By ARK Invest

本レポートは、2026年10月12日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #529」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. AI関連銘柄を揺るがすOpenAIの200億米ドルの報告ギャップ

By Karim Mattar | @MattarARK
Research Associate, AI & Cloud

 

先週、Financial Timesは、OpenAI(オープンエーアイ)の2026年第3四半期における年換算売上高ランレート(ARR)が、9月末時点で500億米ドルに迫っていたと報じました。これは数ヵ月前に市場で噂されていた700億米ドルを約30%下回る水準です[1]。投資家がOpenAIの成長ペースを見直した結果、NVIDIA(エヌビディア)、Oracle(オラクル)、CoreWeave(コアウィーブ)の株価は下落しました[2]。

ARKでは、この差異の主な要因はARRの算出方法の違いにあると考えています。OpenAIはクラウドパートナーへ支払う手数料控除後のARRを報告している一方で、Anthropic(アンソロピック)は総売上ベースで開示しています。Financial Timesによれば、当初700億米ドルと報じられた数字は、Anthropicとの比較を容易にするためOpenAIのARRを調整したものだった可能性があります。一方、約500億米ドルという数字は、OpenAI自身のより保守的な測定基準に基づいているようです[3]。この情報流出は、OpenAIが約30億米ドルの非公開資金調達を、約1.4兆米ドルの企業価値評価で進めていると報じられる中で明らかになりました[4]。AI関連上場銘柄の売りは、現在のAI投資テーマがいかにOpenAIの成長に依存しているかを浮き彫りにしています。

もっとも、500億米ドル規模のARRは、OpenAIが昨年12月時点で報告していた200億米ドルからわずか9ヵ月で2.5倍に増加したことを意味しており、それ自体は極めて力強い成長です。ただし、Anthropicが昨年12月から今年7月にかけて報告した約7倍の成長率には及びません[5]。将来的にAnthropicとOpenAIが新規株式公開(IPO)を行なえば、総売上と純売上に関する詳細な情報が開示され、投資家は両社の財務指標や成長軌道を同一条件で比較できるようになるでしょう。

 

2. 最先端AIモデルが数学を書き換える中、暗号資産業界はECDSA移行を加速する必要に迫られる

By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Director of Research, Digital Assets

 

暗号資産業界で最も有名な格言の一つに、「Not your keys, not your crypto(秘密鍵を持たなければ、それはあなたの暗号資産ではない)」というものがあります。しかし最近の数学分野での飛躍的進歩を受けて、Ethereum Foundationの研究者であるジャスティン・ドレイクは、より不穏なバージョンを提示しました。「秘密鍵を持っていても、それがあなたの暗号資産とは限らない」

10月7日、ドレイク氏は業界に対して「バンカーモード(緊急防衛体制)」への準備を呼びかけました[6]。彼が懸念しているのは、最先端AIモデルの数学能力が急速に向上していることで、ECDSA(楕円曲線デジタル署名アルゴリズム)を破る発見がなされる可能性があることです。ECDSAは、Bitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、その他多くのブロックチェーンの安全性を支えています。ドレイク氏は必ずしも破られると考えているわけではありません。しかし、コミュニティはその可能性に備えるべきであり、最悪の場合、そのタイムラインは「数年後」ではなく「数ヵ月後」かもしれないと主張しています。

楕円曲線暗号は、特定のトークンの所有権を証明する秘密鍵(プライベートキー)と公開鍵(パブリックキー)を結びつけています。この仕組みは、楕円曲線上の固定点に秘密鍵を掛け合わせることで作られています。いわゆる「楕円曲線離散対数問題」とは、この固定点から元の秘密鍵を逆算する問題です。

これまで誰もこの問題を解くことはできず、それがBitcoinやEthereumのセキュリティを支えてきました。しかし、数学的ブレークスルーによってより高速な解法が発見された場合、公開鍵を見るだけで秘密鍵を推定できるようになり、ウォレット内の資産を盗み出せる可能性があります。

そのシナリオに備え、ドレイク氏は保有者に対し、一度も取引署名を行なったことのない新しいアドレスへ資金を移すことを推奨しています。なぜなら、署名が行なわれると公開鍵が露出しますが、署名履歴のないアドレスはハッシュ値しか公開されないため、攻撃者には解析対象となる公開鍵が存在しないからです。ドレイク氏の警告は、AIがいかに急速に長年の数学的常識を覆し、数学問題を解決しつつあるかを示しています。最近では、エルデシュ単位距離予想や整数乗算アルゴリズムに関する長年の定説が覆されました[7]。さらに今年9月、OpenAIは「ナビエ・ストークス方程式の存在と滑らかさ問題」に対するAI生成解法を発表しました。この問題は、クレイ数学研究所が提示した7つのミレニアム懸賞問題の一つです。この研究では、滑らかな流体運動が有限時間内に特異点を形成しうることが示されました[8]。正式な証明は、数学的証明を検証するプログラミング言語兼支援ツールであるLean(リーン)で記述されています。OpenAIはその後、この成果に続き、今月722件の数学研究成果を公開しました[9]。

現時点で楕円曲線暗号が破られたことを示す成果はありません。しかし近年のブレークスルーは、「何十年も有効な攻撃が見つからなかったから今後も見つからないだろう」という前提を弱めています。その影響は暗号資産にとどまりません。楕円曲線暗号やRSA暗号(発明者のRivest、Shamir、Adlemanの頭文字に由来)は、銀行システム、Web通信、ソフトウェア署名などを保護しています。ただし、許可不要性(Permissionlessness)、自己管理(Self-Custody)、価値保存を中核理念としてきた3兆米ドル規模の暗号資産市場にとっては、影響がより直接的です。秘密鍵そのものが所有権を定義しているためです。

暗号資産業界は、この種のリスクの一形態である量子コンピューティングへの備えを長年進めてきました。その結果、耐量子暗号方式の研究が進み、ハッシュベース署名についても豊富な知見が蓄積されています。したがって解決策は存在します。ARKでは、最近のAIによる数学分野でのブレークスルーは暗号資産業界にとって存続を脅かすものではないと考えています。しかし、コミュニティが結束し、より高度なセキュリティに向けた明確なロードマップを構築するまでの時間を大幅に短縮させる可能性があるとみています。

 

3. SpaceX、Starlink Mobile完成に向けた最後のピースを獲得

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Research, Autonomous Technology & Robotics /
Director of Investment Analysis

 

先週、Wall Street Journalによると、SpaceX(スペースX)は、Grain Management(グレイン・マネジメント)が保有する全米規模の800MHz帯周波数資産を、最大14MHzのペア低周波帯域を含め、約80億米ドルの現金で買収することで合意しました[10]。この取引には米連邦通信委員会(FCC)の承認が必要です[11]。

その2日前には、FCCがSpaceXに対して、最大15,000基の次世代Direct-to-Cell衛星の打ち上げを承認していました[12]。これは現在運用中の約650基のDirect-to-Cell衛星から大幅な拡張となります[13]。SpaceXによると、新世代衛星の通信容量は現行世代の100倍以上になる見込みです[14]。これら二つの動きによって、Starlink(スターリンク) Mobileは、通信圏外対策向けの補完サービスではなく、本格的な移動体通信事業者へと進化する現実的な道筋を手に入れたと考えられます。

イーロン・マスク氏は、800MHz帯域について「SpaceXが米国全土で完全な携帯電話サービスを提供するために必要だった、周波数パズルの最後の重要なピース」と表現しました[15]。このニュースを受けて、Verizon(ベライゾン)とT-Mobile(Tモバイル)の株価はともに下落しました[16]。

この買収によって解消される最大の課題は、Starlink Mobileの屋内通信能力です。現在のStarlink Mobileは、数百キロメートル上空の衛星から直接スマートフォンへ信号を送っています。しかし、その信号は建物の屋根や壁を安定的に透過するには弱すぎます。そのため、T-Mobileの周波数帯を利用した現在のDirect-to-Cellサービスは、主に屋外でのテキスト通信や軽量データ通信に限定されています[17]。800MHz帯の取得は、通信距離と周波数という二つの課題を同時に解決します。まず、SpaceXは地上からも電波を送信する計画です。同社のFCC提出資料によれば、「基地局、ビル屋上、その他の構造物に設置された指向性アンテナへ無線設備を接続して展開する」とされています[18]。次に、800MHz帯は2GHz帯と比べて電波の波長が2倍以上長いため、壁や樹木を通過する際の減衰が小さく、障害物を回り込みやすいという特性があります。さらに、多くのスマートフォンは現在でも800MHz帯をサポートしており、かつてNextel(ネクステル)が利用していた周波数帯でもあります[19]。

低周波帯域の周波数資産は市場に出る機会が極めて少ないため、SpaceXはこの機会を逃しませんでした。そしてさらに追加取得を検討している可能性があります。8月には同社がFCCに対して、900MHz帯ブロードバンド免許についても柔軟な整備条件を求める申請を行ないました。この要請は、同帯域の最大保有企業であるAnterix(アンテリックス)からも支持を受けています[20]。

もっとも、今回の買収後でもSpaceXが保有する周波数は約79MHzに過ぎません。これに対して、AT&T(エーティーアンドティー):300MHz超Verizon:約279MHzT-Mobile:375MHzを保有しています[21]。SpaceXは、周波数量ではなく「基地局密度」で勝負する考えです。社長兼COOのグウィン・ショットウェルは、既存のStarlinkアンテナ設備に小型フェムトセル基地局を設置する構想を説明しています。既存設備は電力と衛星バックホール接続をすでに備えているため、需要に応じて効率的に展開できるという考えです[22]。無線通信容量は、利用可能な周波数帯域幅同一周波数を再利用するセル数によって決まります。理論上は、既存通信事業者の4分の1の周波数しか保有していなくても、高需要地域で数倍のセル密度を実現できれば、同等の通信容量を提供できる可能性があります。一方で懐疑的な見方もあります。現在のStarlinkアンテナ設置場所は、必ずしも携帯通信需要の高いエリアと一致していないためです[23]。それでも現時点で、SpaceXはモバイル通信参入に必要な主要要素をほぼ揃えました。800MHz帯による広域かつ屋内向けカバレッジ2GHz帯の衛星による広範囲接続フェムトセルによる通信容量強化モバイル通信市場への本格参入に向け、パズルのピースが着実にそろいつつあります。

 

 

 

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[1] The Financial Times. 2026. “OpenAI annualised revenues $20bn less than previously signalled.”
[2] Capoot, A. and K. Rooney. 2026. “Nvidia, Oracle, CoreWeave and other AI stocks sink on OpenAI revenue report.” CNBC.
[3] The Financial Times. 2026. “OpenAI annualised revenues $20bn less than previously signalled.”
[4] Bloomberg. 2026. “OpenAI Targets $30 Billion in Funding at $1.4 Trillion Value.”
[5] Investing.com. 2026. “OpenAI CFO says annualized revenue crosses $20 billion in 2025.”
[6] Khatri, Y. 2026. “Ethereum researcher Justin Drake calls for 'bunker mode' planning over private key recovery risk.”
[7] OpenAI. 2026. “An OpenAI model has disproved a central conjecture in discrete geometry.”
[8] OpenAI. 2026. “On the Navier–Stokes Millennium Prize Problem.”
[9] OpenAI. 2026. “Sharing AI progress in mathematics.”
[10] Haggin, P. and D. FitzGerald. 2026. “SpaceX Makes Big Play to Become a Wireless Carrier.” The Wall Street Journal.
[11] 同上。
[12] Robinson, D. 2026. "SpaceX to buy key spectrum that could help Starlink Mobile become major US cell carrier." The Register.
[13] Fierce Network. 2026. "MWC 2026: Starlink Mobile unveils plans for V2 satellites and more. "
[14] SpaceX. 2026. “Building the World’s Most Advanced Mobile Network.” (SpaceXによる説明資料)
[15] Musk, E. 2026. “This is the last critical piece of the spectrum puzzle needed for SpaceX to provide complete phone coverage in America.” X.
[16] Robinson, D. 2026. "SpaceX to buy key spectrum that could help Starlink Mobile become major US cell carrier." The Register.
[17] T-Mobile. 2026. “T-Satellite: Direct to Cell Satellite Phone Service.”
[18] SpaceX. 2026. “Description of the Transaction and Public Interest Statement.”
[19] SpaceX. 2026. “Building the World’s Most Advanced Mobile Network.”
[20] Anterix. 2026. "Anterix Issues Statement in Support of SpaceX Proposal.”
[21] Haas, R. 2025. "Spectrum Snapshot: AT&T becomes the second-largest spectrum holder in the US after EchoStar trade." PolicyTracker. Yahoo!Finance. 2026."SpaceX's mobile ambitions jolt US telecom market, analysts debate threat."
[22] Yahoo!Finance. 2026. “SpaceX (SPCX) Q2 2026 Earnings Call Transcript.”
[23] Alleven, M. "Analysts question whether SpaceX's mobile mission will lift off." Fierce Network.

 

 

 

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