By Sam Korus

歴史を通じて、オートメーション(自動化)は失業の懸念を引き起こしてきましたが、実際には、テクノロジーが長期にわたって雇用を創出してきたように見受けられます。それでも、社会通念は、イノベーションの波が押し寄せる度に、再び「今回は違う」という従来の結論に戻ってしまうようです。

本レポートでは、オートメーション、特に、今日のロボティクスと人工知能(AI)の影響を批判する人々が見落としている2つの歴史的ポイントについて取り上げます。

1. オートメーションは賃金を上昇させることができる。
2. オートメーションは非市場活動を商業活動に変えることができる。

ARKでは、農業や食品、自動運転車、製造業などの産業が、既に上記のポイントを説明する良い例となっており、他の産業でも同様の動向が続くとみています。例えば、1970年代初期までの30年間で、トラクターを所有する農場の割合は、下図が示す通り、およそ20%から80%超へと増加しました。1930年代には農業が米国の雇用の21.5%を占めていたことから、トラクターへの移行は大規模な失業と恐慌再来の不安を引き起こしました。

 

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出所: ARK Investment Management LLC,(データの出所はhttp://people.duke.edu/~rcd2/Dissertation/References/Theory/Tractor%20Ag.pdf)

 

ラバからトラクターへの切り替えにより、労働生産性、つまり労働時間当たりの生産量は飛躍的に向上しました。1945年には、農場が2頭のラバで100ポンド(約45キログラム)の繰綿を生産するのに、42労働時間と0.5エーカー(約2,000平方メートル)の土地が必要でした。その30年後の1975年、トラクターを持つ農場は、わずか2.5労働時間と0.25エーカー足らずの土地で同じ量の綿花を生産できるようになりました(下のチャート参照)[1]。言い換えると、労働生産性は17倍超と大幅に向上したことになります。

 

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出所:ARK Investment Management LLC (データの出所は「Economic Trends in U.S. Agriculture and Food Systems Since World War」、https://www.thoughtco.com/history-of-american-agriculture-farm-machinery-4074385)

 

農場のオートメーションは、仕事の価値向上と賃金の上昇をもたらしました。トラクターのおかげで、1940年代から1970年代初期にかけて、農場の実質賃金は76%以上も上昇しました(下図参照)。

 

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出所;ARK Investment Management LLC (データの出所は https://www.ers.usda.gov/data-products/agricultural-productivity-in-the-us/)

 

それでも批判派は、今度は総労働時間の落ち込みに焦点を当てて、主題を変えようとしました。1950年から1975年のあいだに米国の農業における総雇用者数がおよそ1,000万人から400万人に減少したのは確かですが、600万人の「失われた雇用」のうち82%は無給の家族労働者で(下図参照)[2]、こうした人々には有給の仕事を求職・獲得する機会がもたらされたのです。

 

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出所:ARK Investment Management LLC(データの出所はhttps://www.ers.usda.gov/topics/farm-economy/farm-labor/#size)

 

このような雇用動向の変化は農業に限ったことではありません。オートメーションによって、他の産業でも「無給」の労働が「有給」の労働に代わりました。例えば、洗濯機は、衣類の洗濯に費やされていた無給の時間を、収益化しました。今後は、下図が示すように、フードサービスの自動化により、食料品の買い物や食事の支度・片付けに伴う非市場活動が、よりコスト効率の良いフード・デリバリーという選択肢へと商業化される可能性があります。

 

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出所;ARK Investment Management LLC

 

交通機関についても、人が通勤等に費やする時間が「無給」であることから、同様の力学に従うことになると想定されます。米国では、110万人のプロのタクシー・配車サービスドライバー[3]と2億2,500万人の「ノンプロ」ドライバーが、1マイル当たり約0.70米ドルをかけて自身の車を運転しています。当社の調査によると、遠隔オペレーターのネットワークがコーナー・ケース(めったに発生しない厄介なケース)に対応することにより、成熟した自動運転タクシー・ネットワークは1マイル当たりわずか0.25米ドルで輸送サービスを提供できるようになり、そうなれば110万人のプロ・ドライバーが不要になるとともに、2億2,500万人のノンプロ・ドライバーに自動運転車へ切り替える価値が生まれます。ARKでは、自動運転タクシー・ネットワークの初期段階に必要となる遠隔オペレーターの数は今日雇用されているプロ・ドライバー数の3倍にあたるおよそ300万人になると推定しており、この全員が現在では非市場活動に分類されている数兆米ドルを実際の収益として生み出すことになるとみています。

ARKは、自動化がインフレ率を下げ、実質GDPの成長を加速させる重要な経済の原動力であると考えていますが、過去15~20年の結果に影響を及ぼしたトレンドは他にもいくつかあるようです。例えば製造業では、生産性が向上したにもかかわらず、下のグラフが示すように実質賃金が低下してきていますが、この要因はおそらく、中国のWTO(世界貿易機関)加盟を受けて進んだ、生産の海外移転とそれに伴う正規フルタイム雇用の減少にあると思われます。

 

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出所:ARK Investment Management LLC(データの出所は米国労働省労働統計局、https://fred.stlouisfed.org/series/CES3000000008#0)

 

とは言え、ARKは「今回は違う」という理由で「テクノロジーがもたらす失業」を恐れる懐疑論者には、その立証責任があると考えます。私たちは、今回も過去と同様の結果になる、つまり「今回は違う」とは思っていません。

 

 

[1] 「Economic Trends in U.S. Agriculture and Food Systems Since World War」: https://arkinv.st/3q892fV

[2] 他にも注目すべき点として、有給の農業従事者のうち失職した18%は恒久的に失業していたわけではなく、農業以外の分野で仕事を見つけた。

[3] 米国にはおよそ37万人のタクシー・ドライバーがいる。配車サービスのウーバー/リフトのドライバー数は約250万人に上るが、ウーバーのドライバーの大半は週次の勤務時間が12時間に満たない。多めに見積もって、フルタイム相当ベースでのウーバー/リフトのドライバー数はおよそ75万人と推定される(250万人×12時間/40時間=75万人)。
https://therideshareguy.com/how-many-uber-drivers-are-there/
https://www.vox.com/2018/10/2/17924628/uber-drivers-make-hourly-expenses https://www.bls.gov/OOH/transportation-and-materialmoving/taxi-drivers-and-chauffeurs.htm.

 

 

 

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