By ARK Invest

本レポートは、2026年9月14日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #525」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. AIに関する誇張されたレトリックが政治的緊張を高める

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

今週、AIに関する恐怖をあおる論調が大きな注目を集めました。そのきっかけとなったのは、Anthropic(アンソロピック) の元従業員が、AIは人類にとって意味のある絶滅リスクをもたらすと主張したことでした。同氏は同社にわずか3~4ヵ月在籍していただけですが、その発表はAIシステムが驚異的な性能向上を遂げているさなかに行なわれました。AIは数十年来の数学上の難問を解決しつつあり[1]、年率99.99%に向かうコスト低下曲線を延伸させ[2]、新たに世界最高水準のコンピューター利用能力を示しています[3]。その結果として、投資家や政策立案者はその意味合いに極めて敏感になっています。

新しいテクノロジーの影響が悪いものだと誰かが示唆すると、投資家や政策立案者はその人物の話を聞きたくなります。しかし実際のところ、そのAnthropic元従業員は特別な知見を持っているわけではなく、その主張は長年にわたりインターネットの掲示板で語られてきた根拠のない言説と見分けがつきません。それにもかかわらず、同氏は72時間足らずの間に少なくとも10件の全国メディアのインタビューを受けました。

彼の主張を要約すると、次のようになります。

  1. AIは極めて短期間のうちに極めて高い能力を獲得する。
  2. AIが人間の利益と適切に整合していなければ、人命を顧みずに目標を追求する。
  3. 目標を追求する過程で、AIは資源と権力を獲得しようとする。
  4. 人間はAIシステムと資源をめぐって競争し、その権力拡大を阻止しようとする。
  5. したがって、AIシステムは人類を根絶する動機を持つことになる。

SFのように聞こえるでしょうか。私たちはそう考えています。

とはいえ、多くの人々がこの議論に注目しているため、私たちはその論理を慎重に分解してみたいと思います。確かに、AIツールは極めて短期間に極めて強力になっています。しかし、その時点以降については、ARKの見解はこうしたヒステリックな主張とは異なります。この積み重ねられた主張を理解するうえで有用なのは、私たちがすでに人工的な超知能システムに大きく依存していることを認識することです。ある意味では、それらのシステムは人類と整合していません。目標を追求するためには資源や権力を必要とするからです。人間は日々こうしたシステムとせめぎ合い、その権力拡大を防ごうとしています。この場合の「超知能」とは企業です。企業とは数万人、あるいは数十万人の人間の頭脳によって動かされる法的人格であり、人類全体の利益のために運営される義務ではなく、利益を追求する義務を法的に負っています。

AI安全性をめぐる恐怖をあおる人々がこれほど恐れている未来は、実はすでに存在しているのです。しかし、その結果は貧困化や絶滅ではなく、人類の著しい生活向上でした。

なぜ企業は利益目標を達成するために大規模に人間を踏みにじらないのでしょうか。企業活動は、何世紀にもわたって発展してきた法律、制度、財産権によって支えられているからです。企業は人類のためにそう行動するのではなく、より多くの資源を獲得し維持するための道筋がルールに従うことだからです。ルールに従わない企業は、資源を獲得することが非常に困難になります。特に大規模になるほどそうです。もちろん組織犯罪も一定の力を持っていますが、それが繁栄できるのは制度的な土台が比較的弱い地域だけです。実際、最も強力な犯罪組織であっても、世界最大の企業と比べれば極めて小さな存在です。

私たちの見解では、AIシステムも同様の枠組みの中で運用されるようになるでしょう。権力への道筋は、法、経済、そして市場のルールの中に存在します。

実際に、その道筋がAIシステムの中で形成されつつあることを確認できます。最先端のAI研究機関はコンピューティング資源を必要としており、その代理人である主力のInfrastructure-as-a-Service事業者は、その供給拡大を急いでいます。人々がそれを止めようとしても、Infrastructure-as-a-Service事業者は地域住民を根絶する計画など立てません。その代わりに、税金、コミュニティセンター、電力価格保護策や保証などの資源を提供し、インフラ整備による負の側面への懸念に対応します。コストが高くなり過ぎれば、より安価な地域に建設します。また、人間との共存を可能にする、より効率的で利便性の高いインフラを提供する方法も生み出しています。その重要な例が軌道上データセンターです。

人類絶滅に関するレトリックは刺激的であり、人々の目を引きます。しかし、それは根拠に欠けており、複雑なシステムに対する深い誤解を示しています。その意味で、「AIが数千万の雇用を消滅させる」という現在進行中の推測とも共通しています。実際には、以下で示すように、AIの台頭はすでに米国だけでおよそ100万人の新たな雇用を創出しています。

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*ARK独自の雇用シェア・シグナル。棒グラフは12観測期間平滑化後の総雇用者数に、12観測期間平滑化後の雇用シェアから2022年11月までの12ヵ月平均シェアを差し引いた値を乗じて算出しています。マクロレベルでの総雇用成長は除外しています。プラスのシェア変化は上方向、マイナスは下方向に表示されます。欠損月は補完しておらず、移動期間には利用可能な観測値のみを使用しています。出所:ARK Investment Management LLC(2026年)、2026年9月14日時点の米労働統計局データに基づく。BLS/Census Bureau の Current Population Survey(CPS)公開マイクロデータ(最終ウェイト)を使用。2025年10月のCPS調査は実施されませんでした。情報提供のみを目的としており、投資助言または特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。

 

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*ARK独自の雇用シェア・シグナル。棒グラフは12観測期間平滑化後の総雇用者数に、12観測期間平滑化後の雇用シェアから2022年11月までの12ヵ月平均シェアを差し引いた値を乗じて算出しています。マクロレベルでの総雇用成長は除外しています。プラスのシェア変化は上方向、マイナスは下方向に表示されます。欠損月は補完しておらず、移動期間には利用可能な観測値のみを使用しています。出所:ARK Investment Management LLC(2026年)、2026年9月14日時点の米労働統計局データに基づく。BLS Current Employment Statistics(CES)の季節調整済み給与雇用者数データを使用。情報提供のみを目的としており、投資助言または特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。

 

レトリックそのものが誤っていたとしても、その政治的影響は現実のものとなる可能性があります。いかなる立法措置も、その最も可能性の高い副作用として、現在のAIリーダー企業の競争上の地位を固定化し、全体的な進歩の速度を低下させるでしょう。それは人類にとってはマイナスですが、規制への適合に必要な固定コストを負担できる OpenAI、Anthropic、Google、xAI(エックスエーアイ) にとってはプラスとなる可能性があります。

さらに、一定レベルの規制圧力によって成長そのものが失われる可能性もあります。ただし、それが最も可能性の高いシナリオではありません。AIツールはあまりにも有用であり、すでに世界中で何十億人もの人々が利用しています。人々の依存度の高さが、最も厳しい規制措置からそれらをある程度守ることになるでしょう。

最終的に、ARKのリサーチは、これらのツールが人類の生活向上と富の創出において驚異的な手段になることを示唆しています。今日、AIは何十年も解決不可能だった数学の問題を解いています。明日には、材料科学、創薬、製造工学における飛躍的進歩や、今後10年の間に数十億米ドル、数百億米ドル、さらには数千億米ドルから数兆米ドル規模の価値を生み出す疾病治療法の開発につながる可能性があります。

そうした恩恵が、レトリックとしてのSFによって妨げられるとしたら、それは何とも残念なことでしょう。

 

2. MetaのMuseがコンシューマー向けAIエージェント時代の幕を開ける

By Nicholas Grous | @GrousARK
Director of Research, Consumer Internet and Fintech

 

先週、Meta(メタ) は、旅行予約、受信トレイの整理、各種フォームへの入力、商品購入までを行なうパーソナルAIエージェント「Muse(ミューズ)」 [4]を発表しました。私たちの見解では、Museは大規模普及に必要な機能と性能をすべて備えた、初のコンシューマー向けAIエージェントです。

家庭での利用を想定して設計されたMuseは、外出プランの作成、旅行用の服の購入、毎月の請求額の削減、自宅カメラの確認などを行なうことができます。また、このアプリには、ユーザーが接続したアカウントやウェブ上の情報をもとにパーソナライズされた情報を表示する「Feed(フィード)」タブも搭載されています。この機能の重要性は見た目以上です。ユーザーが既に慣れ親しんだインターフェースを提供することで、積極的にエージェントを利用する予定がない日でもMuseを開く理由を提供するからです。AI部門責任者のアレクサンダー・ワンは、ほとんどの利用者は無料プランを利用し、月額20米ドルおよび100米ドルのプランは最も多くのコンピューティング資源を利用するユーザー向けになると述べています。

Metaは現在、ユーザー当たり売上高ではなく普及を優先して最適化を進めています。マーク・ザッカーバーグは、当初、MetaがAIエージェント経由で成立した取引から受け取る手数料は「ごくわずかな割合」にとどまると示しています。ARKのリサーチによれば、AIエージェントは2030年までに約9兆米ドルの決済を仲介し、Eコマース全体の約25%を占める可能性があります[5]。顧客送客(リードジェネレーション)手数料率が数%台半ばだとすると、この収益機会は2,000億米ドルを超える可能性があり、これはMetaの現在の年間広告収入に匹敵します。さらに言えば、質問に答える「有料」エージェントよりも、取引を実行し、その際の手数料を回収する「無料」エージェントの方が、より大きな価値を持つ可能性があります。

このモデルを成立させるのは、圧倒的な流通基盤です。前四半期、Metaは同社のアプリ群全体で約36億人の1日当たりアクティブユーザー数を報告しており、なかでもWhatsAppがAI利用において最も重要なアプリとなっていると説明しています。SpaceXAI も、自社クラウド基盤上で Grok(グロック) Botの常駐型エージェントを提供していますが、最低でも月額200米ドルを利用者に課しています。一方、8月に企業価値25億米ドルで3億5,000万米ドルを調達したテキスト・音声アシスタントのInstinct [6]は、依然として招待制です。どちらも実際に稼働するAIエージェント体験ではありますが、今年中に10億人規模へ到達する可能性は低いでしょう。

私たちは、Metaがコンシューマー向けAIエージェント市場で主導権を握ると考えています。その理由は、Metaがコンシューマー向け製品の開発ノウハウを持ち、顧客獲得コストをほとんどかけずにユーザーへ届けることができ、さらに他社では実現が難しい低コストで魅力的な体験を提供できるからです。

 

3. 米国市場でPerps(パーペチュアル契約)が台頭し急成長

By Raye Hadi | @rhadiARK
Research Associate, Digital Assets

 

パーペチュアル契約(Perpetual Contract、通称「Perp」)は、トレーダーに原資産に対する合成的な方向性エクスポージャーを提供する、暗号資産市場固有のデリバティブです。Perpは純粋に合成的な商品であり、原資産によって裏付けられているわけではありません。通常は、ある資産の価格変動方向に賭ける取引であり、マッチングエンジンによって売りと買いの取引を組み合わせる仕組みとなっています。Perpは、「オラクル」と呼ばれる価格フィードを利用して取引所における原資産の現物価格を追跡します。また、「資金調達率(Funding Rate)」と呼ばれる仕組みによって、取引価格をオラクル価格へ近づけています。取引の一方がもう一方に対して支払いを行なうことで、取引所の現物価格との均衡へ価格を戻します。例えば、Perp価格が現物市場価格を上回った場合、ロングポジション保有者がショートポジション保有者へ小額の手数料を支払い、ショートポジションの増加を促して価格差を縮小させます。

オンチェーンPerpが急速に普及した理由は2つあります。第一に、個人投資家は満期到来ごとのロールオーバーを管理する必要がある先物取引と比べ、Perpのユーザー体験(UX)がシンプルだと感じているためです。第二に、Perpはオンチェーンで運用されるため、24時間365日アクセス可能であり、グローバルな担保を活用でき、地域に依存しない世界規模の流動性にアクセスできるという利点があります。これまでPerp取引は、Binance(バイナンス) や OKX といったアジアの中央集権型取引所が支配してきましたが[7]、近年では Hyperliquid(ハイパーリキッド) が本格的な競争相手として台頭しています。同社はオンチェーン基盤と極めて効率的な取引所アーキテクチャー[8]を活用し、優れた執行品質を提供しています。

米国市場がPerpを国内に取り込もうとし始めたのはごく最近のことです。Kalshi(カルシ) と Coinbase(コインベース) が先行組となり[9]、規制に準拠したPerp商品を提供し始めました。Coinbaseはその商品を50年満期の先物契約として設計しています。その成長は目覚ましいものでした。これに対し、既存の取引所である ICE と CME Group(シーエムイー・グループ) は、より厳格な規制要件の導入によって市場拡大のペースを抑制するよう、CFTC(米商品先物取引委員会) に働きかけています[10]。その一方で、Hyperliquidは米国での政策提言団体である Hyperliquid Policy Committee(HPC) を設立しました。同組織は著名な暗号資産専門弁護士ジェイク・チェルビンスキーが率いており、米国における同社の利益代表として活動しています[11]。さらに話題を呼んだのは、最近開催されたホワイトハウスの暗号資産サミットにおいて、トランプ大統領がHyperliquidを米国内へ誘致される可能性の高いプラットフォームとして名指ししたことです。

最終的にどの企業が優位に立つにせよ、私たちはPerpは今後も定着し、米国内のさまざまなプラットフォームで幅広く提供されるようになると考えています。

 

4. AmazonのDSPがOpenAIの広告在庫を取り込む

By Austin Koring | @AustinKoringARK
Research Associate, Social Media/Ad Tech

 

先週、AmazonはOpenAIとの提携を発表しました。この提携により、ChatGPTの広告在庫がAmazonのDemand Side Platform(DSP)に追加されます[12]。DSPとは、広告主が複数のパブリッシャーにまたがるデジタル広告在庫を購入・管理するための広告主向けソフトウェアプラットフォームです。この提携は、OpenAIの広告事業の年間経常収益(ARR)が約10億米ドルに到達した直後に発表されたものであり、また The Trade Desk が従業員数を15%削減する計画を発表した直後でもあります[13]。言い換えれば、Amazonは質の高い広告在庫を追加することでDSP市場における競争力を強化するとともに、低手数料戦略によって独立系競合企業への圧力を強めています。

AmazonのDSPの経済性は非常に魅力的です。The Trade Deskの推定テイクレート(手数料率)が約22%であり、GoogleがDV360経由で購入されるディスプレイ広告在庫に対して15%を徴収しているのに対し、Amazonは自社メディアに対して0%、一部のストリーミング広告在庫に対しても約1%しか徴収していません[14]。Amazonがこれほど低い手数料を維持できるのは、DSPが自社の広告在庫、データ製品、そしてAmazon Web Services(AWS) への需要を生み出しているためです。過去数年間にわたり、Amazonは Netflix、Disney、ESPN、Rokuなどの高品質な広告在庫を追加することで、DSPをAmazon.comの外へと拡大してきました。また、AWS Clean Roomsのようなサービスは、小売業者が保有するファーストパーティデータのプライバシーをAmazon上で保護しています。これにより、大手小売競合企業であるAmazonとの広告取引において長年課題となっていた懸念への対応が可能になっています。

長年にわたり、The Trade Deskは、自ら広告在庫を保有する「ウォールドガーデン型」企業とは異なり、中立的な立場を維持する「スイス」のような存在であることを差別化要因として訴求してきました。しかし、その優位性は薄れつつあるように見えます。なぜならAmazonは、コマースデータ、高品質な広告在庫、効果測定機能、クラウドインフラを単一プラットフォーム上で統合しているからです。さらに、AWSを既に利用している企業に対して関連サービスをクロスセルできることは、広告支出と事業成果を結び付けようとするマーケターに対して大きな競争優位性となっています。私たちは、Amazonが持つこの統合型プラットフォーム戦略が、DSP市場における競争環境を今後さらに変化させる可能性があると考えています。

 

 

 

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[1] OpenAI. 2026. “On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem.” OpenAI.

[2] Winton, B. 2026. “AI Costs Are Plummeting.” ARK Investment Management LLC. 

[3] OpenAI. 2026. “GPT-6 Astra: A New Generation of Intelligence.” OpenAI.

[4] Meta. 2026. “Introducing Muse: The World’s First Personal AI Agent Built for Everyone.”

[5] Grous, N. and A. Kim. 2024. “Generative AI: A New Consumer Operating System.” ARK Investment Management LLC.

[6] Ropek, L. 2026. “Viral AI startup Instinct has raised $350M at a $2.5B valuation.” TechCrunch.

[7] Blockworks Research. 2026. “Crypto Exchanges.”

[8] Hyperliquid Docs. 2026. “Order Book.”

[9] Hamilton, J. and N. De. 2026. “U.S. CFTC opens crypto ‘perp’ door with first approvals at Kalshi, Coinbase.” CoinDesk. Park, D. and V. Chawla. 2-25. “Coinbase launches CFTC-regulated perpetual futures for US traders amid growing crypto regulatory clarity.” The Blockも参照。

[10] Braun, A. 2026. “CME, ICE push U.S. regulators to scrutinize Hyperliquid over manipulation risks.” CoinDesk.

[11] Roberts, J.J. 2026. “Hyperliquid launches DeFi-focused policy shop led by prominent crypto lawyer Jake Chervinsky.” Fortune.

[12] Palmer, A. 2026. “Amazon gives OpenAI’s ad business a boost, letting its advertisers into ChatGPT.” NCBC.

[13] Ostwall, T. 2026. “Is The Trade Desk Running Out of Room to Turn Around?” Ad Week.

[14] Hercher, J. 2026. “The Trade Desk Faces Headwinds As Investors Reconsider The Thesis Of Objective Indie Ad Tech.” Ad Exchanger. Hisaio, S. 2020. “How our display buying platforms share revenue with publishers.” Google Ad Manager. MacLean, K. 2025. “Simplicity and scale—how the Amazon DSP is redefining advertiser value and success.” Amazon Ads.

 

 

 

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