By ARK Invest
本レポートは、2026年8月17日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #521」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. AIエージェントがAnthropicとOpenAIの成長を引き続き後押しする可能性
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst, AI & Cloud
6月1日、Anthropic(アンソロピック)は将来的な新規株式公開(IPO)に向け、米国証券取引委員会(SEC)へS-1届出書のドラフトを提出しました[1]。現在、同社が投資家とのミーティングを行ない市場の反応を探っているとの観測が広がる中、その収益成長のスピードや、それを踏まえた企業価値評価に注目が集まっています[2]。
5月末時点で、同社は年間換算売上高(ARR)が470億米ドルに達したと公表しました[3]。通常、このような指標は事業の状況を適切に示しますが、Anthropicの成長は前例のないものです。2026年初に約90億米ドルだったARR [4]は、わずか5ヵ月で5倍超に拡大しました。
データプロバイダーのTickerTrendsによると、現在のAnthropicとOpenAIのARRはそれぞれ740億米ドル超、410億米ドル超と推定されています。OpenAIについては、年初の200億米ドルからおよそ倍増した計算になります。仮にこの推計が正しいとすれば、世界を代表する2つのAI研究機関のARR合計は1,150億米ドルを超え、SAP、Salesforce、Adobeの過去12ヵ月売上高合計を上回る水準に達しています[5]。言い換えれば、AnthropicとOpenAIはARRをMicrosoft(マイクロソフト)の「Productivity and Business Processes」部門の年間換算売上高約1,500億米ドルに迫る規模まで引き上げており[6]、1983年に提供開始されたWindowsやMicrosoft Office製品群の売上高を、次の図で示す通り上回る規模となっています。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年。Microsoft Office+Windowsは、6月30日を期末とする会計年度ベースで作成した年次系列です。Officeのデータは1983年度から、Windowsのデータは1985年度から使用しています。2026年度の数値はMicrosoftの最新開示情報に基づき、Officeを723億米ドル、Windowsを233億米ドルとして設定しています。2027年度から2030年度についてはアナリストの想定値です。また、Entraを含む認証・ID管理関連事業は別途開示されていないため、Office事業から除外しています。モデル上では、AnthropicとOpenAIのARR合計がOffice+Windowsの売上高を上回る時点は2026年6月22日となります。仮に2025年度に50億米ドルの認証ソリューション事業売上を加え、その後年率15%で成長すると想定した場合、その交差時点は2026年7月3日に後ろ倒しとなります。これらの推計値はMicrosoftによる業績見通しではありません。本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、投資助言または特定の有価証券の売買・保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示唆または保証するものではありません。予測には本質的な限界があり、その実現を保証するものではありません。
Anthropicがどのような企業価値評価を目指すにせよ、その急速な売上拡大は、最先端AIモデルやAIエージェントがもたらす劇的な生産性向上が、現実の需要を生み出していることを示しています。この成長を維持するために、AnthropicとOpenAIはいずれも、急拡大する製品群への対応や次世代フロンティアモデルの学習に必要な大規模コンピューティング基盤を整備する資金を確保するため、公的資本市場を活用する方向へ向かっているようです。
2. Grok 4.6はフロンティアAIのコスト低下をさらに加速させる可能性
By Karim Mattar | @mattarARK
Research Associate, AI & Cloud
先週、SpaceXAIはコーディング、エージェント型タスク、ナレッジワーク向けに設計された最新フロンティアモデル「Grok 4.6」をリリースしました[7]。同モデルは50万トークンのコンテキストウィンドウを備え[8]、入力100万トークン当たり2米ドル、出力100万トークン当たり6米ドルで提供されています。これは、約100万トークンのコンテキストウィンドウを持つOpenAIのGPT-5.6 SolやAnthropicのClaude Fable 5の価格設定(入力5〜10米ドル、出力30〜50米ドル)と比較して大幅に低価格です[9]。
独立機関による評価では、SpaceXAIは性能面とコスト面の両方でAI最前線レースへ復帰した可能性があります。Artificial Analysisによれば、Grok 4.6は同社のIntelligence Indexで61点を獲得し[10]、Grok 4.5から5ポイント向上するとともに、OpenAIのGPT-5.6 Solと同水準の評価となりました。一方で、AnthropicのClaude Opus 5およびClaude Fable 5との差はわずか1〜2ポイントに留まっています。
AIエージェント用途において、Grok 4.6の経済性は特に魅力的です。Artificial Analysisは、同モデルのIntelligence Index上でのコストを1タスク当たり0.84米ドルと推定しており[11]、知能性能とコスト効率の両面でパレート最適な位置にあると評価しています。また、長期間にわたるエージェント型知的作業を評価するAA-Briefcaseでは、Grok 4.6は1577 Eloを記録し、Claude Fable 5の1574 Eloとほぼ同水準でした[12]。

出所:ARK Investment Management LLC、2026年。CursorBench 3.2における性能フロンティアおよびコスト改善分析。実線はモデルファミリーごとの実測パフォーマンス/コスト曲線を示しています。点線は、性能レンジ40%~70%を一定とした上で、50%~55%、55%~60%、60%~65%、65%~70%の各レンジにおいて観測された幾何平均ベースの年率コスト低下率を適用したものです。年率低下率は、各モデルファミリーについて、性能フロンティア上に位置する最初と最後のモデルを比較し、それぞれのリリース日を基に算出しています。分析対象モデルファミリーは以下の通りです。Composer 2.5、Fable 5、GLM 5.2、GPT-5.5、GPT-5.6 Luna、GPT-5.6 Sol、GPT-5.6 Terra、Gemini 3.5 Flash、Gemini 3.6 Flash、Grok 4.5、Grok 4.6、Kimi K2.7 Code、Kimi K3、Opus 4.8、Opus 5、Sonnet 5。なお、年率低下率は限られた観測期間に基づく外挿であり、性能フロンティアにおける今後の改善を保証するものではありません。コストはタスク当たりで表示しています。本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、投資助言または特定の有価証券の売買・保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示唆または保証するものではありません。
SpaceXAIはモデルそのものだけでなく、「Grok Bot」というエージェント実行基盤にも領域を広げています。この製品によって、OpenAIやAnthropicが提供するエージェント型インターフェースとの競争力を高める可能性があります。競争の焦点はモデル性能だけでなく、それらのモデルを実際の業務に活用するソフトウェアへと移りつつあり、AI経済圏における重要な変化を示しています。AIモデルがより長く複雑なワークフローを完遂できるようになれば、重要な指標は「トークン当たり価格」から「タスク完了当たり価格」へと移行するでしょう。
フロンティアモデルの学習コストと推論コストが今後もそれぞれ年間85%、99.9%のペースで低下し続けるならば、企業はより多くの業務へAIエージェントを導入できるようになり、AI活用と生産性向上はさらに加速すると考えられます。
3. 微小残存病変(MRD)検査は有用性を証明し、普及が続く
By Ovid Amadi, PhD | @Ovid_ARK
Multiomics Portfolio Manager and Director of Research
微小残存病変(MRD)検査は、患者の血液中に存在する腫瘍由来の遊離DNAを検出する技術であり、がんの診断と治療における重要なブレークスルーです。がん細胞は死滅する際にDNAを血液中へ放出します。循環腫瘍DNA(ctDNA)を検出することで、手術や全身療法によってがんが適切に除去されたかどうかを判断できます。その結果、MRD検査は治療プロセス全体で重要性を高めており、術前治療への反応、切除後の病変残存の有無、術後補助療法の有効性、寛解期間中の再発監視などに活用されています。
現在、2種類の検査アーキテクチャが競争しています。腫瘍情報活用型(tumor-informed)検査は、切除した腫瘍をシーケンス解析して患者固有のパネルを作成し、通常の採血から特定の腫瘍変異を追跡します。市場をリードするNatera(ナテラ)の「Signatera(シグナテラ)」は16種類の変異を追跡しています。一方、腫瘍非依存型(tumor-naive)検査は、組織サンプルを必要とせず検査結果を迅速に得られる反面、精度面では劣るものの、一般的ながん変異やDNAメチル化パターンを対象に解析を行ないます[13]。
MRDの有用性を最も明確に示した事例は、筋層浸潤性膀胱がん患者に対するアテゾリズマブの術後補助療法を検証したIMvigor010およびIMvigor011試験です。最初のIMvigor010試験は主要評価項目を達成できませんでしたが、ctDNA陽性患者では有効性を示唆する結果が得られました。その後のIMvigor011試験では、手術後にctDNA陽性であった患者のみを対象に、アテゾリズマブまたはプラセボへ無作為割付を行ないました[14]。この新しいctDNAベースの試験設計により、全患者対象では有効性を示せなかった薬剤が、ctDNA陽性患者群では全生存期間中央値を50%改善することが確認されました。
最近、Nateraは前四半期のSignatera検査件数が28万3,000件となり、前四半期比で3万4,000件増加したと発表しました[15]。他社の固形がんMRD検査全体の件数が4万1,000件に留まる中[16]、Signateraの導入が急速に進んでいることが分かります。現在、Nateraは固形がんMRD市場で約87%のシェアを有しており、発売5年目で約15億米ドルの売上高に到達する見込みです。これは、同じ販売サイクル時点におけるCologuard(コロガード)の約2倍の規模となります。市場コンセンサスではMRD市場の機会は約200億米ドルと見積もられていますが[17]、がんサバイバーへの追加検査、進行がん治療モニタリングへの適用拡大、CAR-T細胞療法など根治的治療の普及、さらにはグローバル展開などを背景に、MRD検査市場はそれを大きく上回る規模へ成長する可能性があります。

注記:「Peers(競合他社)」には、Tempus、Personalis、Exact Sciences、Abbott Laboratories、NeoGenomics、およびGuardant Healthを含みます。出所:ARK Investment Management LLC、2026年本分析は、2026年8月7日時点におけるTempus、Personalis、Exact Sciences、Abbott Laboratories、NeoGenomics、およびGuardant Healthの決算資料ならびにアナリスト予想を含む外部データソースに基づいています。本資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、投資助言または特定の有価証券の売買・保有を推奨するものではありません。
[1] Anthropic. 2026. “Anthropic confidentially submits draft S-1 to the SEC.”
[2] Capoot, A. 2026. “Anthropic CFO Krishna Rao is leading early IPO meetings with investors and has not discussed valuation, sources say.” CNBC.
[3] Anthropic. 2025. “Earlier this month, our run-rate revenue crossed $47 billion…” X.
[4] Bloomberg. 2026. “Anthropic’s Revenue run Rate Tops $9 Billion as VCs Pile In.”
[5] CompaniesMarketCap.com. 2026 “Top publicly traded software companies by revenue.”
[6] Microsoft. 2026. “Earnings Release FY26 Q2.”
[7] SpaceXAI. 2026. “Grok 4.6.”
[8] 同上。
[9] SpaceXAI. 2026. “Models.”
[10] Artificial Analysis. 2026. “SpaceXAI's Grok 4.6 scores 61 on the Artificial Analysis Intelligence Index, joining the frontier in line with GPT-5.6 Sol, with standout agentic performance at lower cost.”
[11] メチル化シグネチャーとは、DNAに付加されたメチル基のパターンであり、DNA配列を変えることなく遺伝子発現を調節するもの。こうしたパターンは腫瘍で特徴的に変化し、発生臓器や組織によって異なる。
[12] 同上。
[13] 同上。
[14] Powels, T. et al. 2025. “ctDNA-Guided Adjuvant Atezolizumab in Muscle-Invasive Bladder Cancer.” The New England Journal of Medicine.
[15] Natera. 2026. “Q2’2026 Earnings Presentation.”
[16] 本分析は、2026年8月7日時点におけるTempus、 Personalis、Exact Sciences、Abbott Laboratories、NeoGenomics、およびGuardant Healthの決算発表資料やアナリスト予想を含む外部データに基づく。
[17] Personalis. 2026. “Tempus to Acquire Personalis, More Tightly Integrating Molecular Residual Disease (MRD) into Its AI-Enabled Precision Oncology Platform.”
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