By ARK Invest
本レポートは、2026年3月2日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #500」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. AIによる40%削減、その先を見据えるBlockの再構築
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
Bloombergの見出し「“Jack Dorsey’s Block Slashes Nearly Half Its Staff In AI Bet(ジャック・ドーシー氏率いるBlockがAIへの賭けで従業員の約半数を削減)”」[1] を受けて、私はこの決定をより長期的な視点で捉えるべきだと考えています。パンデミック期において、同社は従業員数を約3倍に拡大しました。2019年の約4,000人から、2022年には約12,500人へと増加しています(下図参照)。
ドーシー氏がCash AppとSquareをサイロ化された事業部門として組織したことが、この人員急増の一因であったとみられます。しかし過去数年間においては、組織上の非効率性が、Cash Appの消費者エコシステムとSquareの加盟店基盤との間に完全に統合された両面ネットワークを構築する上で障害となっていました。

出所:ARK Investment Management LLC, 2026年。2026年2月26日時点のBlock年次報告書データに基づく。情報提供のみを目的としており、特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
2019年から2025年にかけて、金融テクノロジー(フィンテック)分野全体で従業員数は大幅に拡大しました。Toast(トースト)の従業員数は2倍超に増加し、Adyen(アディエン)は約4倍近くに拡大しました。また、Shopifyも約50%増加しています。同じ期間において、Blockの従業員数は約2.7倍に増加しましたが、今回の大きく報じられた人員削減を経た現在でも、2019年比で約1.6倍の水準にあります。現在、Blockは同業他社よりも構造的にスリムな体制で事業を運営することを目指し、再調整を進めているようです。2024年にはドーシー氏が方針転換を行ない、事業ライン別ではなく機能別に組織を再編しました。今回の人員削減は、その取り組みの延長線上にあるものと考えられます。
先週の決算説明会において、同氏はAIツールの能力が週次ベースで複利的に向上していると述べました[2]。当社の見解では、機能別に整合された小規模チームこそがAIを最大限に活用し、対応が遅れる競合他社に対して優位に立つ可能性があると考えています。
2. Roche、新たな高スループットシーケンサー「Axelios」の競争力ある価格を発表
By Ovid Amadi, PhD | @Ovid_ARK
Multiomics Portfolio Manager & Director of Research
10年以上にわたり、Roche(ロシュ)は次世代シーケンシング分野で意味のあるポジションを確立しようとしてきました。2012年には、シーケンシングを日常的な臨床診断に導入することを目指し、Illumina(イルミナ)を約70億米ドルで買収しようとする大胆な試みを行ないました[3]。 この提案は実現しませんでしたが、その野心が衰えることはありませんでした。数多くの買収、提携、そしてプラットフォーム開発を経て、Rocheは独自の最先端シーケンシングプラットフォームの構築を進めてきました。
2025年2月中旬、Rocheは新しいシーケンサー「Axelios 1(アクセリオス1)」を支える化学技術である「Sequencing by Expansion(SBX:シーケンシング・バイ・エクスパンション)」を発表しました[4]。従来のナノポア法ではネイティブDNAをポア(孔)に通して読み取りますが、SBXではDNA鎖をより大きな合成分子「Xpandomer(エクスパンドマー)」に変換します。これにより、分子がナノポアをよりゆっくり通過するため、よりクリーンで解釈しやすいシグナルが得られるだけでなく、従来のナノポア手法よりも高い精度を実現します。
先週開催されたAdvances in Genome Biology & Technology(AGBT:ゲノム生物学・技術会議)において、Rocheはデュプレックスモードで30倍カバレッジのシーケンスを実行できる同シーケンサーを75万米ドルで発表しました[5]。また、消耗品はヒト全ゲノムあたり150米ドルに設定されています。破壊的な価格とは言えないものの、150米ドルという価格は、Illuminaの「NovaSeq X(ノヴァシークX)」の約200米ドル/ゲノムと比べても競争力があります。AGBTではIlluminaも強い勢いを見せており、新しい合成ロングリード技術と、より高スループットのフローセルを発表しました。これにより、RocheやUltima Genomics(アルティマ・ジェノミクス)といった競合に対抗して、さらに価格を引き下げる選択肢を持つ可能性があります。
Axeliosの競争優位性は、スピードにある可能性が高いと考えられます。特に新生児集中治療室(NICU)の現場ではその価値が大きく、Illuminaの約48時間に対し、Axeliosはヒト全ゲノムを47倍速くシーケンスできるとされています。NICUでは、1時間で遺伝子診断が得られるかどうかが、適切な治療介入の実施と、数日に及ぶ不確実性の間を分ける可能性があります。
3. ビットコイン、国家、そして詐欺 ― 昨年10月の140億米ドル押収が今も重要な理由
By David Puell | @dpuellARK
Research Analyst & Associate Portfolio Manager, Digital Assets
2025年後半[6] 、米国司法省は、過去最大規模となる暗号資産の没収案件を発表しました。DOJは、当時約140億米ドル相当の127,271ビットコインの管理権を求める民事訴訟を提起しました。これらのコインは、陳志(チェン・ジー)氏とそのPrince Holding Group(プリンス・ホールディング・グループ)が関与したとされる大規模な「ピッグ・ブッチャリング(豚の肥育)」型投資詐欺による収益であると主張しています。検察当局は、この疑惑のスキームが、複数の国にまたがる電信詐欺、マネーロンダリング、そして被害者搾取に関係しているとしています。
2026年1月までに[7]、中国のメディアやサイバーセキュリティ専門家はこれとは異なる見解を示しました。127,000以上のビットコインは約4年間ほぼ動きがなく、もともとは2020年にチェン氏のマイニング事業に関連する資産がサイバー攻撃を受けた際に盗まれたものだという主張です。彼らによれば、このような長期間の不活動は、通常盗んだ資金を迅速に移動させる犯罪ハッカーの行動とは一致せず、むしろ国家レベルの活動と整合的だとされています。さらに報道によると、ブロックチェーン分析企業Arkham Intelligence(アーカム・インテリジェンス)は、そのビットコインを保有するアドレスが米国政府と関連している可能性を示したとされています。
こうした相反する主張は、公の議論を活発化させました。中国の一部の論者は、ワシントンがビットコインネットワークをハッキングし、DOJが管理権を求めるよりもずっと前にビットコインを押収していたのではないかと示唆しています。では、DOJはビットコインを移動させるために必要な秘密鍵をどのように取得したのでしょうか。チェン氏に対する連邦起訴状には、その点に関する詳細は示されていません。
重要なのは、Bitcoinのプロトコル自体が攻撃された、あるいは侵害された形跡はないという点です。今回の論争は、オンチェーン取引を行なうために必要な秘密鍵へのアクセスをめぐるものです。その可能性としては、人為的な手続きの不備、ウォレット管理の不適切さ、あるいは第三者による侵害などが挙げられます。
なお、この127,000ビットコインは昨年10月以降動いておらず、この法的問題は今後もしばらく続く可能性を示唆しています。
4. AIエージェントはマーケットプレイスを中抜きするのか?
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
先週、Citrini Research(シトリーニ・リサーチ) [8]はDoorDashが(ドアダッシュ)が「vibecoding(バイブコーディング)」による競合に対して脆弱である可能性があると主張しました。つまり、個人や企業が「ドライバーとレストランのネットワークを自分で構築すればよい」という考え方です。しかし私たちは、AIエージェントが真に価値を生み出すかどうかは、消費者の習慣、好み、意図といった要素を含む“スケールしたパーソナライズ”をどこまで実現できるかにかかっていると考えています。
消費者が最適化するのは、価格、在庫、配送スピードという3つの変数です。そして消費者は、自分のAIエージェントにも同じ最適化を期待するでしょう。しかし、スケールしたパーソナライズされたレコメンデーションを提供できるDoorDashのようなマーケットプレイスを、企業や個人が簡単に破壊する可能性は低いと考えられます。
DoorDashは長年にわたり物流の基盤を構築し、ローカルコマースのオペレーティングシステムとも言える仕組みを作り上げてきました。それは、食料品店やコンビニエンスストアにも恩恵をもたらす、持続的なネットワーク効果を伴う“堀(moat)”となっています。長年にわたる運用能力の蓄積、加盟店ネットワークの拡大、そしてスケールした物流の構築により、DoorDashは価格、注文精度、配送スピードを最適化してきました。これは以下の3つのチャートにも示されています。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年、Intouch Insights 2024のデータに基づく[9]。情報提供のみを目的としており、投資助言や特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年、Intouch Insights 2024のデータに基づく[10]。情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有の推奨とみなすべきではありません。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年、Intouch Insights 2024のデータに基づく[11] 。情報提供のみを目的としており、特定の証券の売買または保有に関する投資助言または推奨とみなすべきではありません。
一部のマーケットプレイスが破壊的な影響を受ける可能性はあるでしょう。おそらくそうした例も出てくるはずです。とはいえ、優れた価格、豊富な在庫、そして迅速な配送に基づいて築かれた競争優位(モート)は、vibecodingによって構築された競合に容易に脅かされるものではないと考えられます。これらの要素はいずれも、消費者の嗜好や行動データを深く組み込んだものだからです。さらに詳しい視点については、マーケットプレイスとAI購買エージェントに関する当社の詳細なリサーチをご参照ください[12]。
5. AIがもたらすのは「大恐慌」ではなく「大加速」
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
ARKの調査によれば、世界経済は現在、大きなブームの直前にあります。同時に、AIと、それによって加速しているイノベーション・プラットフォーム(ロボティクス、エネルギー貯蔵、パブリック・ブロックチェーン、マルチオミクス技術)が、重要なコストおよび性能の転換点に向かって収束しつつあります。その結果として生まれる可能性があるのが「The Great Acceleration(グレート・アクセラレーション)」です。これは、経済生産が急拡大する生産性ブームを意味しており、その詳細は『Big Ideas 2026』説明されています[13]。例えば、AIシステムとロボットの融合は、より優れたAIとロボットを生み出す再帰的なループへと進化する可能性があります。こうした動きこそが、私たちが世界の実質GDP(国内総生産)成長率は、過去125年間の平均である3%から7〜8%以上へと加速すると考える理由の一端です。これは、International Monetary Fund(IMF:国際通貨基金)が示す3.1%という予測の2倍以上に相当します。こうした見通しは、下の図に示されています。

出所: ARK Investment Management LLC, 2026。DeLong 1998、Open Philanthropy 2025、Maddison 2007のデータに基づく[14]。これらの出所に加え、本資料に示されている一部の情報は、さまざまな追加情報源を参照したARK独自の分析に基づく場合があります。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券の購入、売却、または保有を推奨する投資助言を目的としたものではありません。過去の実績は将来の成果を示唆するものではありません。予測には本質的な限界があり、信頼できるものではありません。
先週、Citrini Research(シトリーニ・リサーチ)は、2028年を舞台にした思考実験的な論考を発表し、金融市場を動揺させるとともにメディアの注目を集めました[15]。その前提は、AIによるレイオフ(人員削減)が負のスパイラルを引き起こすというものです。企業が従業員を削減し、その資金をAIに再投資することで、消費者の購買力が失われ、最終的には経済が大恐慌に陥るというシナリオです。この論考では「Ghost GDP(ゴーストGDP)」という概念も提示されました。これは、国民経済計算には計上されるものの実体経済では循環しない生産を指し、著者らの言葉を借りれば「機械は裁量消費に1米ドルも使わない」ためだとされています。
このシナリオは生き生きとしており、一見すると整合的に見えますが、根本的には誤りを含んでいます。ただし、Citriniの誤りは有益な示唆も与えてくれます。つまり、破壊的技術がマクロ経済活動に与える影響について、人々が混乱しがちなポイントを浮き彫りにしているからです。AIへの投資に使われた1米ドルが、経済から消えてしまうわけではありません。その1米ドルは、データセンターの建設、電力供給の確保、そしてAIの導入・開発・研究を進める人材への支払いに使われます。仮にその一部がAI企業の利益として計上されたとしても、その企業の株主はその利益を、さらなる生産性の高い資本投資に再投資するか、最終消費として支出することになります。
Citriniは、この10年後半に実質GDP成長率が10%以上になる可能性があると指摘しており、この点は正しいと言えます。しかし、それは消費の崩壊を意味するものではありません。むしろ、消費ブームの到来を意味するものです。
[1] Mason, E. 2026. “Jack Dorsey’s Block Slashes Nearly Half Its Staff in AI Bet.” Bloomberg.
[2] Block. 2026. “Q4 2025 Shareholder Letter.”
[3] Caroline, C. and S. Kim. 2012. “Roche set to walk away from $6.8 billion Illumina bid.”
[4] Roche. 2026. “Roche’s Virtual Event on the SBX (sequencing by expansion) technology.”
[5] ASeq Newsletter. 2026. “Roche Axelios Pricing.”
[6] Clarke, A. 2025. “U.S. Set to Lock In $14 Billion in Bitcoin as Part of Strategic Reserve.” 99 Bitcoins.
[7] Kim, O. 2026. “US Stole a Chinese Scam King’s $15B Bitcoin? Here’s ‘How.’” Be(In)Crypto.
[8] Citrini Research and A. Shah. 2026. “THE 2028 GLOBAL INTELLIGENCE CRISIS.” Citrini Research.
[9] Intouch Insight. 2024. “The Path to Third-Party Delivery Excellence.”
[10] 同上
[11] 同上
[12] Grous, N. and V. Prasanna. 2025. “Are Marketplaces Defensible In The Age Of AI Purchasing Agents?”
[13] ARK Investment Management LLC. 2026. “Big Ideas 2026.”
[14] Maddison, A. 2007. “Contours of the World Economy, 1–2030 AD: Essays in Macro-Economic History.” Oxford University Press. Open Philanthropy. 2025. DeLong, B. 1998. "Estimating World GDP, One Million B.C. — Present." Brad De Long’s homepage. Department of Economics, University of California, Berkeley.
[15] Citrini Research and A. Shah. 2026. “THE 2028 GLOBAL INTELLIGENCE CRISIS.” Citrini Research.
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