました[8]

1997年、FDA Modernization Actによりこの要件は緩和されました。翌年、FDAは実施ガイダンスを発出し、「1本の適切かつ十分に管理された臨床試験と補足的確認証拠」によって有効性を立証できると明確化しました[9]。当初、単一ピボタル試験による承認は例外的であり、主にがん領域や希少疾患など、患者数が限られ未充足ニーズが高い分野に限定されていました[10]。しかし次第にこれが一般化し、2024年には新規有効成分(NMENovel Molecular Entity)の66%が単一ピボタル試験に依拠する形となりました。実際、2020年には承認あたりのピボタル試験の中央値は2本から1本へと低下しています[11]。単一試験承認の約70%はOrphan Drug Designation(希少疾病用医薬品指定)を受けており、これは米国で20万人未満に影響する希少疾患を対象とする医薬品開発に対し、インセンティブを付与する制度です[12]

 

今回、何が変わるのか

今回、マカリー氏とプラサド氏は、FDAが原則として「1本のピボタル試験」を求めることを正式に明文化しました。これは基準の緩和というよりも、科学の進歩を踏まえた現実的な調整と位置付けられています。従来、2本の試験を求めた理由は、偽陽性の確率を約40分の1から1万分の6へと低減するためでした[13]。当時は医薬品の有効性を評価する精度が現在ほど高くなかったためです。

現在では、医薬品開発は多角的なエビデンスを積み上げています。具体的には、作用機序の解明、バイオマーカーへの影響評価、中間評価項目の活用などを通じて、薬剤の働きについてより包括的な理解が可能になっています。2本目の試験の代替となる確認証拠には、作用機序データ、関連適応症での結果、動物モデル、同一クラス薬剤のエビデンス、さらにはリアルワールドデータなどが含まれます[14]

 

創薬経済への影響

この変更は、創薬経済にとって大きな意味を持つ可能性があります。ピボタル試験1本のコストは治療領域や設計により異なりますが、2本目を不要とすることで、プログラムあたり最大約35,000万米ドルの削減につながる可能性があります[15]。多くの企業はピボタル試験を並行または短期間で実施していますが、それでも2本目を省略できれば、開発期間を数年短縮し、運営の複雑性を低減できる可能性があります。

これまで規制柔軟性の恩恵を受けてきたのは主にがんや希少疾患でしたが、今回の変更は、心血管疾患や呼吸器疾患といった一般的疾患領域にも影響する可能性があります。これらの領域では、2本の大規模試験が標準であり、かつ最も高額な試験となるケースが多いからです[16]

もっとも、FDAは追加試験を求める裁量権を維持します。特に、明確な作用機序がない治療法や、生存率のような直接的アウトカムではなく間接指標に依拠する介入については、追加データが求められる可能性があります[17]

 

さらに広範な変革の可能性

私たちの見解では、今回の単一ピボタル試験への移行は、臨床開発パラダイム全体の変革の前触れとなる可能性があります。マカリー氏は、「連続型試験(continuous trials)」というビジョンを示しています。これは、従来の第1相(安全性)、第2相(概念実証)、第3相(大規模有効性・安全性データ)という段階的構造を見直し、データをクラウド上で共有しながら継続的に評価を行なう仕組みへ移行する構想です。また、各相終了後に必要とされる事務的な中断期間の廃止も想定されています[18]。シームレス試験や適応型試験は既に、特にがん領域で導入されていますが、マカリー氏の構想はこれをより広範な創薬分野へ拡大する可能性があります。もし実現すれば、開発期間はさらに短縮され、コストも低減し、新薬の市場投入が加速するとともに、バイオテクノロジー分野における米国の競争力強化につながる可能性があります。

 

3. 中国のヒューマノイドは急速に増加しているが、実用性は依然限定的

By Akaash TK & Tasha Keeney, CFA | @ARKInvest
Autonomous Technology & Robotics Team

 

SNL 2.23.26 1

 

出所:CGTN2026年)[19]。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、特定の証券の購入、売却、または保有を推奨するものではありません。

 

先週、中国の春節恒例行事である春節聯歓晩会(Spring Festival Gala)において、ヒューマノイドロボットが大きな注目を集めました。現在、世界的に見ると中国のヒューマノイドロボット企業が販売面で主導権を握っており、次の図の通り、世界市場の約98%を占めています。中国は世界の製造業およびサプライチェーンの中心地であり、加えて政府による強力な支援も受けていることから、この優位性は驚くべきものではありません。

SNL 2.23.26 2

 

注:「RoW」はRest of World(その他の地域)を指す。出所:ARK Investment Management LLC2026年)。36Kr European Central Station2025年)[20]および各社レポート(2026222日時点)に基づく。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、特定の証券の購入、売却、または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の成果を示唆するものではありません。

 

もっとも、中国製ロボットの品質や実用的な機能性、とりわけ自律性については議論が分かれています。研究開発段階にある多くの中国製ヒューマノイドは、来場者に手を振ったり、工場内を歩き回ったりすることは可能ですが、その動作が事前にプログラムされたものであるのかどうかについては懐疑的な見方も存在します。私たちの見解では、真の進展は、実際の製造現場からどれだけのデータを収集できるかに依存すると考えられます。

ARKの「Big Ideas 2026では、ヒューマノイド開発に要する時間軸と、その技術的複雑性について整理しました。私たちの見解では、汎用ヒューマノイドロボットの開発は、ロボタクシーのような特定用途ロボットと比較して約20万倍困難であると考えています[21]。さらに重要なのは、人間レベルの熟練度に到達するために必要な累積計算投資額が約550億米ドルに達する可能性がある点です。この閾値は2028年頃に到達する可能性があります。本テーマについては、近日中に公開予定のブログでさらに詳しく解説する予定です。

 

 

 

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[1] Grail, 2026. " Landmark NHS-Galleri Trial Demonstrates a Substantial Reduction in Stage IV Cancer Diagnoses, Increased Stage I and II Detection of Deadly Cancers, and Four-Fold Higher Cancer Detection Rate.”

[2] 同上

[3] 同上

[4] Grail. 2026. “Grail Reports Fourth Quarter and Full Year 2025 Financial Results."

[5] Klein, E.A. et al. 2021. “Clinical validation of a targeted methylation-based multi-cancer early detection test using an independent validation set.” Annals of Oncology.

[6] Prasad, V. and M.A. Makary. 2026. "One Pivotal Trial, the New Default Option for FDA Approval — Ending the Two-Trial Dogma." New England Journal of Medicine.

[7] U.S. Food and Drug Administration. 2018. “Frances Oldham Kelsey: Medical reviewer famous for averting a public health tragedy.” U.S. Food and Drug Administration. 2006. “A History of the FDA and Drug Regulation in the United States.” Arizona State University. Embryo Project Encyclopedia. 2014. “US Regulatory Response to Thalidomide (1950-2000).”も参照。

[8] 同上。 Prasad, V. and M.A. Makary. 2026. "One Pivotal Trial, the New Default Option for FDA Approval — Ending the Two-Trial Dogma." New England Journal of Medicine. Zhan, S.J. et al. 2022. “Should the two‐trial paradigm still be the gold standard in drug assessment?” Pharm Statも参照。

[9] U.S. Government. 1997. “Food and Drug Administration Modernization Act of 1997, Public Law 105-115, Section 115(a).” U.S. Department of Health and Human Services. Food and Drug Administration. 1998. “Guidance for Industry Providing Clinical Evidence of Effectiveness for Human Drug and Biological Products.”も参照。

[10] U.S. Department of Health and Human Services. Food and Drug Administration. 1998. “Guidance for Industry Providing Clinical Evidence of Effectiveness for Human Drug and Biological Products.”

[11] AgencyIQ by Politico. 2025 "Analysis: The majority of novel drugs approved by FDA rely on evidence from a single pivotal trial."

[12] AgencyIQ by Politico. 2025 "Analysis: The majority of novel drugs approved by FDA rely on evidence from a single pivotal trial."

[13] Prasad, V. and M.A. Makary. 2026. "One Pivotal Trial, the New Default Option for FDA Approval — Ending the Two-Trial Dogma." New England Journal of Medicine.

[14] 同上

[15] Moore T.J. et al. 2018. "Estimated Costs of Pivotal Trials for Novel Therapeutic Agents Approved by the US Food and Drug Administration, 2015-2016." JAMA Intern Med.

[16] 同上。 ASPE. 2014. “Examination of Clinical Trial Costs and Barriers for Drug Development.” U.S. Department of Health and Human Servicesも参照。

[17] Prasad, V. and M.A. Makary. 2026. "One Pivotal Trial, the New Default Option for FDA Approval — Ending the Two-Trial Dogma." New England Journal of Medicine.

[18] AgencyIQ by Politico. 2025. "What we know about Makary's emerging proposal for 'continuous trial' reforms." Hale, C. 2025. “Martin Makary outlines AI plans and the broader vision for his term as FDA commissioner.” Fierce Biotechも参照。

[19] CGTN. 2026. “Humanoid robots, kung fu masters dazzle in Spring Festival Gala.”

[20] 36Kr European Central Station. 2025. “Perspectives on the Order and Delivery Capabilities of the Humanoid Robot Industry in 2025, Led by Unitree, Ubtech, and Zhipu.”

[21] ARK Investment Management LLC. 2026. “Big Ideas 2026.”

 

 

 

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