By ARK Invest

イノベーションは世界の在り方を変えつつあるとともに、命を救ったり、生産性の向上をもたらしたり、ユーザーや開発者を力付けたり、経済成長の環境的・社会的外部性を低減させたりすることによって、最終的に世界をより良い場所にしているとARKは考えます。以下に、破壊的イノベーションがどのように命を救うかに関して以前に発行したリサーチから、いくつか例を挙げたいと思います。

ディープラーニングによって放射線診断が急速に進化

放射線医学にとって非常に重要なのが医療用画像診断ですが、これは多くの時間と労力を必要とし誤診が起きやすいプロセスです1。過去のデータとして、1949年から1992年までの調査報告によると、放射線科医による平均誤診率は30%程度となっています2。よくあるのは放射線科医による肺がん結節の見逃しや誤診で、乳がんも同様のケースが3070%あり、特に進行のより早期のステージではその傾向が強くなります。多くの場合、放射線科医はマンモグラフィーを通じて乳がんを見つけますが、以前のマンモグラム(乳房のレントゲン写真)をもう一度見ていれば、より早く診断できたかもしれません。

このような誤診の多くは、放射線科医の責任とは言えないでしょう。放射線画像には組織や骨、内臓が重なって写っており、問題のある箇所を正確に特定するのが困難になります。その上、救急治療室の放射線科医が分析する症例数は1日当たり200にも上ることがあり3、何件か誤診が起こる可能性は避けられなくなっています。

ARKでは、知能ソフトウェアがこの問題を解決できる可能性があると見ています。人間の脳を大まかに真似た人工知能形態「ディープラーニング(深層学習)」における直近の飛躍的進歩により、コンピューターは今や人間を上回る正確性をもって画像を認識することができます4。多くの個人向けインターネット・アプリケーションではすでに広く使われていますが、同じ技術を医療用画像に応用することにより多くの命を救える可能性があります。

ドローンは毎年病院外心停止で亡くなる2万人の命を救える可能性がある

米国では毎年、およそ35万件のOHCA(病院外心停止)が起きており、そのうち患者が助かる割合は12%にしかすぎません5。生存率がそれほどまでに低い理由の1つは、緊急通報されてから救急車が現場に到着するまで平均11分かかっている6ことにあります。これは素晴らしい早さであると言えるものの、レスポンスタイム(緊急通報から救急車到着までの時間)がさらに短縮されれば、下のチャートが示す通り多くの命を救える可能性があります。

 

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eVTOL(電動垂直離発着ドローン)が救急車のレスポンスタイム短縮化に対する答えとなるかもしれません。ARKのリサーチによると、eVTOLは救急隊員を患者まで平均5分で運ぶことができ、コストも1回につき150ドル程度にすぎません。これに地上走行救急車による支援が加われば、年間で2万人もの命を救える可能性があります。

CRISPR技術は増大する人口の食糧問題の解決に貢献できる可能性がある

国連によると、2050年までに、世界の人口は現在の70億人超からおよそ96億人に増え、食糧需要を70%押し上げる7と見られています。既存の技術ではこのような食糧生産の目標を満たすことができないばかりでなく、サプライチェーン管理の非効率さによって生産された食糧が飢える消費者に届かず、問題を悪化させることも想定されます。ARKのリサーチによると、遺伝子編集技術CRISPRは、今後5年から10年にわたって世界人口の増加に見合う十分なカロリー量を生み出すのに貢献すると想定されます。

現在、世界の人口は年間1.12%(7,800万~8,300万人)のペースで増加しており82017年から2025年の間に63,000万人増加することを示していますが、この増加人口において1日当たり2,000カロリーというFDA(米国食品医薬品局)のガイドラインを満たすには、およそ460兆カロリーが必要となります9ARKの計算によると、CRISPRは世界で消費可能な総カロリー量を6%押し上げることができると見込まれ、これは増加する63,000万人に必要な量を27%上回ります。実際、以下のチャートからわかるように、CRISPRによって農業の生産性向上のペースはいずれ人口増加率を上回るものと想定されます。

 

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自動運転車は自動車事故で死亡する可能性を80%超減らす見込み

自動運転車市場は現在依然として初期段階にありますが、ARKでは、向こう10年に自動運転車が一般消費者に急速に普及する主な理由はその安全性になると見ています。

米国では毎年、自動車事故の死亡者数は140万人を超えており、その経済的コストは数千億ドルに上ります10ARKでは、自動運転車の安全性の進歩について、数万人の命を救ってきた別の自動化技術である飛行機の自動操縦の導入を分析することにより、その期待される影響度を定量化しました。自動運転車が安全性において同様の優位性を提供するとしたら、自動運転車の導入は国民の健康における歴史的大進歩の1つとなるかもしれません。ARKでは、自動運転技術プラットフォームの提供企業とアクティブ・セーフティー(自動車の安全技術のうち、事故を未然に防ぐための能動的安全技術)のインテグレーター(システムの企画・構築・運用などを一括して請け負う企業)が、この動きを推進していくと見ています。

ARKは、GoogleTeslaAutolivDelphi、およびMobileyeのイノベーションが、将来の自動車事故の減少に貢献すると考えます。GoogleTesla2020年までに完全自動運転車プラットフォームの実用化に踏み切ると期待されています。これらのシステムが用いられる可能性がある自動運転タクシーは、料金が1マイル当たり0.25ドルもの低額になる可能性があり、市場機会は4,500億ドルに上ると見られます。より近い将来の話としては、MobileyeAutoliv、およびDelphiが既に自動運転車の安全機能の開発と実装を行なっています。現在、世界で140億ドル規模となっている衝突回避装置および運転支援システムの市場は、新車における半自動運転機能搭載の一般化が進むなか、年率25%の拡大が予想されています。世界には10億台超の自動車がありますが、アクティブ・セーフティーと自動運転技術の提供企業はそれらの安全性を80%超向上させることができます。

 

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  1. https://medlineplus.gov/ency/article/007451.htm
  2. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1955762/
  3. https://www.youtube.com/watch?v=0i11VCNacAE
  4. https://ark-invest.com/research/artificial-intelligence-took-off
  5. https://cpr.heart.org/AHAECC/CPRAndECC/ResuscitationScience/UCM_477263_AHA-Cardiac-Arrest-Statistics.jsp%5BR=301,L,NC%5D
  6. https://www.reuters.com/article/us-health-emergency-response-times/be-prepared-for-ambulance-wait-times-idUSKBN1A42KQ; https://www1.nyc.gov/site/911reporting/reports/end-to-end-repsonse-time.page
  7. http://www.fao.org/fileadmin/templates/wsfs/docs/Issues_papers/HLEF2050_Global_Agriculture.pdf
  8. http://www.worldometers.info/world-population/
  9. 「効率的」生産とは、生産されたカロリー量のうち消費以外の目的に使用される農作物のものを除いたネット・カロリー量を指します。
  10. ARKWHO(世界保健機関)、世界銀行、およびウルフラム・アルファのデータを用いて算出。国毎に、i =国民1人当たりGDPの成長率、n =(平均寿命-交通事故死者の平均年齢)、支払い=国民1人当たりGDP として、年間交通死亡事故による経済的損失の現在価値を計算。
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