By ARK Invest

本レポートは、202661日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #512」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. Blue Originの爆発事故は、月探査競争における打ち上げ能力不足を浮き彫りに

By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst, Autonomous Technology & Robotics

 

先週、4回目のミッションを目前に控えたBlue Origin(ブルー・オリジン)の大型ロケット「New Glenn(ニュー・グレン)」が、フロリダ州の発射施設で実施されていた燃焼試験中に爆発しました[1]。この爆発により、「Launch Complex 36(発射施設36)」は深刻な損傷を受けました。同施設は、New Glenn向けとして現在運用されている唯一の軌道打ち上げ施設です。Blue Originは追加の打ち上げインフラを建設するとともに、事故原因の調査を進めていますが[]、この損傷によって次回打ち上げは少なくとも1年程度遅れる可能性が高いとみられています。

今回の事故は、New Glennが担う商業宇宙事業および政府宇宙計画における重要な役割を考えると、極めて不運なタイミングで発生しました。実際、そのわずか2日前には、NASA(米国航空宇宙局)が初の月面基地建設計画の概要を公表していました。その中には、Blue Origin2028年に月南極地域へ2台の月面探査車(Lunar Terrain Vehicle)を輸送する、最大46,800万米ドル規模の契約も含まれています[3]。さらに広い視点で見ると、この事故は既に供給制約が発生している打ち上げ市場を一段と逼迫させる可能性があります。例えば、衛星通信事業を展開するAmazon Leo(アマゾン・レオ)は、既に打ち上げ機会不足を成長のボトルネックとして挙げていました[4]

New Glennが長期間運用停止となることで、宇宙産業はSpaceXStarshipプログラムへ、これまで以上に依存する可能性があります。一方で長期的には、月探査の拡大や人工衛星打ち上げ需要の増加によって、複数の打ち上げ事業者への需要は引き続き高まると考えられます。そのため、Rocket Lab(ロケット・ラボ)やStoke Space(ストーク・スペース)のような新興企業を含め、より厚みがあり、より強靭な打ち上げエコシステムの構築が求められるでしょう。今回の遅延はBlue Originにとって大きな後退ではあるものの、当社は、宇宙産業が今後も発展を続ける中で、同社が打ち上げ能力供給の重要な担い手であり続けると考えています。

 

2. Robinhood、エージェント型トレーディングとエージェント型クレジットカードを発表

By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Analyst, Fintech

 

先週、Robinhood(ロビンフッド)は「Agentic Trading(エージェント型トレーディング)」のベータ版を公開しました。これにより、顧客はChatGPTClaudeといったプラットフォーム上で構築されたサードパーティ製AIエージェントを、Model Context ProtocolMCP)サーバー経由でRobinhoodへ接続できるようになります[5]。これらのAIエージェントは、ユーザーが資金を拠出した専用口座内で、ポートフォリオ分析、市場監視、さらには売買執行まで行なうことができます。またRobinhoodは、「Agentic Credit Card(エージェント型クレジットカード)」も発表しました。これは、事前に設定された利用限度額や承認条件の範囲内で、AIエージェントがRobinhood Gold Cardを使って決済を行なえる仕組みです。

今回の発表は、金融サービスにおけるAI活用を「意思決定支援」から「意思決定の実行」へ進化させるものです。従来のAIは調査や推奨を提供する役割が中心でしたが、今後はユーザーが事前に定めたルールの範囲内で、AIエージェントが利用者に代わって実際に行動できるようになります。言い換えれば、Robinhoodは「エージェント主導型金融」のインフラレイヤーになろうとしているのです。

AIシステムへ安全に証券口座や銀行機能へのアクセス権を与えながら、同時に利用者の統制や安全対策を維持することは、資産運用業界に大きな意味を持ちます。これまでファイナンシャルアドバイザーが提供してきたサービス(ポートフォリオ構築、リバランス、リスク管理、投資実行など)の多くが、利用者のAIエージェントによってほぼ限界費用ゼロで自動化される可能性があるためです。また、AIエージェントが金融意思決定の主要インターフェースとなるにつれ、金融商品の販売競争も変化する可能性があります。これまでは「人間の注意を引くこと」が重要でしたが、今後は「AIエージェントから推奨されること」が重要になるかもしれません。つまり、金融商品は投資家だけでなく、それらを選択するAIシステムに対しても最適化されるようになる可能性があります。

今回の新サービスは、Robinhoodが進めるAI戦略「Cortex(コーテックス)」とも整合しています。Cortex2025年にAIアシスタントとして導入されましたが、現在は「洞察(インサイト)」と「行動」の間に存在する摩擦を取り除くインターフェースレイヤーへ進化しつつあります。Agentic TradingAgentic Creditは、Robinhoodのプラットフォームをサードパーティ製AIエージェントへ拡張するものですが、同社は今後、これらの機能を自社アシスタントへ統合していく可能性が高いと考えられます。その結果、Cortexは、ユーザーが投資、支出管理、資産管理を行なう際の主要インターフェースになるかもしれません。当社は、Cortexは単なる高機能な証券アプリではなく、AIが利用者に代わって金融活動を実行する「金融オペレーティングシステム」へ進化していく可能性が高いと考えています。

 

2. 最新データは、遺伝子編集が希少疾患から一般疾患へ拡大する可能性を裏付ける

By Shea Wihlborg, PhD | @Shea_ARK
Research Analyst, Multiomics

 

先週、Eli Lilly(イーライリリー)とEditas Medicine(エディタス・メディシン)は、脂質を低下させることを目的とした遺伝子編集治療に関する新たなデータを発表しました。脂質とは血液中に存在する脂肪や脂肪様物質であり、その値が高い状態が続くと心血管疾患の原因となりま[6]。当社は、今回蓄積されたデータによって、遺伝子編集治療が希少疾患から一般疾患へと適応を広げる可能性が一段と高まったと考えています。その対象には、世界最大の死亡原因である心血管疾患も含まれます[7]

一部の人々は、生まれつき脂質レベルを低下させる希少な遺伝子変異を持っています[8]。こうした人々は、明確な健康上の不利益を伴うことなく、心筋梗塞などの心血管イベント発症リスクが低いことが知られています[9]。体内(in-vivo)遺伝子編集は、この自然界の仕組みを応用し、肝臓における脂質代謝の仕組みを一度の治療で書き換えることで、同様の保護効果を付与することを目指しています。

現在、3社が異なるアプローチでこの目標に取り組んでいます。CRISPR Therapeutics(クリスパー・セラピューティクス)の「CTX-310」は、通常は中性脂肪やコレステロールの血中除去を抑制しているANGPTL3遺伝子を不活性化します[10]Eli Lillyの「VERVE-102」は、通常は肝臓によるコレステロール除去能力を制限しているPCSK9遺伝子を不活性化します[11]。一方、Editas Medicineの「EDIT-401」は、肝細胞表面に存在し、血液中のコレステロールを取り込むLDL受容体(低比重リポタンパク受容体)の発現量を増加させる仕組みを採用しています。

Eli Lillyは、高コレステロール血症または若年性冠動脈疾患患者へVERVE-102を最高用量で単回投与した結果、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が平均62%低下したと報告しました[12]。また、最大18ヵ月間の追跡期間を通じて、その効果は持続し、治療に関連する重篤な有害事象も確認されませんでした[13]Editas Medicineは、非ヒト霊長類を対象とした前臨床試験データを発表しました。それによると、EDIT-401を単回投与した結果、LDLコレステロールと、心血管リスクとの関連が知られるリポタンパク(a)が、いずれも平均90%以上低下しました[14]。これらの結果は、CRISPR Therapeuticsが昨年11月に発表した第1相試験結果に続くものです。同試験では、CTX-310を最高用量で単回投与した結果、LDLコレステロールが平均49%、中性脂肪が平均55%低下しました[15]。これら3つのプログラムに共通している重要な点は、いずれも一度の投与で臨床的に意味のある脂質低下効果を示したことです。これは、脂質異常症管理と心血管リスク低減に向けた新たなアプローチを切り開く可能性があります。

米国では約2,600万人が動脈硬化性心血管疾患を患っています。これは動脈内にプラークが蓄積し、心筋梗塞や脳卒中リスクを高める疾患です[16]。しかし既存治療が存在するにもかかわらず、その約3分の2にあたる1,700万人は、ガイドラインで推奨されるLDLコレステロール目標値へ到達できていません[17]ARKの調査によれば、患者1人当たり約165,000米ドルという価値ベース価格で一回投与型遺伝子編集治療を提供した場合、この1,700万人だけを対象としても、米国市場規模(TAM)は約2.8兆米ドルに達する可能性があります[18]

心血管疾患治療薬の商業的成功は、スタチン系薬剤の歴史が証明しています。Pfizer(ファイザー)の「Lipitor(リピトール)」は史上最も成功した医薬品の一つであり、約20年間で累計2,250億米ドル超の売上高を生み出しました[19]。仮にこの2.8兆米ドル市場のわずか12分の1を獲得するだけでも、Lipitorに匹敵する成功を収める計算になります。

当社は、心血管疾患領域における体内遺伝子編集のエビデンス蓄積は、遺伝子編集治療が希少疾患から、世界で最も致命的かつ医療コスト負担の大きい疾患群の一つへ適応を広げるうえで重要な一歩だと考えています。そしてそれは、心血管疾患治療のあり方を変革し、患者と医療システムの双方へ前例のない価値をもたらす可能性があります。

詳細については、当社レポート『自然の英知を活用する:心血管疾患に対する遺伝子編集療法[20]をご参照ください。

 

3. Anthropicが追加資金調達、AI業界の議論は「性能」から「効率性」へ

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst, AI & Cloud

 

先週、Anthropic(アンソロピック)は、資金調達ラウンドを実施し、調達後企業価値(ポストマネー・バリュエーション)が9,650億米ドルに達したことを発表しました[21]。今回の評価額上昇を裏付けるものとして、同社は年換算売上高(ARR)が470億米ドルに達したことも開示しています。これは、1ヵ月前の約300億米ドル、2025年末時点の約90億米ドルから飛躍的な成長です[22]。同社の急成長は、エージェント型製品である「Claude Code(クロード・コード)」や「Claude Cowork(クロード・コワーク)」へ組み込まれた高性能推論モデルによって支えられています。

この売上成長を維持するため、Anthropicは最新フラッグシップモデル「Claude Opus 4.8(クロード・オーパス4.8)」も発表しました。同モデルは、エージェント型コーディング、複数分野にまたがる推論、知識労働といった領域で能力を向上させており、多くのベンチマークでOpenAI(オープンエーアイ)のGPT-5.5と同等、あるいはそれを上回る性能を示しています[23]。もっとも、今回の発表でより重要だったのは、純粋な性能向上ではなく「効率性」の改善です。コーディングプラットフォームCursor(カーソル)が提供するエージェント型ベンチマーク「CursorBench」では、Opus 4.8 Max1タスク当たり7.11米ドルでタスクを完了しました。これは前世代モデルであるOpus 4.7 Max11.02米ドルと比較して約35%の改善です[24]。一方、GPT-5.5 Extra High1タスク当たり4.37米ドルであり、依然としてコスト効率では優位にあります。しかし、Opus 4.8によって、両者のコスト差は約150%から約63%へ縮小しました。こうした差の一部は、各社が利用できる演算能力の制約による可能性がありますが、アルゴリズムの進歩も重要な要因となっています。企業がAIエージェント導入を進める中で、「効率性」はますます重要になっています。

当初、企業はClaude CoworkOpenAI Codex(コーデックス)のようなエージェント型ツールの能力に注目し、実験的導入を進めていました。その過程では、従業員へ可能な限り多くのトークンを消費するよう奨励するケースも少なくありませんでした。しかし現在、多くの企業ではAI関連支出が急増しており、その投資対効果を検証するため、生産性向上効果の測定へと関心が移っています。例えば先週、Amazonは、社内エンジニア向けのトークン使用量ランキングを廃止しました。その理由は、順位を上げるためだけに、生産性向上につながらない形で意図的に大量のトークンを消費するエンジニアがいたことが判明したためです[25]

最高財務責任者(CFO)や最高技術責任者(CTO)が、AI支出と成果を比較検討するようになる中で、十分に高い品質を維持しながら、経営陣が許容できるコストで提供できるモデルが市場シェアを獲得していく可能性があります。そのため当社は、企業がエージェント型AIを業務へより深く統合するにつれて、AI開発企業各社は、自らが生み出す価値を正当化するため、継続的にコスト削減を進めていくと考えています。

 

 

 

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[1] Blue Origin. 2026. “We experienced an anomaly during today's hotfire test…” X.

[2] Bezos, J. 2026. “All personnel are accounted for and safe…” X.

[3] Shaw, E./NASA. 2026. “NASA Provides Update on Moon Base Rovers, Landers, Missions.”

[4] Amazon Staff. 2026. “Amazon Leo set to accelerate satellite production and launch cadence.”

[5] Robinhood. 2026. “Robinhood is Now Open to Agents.”

[6] Vafai, S.B. et al. 2026. “In Vivo Base Editing of PCSK9 with VERVE-102 for Hypercholesterolemia.” New England Journal of Medicine. Editas Medicine. 2026. “Editas Medicine Presents EDIT-401 Preclinical Data Demonstrating Robust Reductions in LDL-C, Lp(a), and ApoB in Non-Human Primates at the 94th European Atherosclerosis Society Congress.”も参照。

[7] American Heart Association. 2017. “CARDIOVASCULAR DISEASE: A COSTLY BURDEN FOR AMERICA PROJECTIONS THROUGH 2035.”

[8] Wihlborg, S. 2025. “Harnessing Nature’s Wisdom: Gene-Editing Therapy For Cardiovascular Disease." ARK Investment Management LLC.

[9] 同上

[10] Laffin, L.J. et al. 2025. "Phase 1 Trial of CRISPR-Cas9 Gene Editing Targeting ANGPTL3." New England Journal of Medicine.

[11] Vafai, S.B. et al. 2026. "In Vivo Base Editing of PCSK9 with VERVE-102 for Hypercholesterolemia." New England Journal of Medicine.

[12] 同上

[13] 同上

[14] Editas Medicine. 2026. "Editas Medicine Presents EDIT-401 Preclinical Data Demonstrating Robust Reductions in LDL-C, Lp(a), and ApoB in Non-Human Primates at the 94th European Atherosclerosis Society Congress."

[15] Laffin, L.J. et al. 2025. "Phase 1 Trial of CRISPR-Cas9 Gene Editing Targeting ANGPTL3." New England Journal of Medicine.

[16] Nguyen, X-M. T. et al. 2024. “Cardiovascular Health Score and Atherosclerotic Cardiovascular Disease in the Million Veteran Program.” JAMA Network Open. Cannon C.P. et al. 2021. “Use of Lipid-Lowering Therapies Over 2 Years in GOULD, a Registry of Patients With Atherosclerotic Cardiovascular Disease in the US.” JAMA Cardiologyも参照。

[17] Wihlborg, S. 2025. “Harnessing Nature’s Wisdom: Gene-Editing Therapy For Cardiovascular Disease." ARK Investment Management LLC.

[18] 同上

[19] 同上

[20] 同上

[21] Anthropic. 2026. “Anthropic raises $65B in Series H funding at $965B post-money valuation.”

[22] Anthropic. 2026. “Anthropic expands partnership with Google and Broadcom for multiple gigawatts of next-generation compute.”

[23] Anthropic. 2026. “Introducing Claude Opus 4.8.”

[24] Cursor. 2026. “CursorBench 3.1.”

[25] The Financial Times. 2025. “Amazon scraps AI leaderboard to stop workers chasing usage scores.”

 

 

 

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