By Catherine D. Wood

コロナウイルス危機に際して目まぐるしく変化するニュースと市場のボラティリティを受け、2020年3月3日付でリリースした原文に追記、更新致しました。皆様のお役に立つことを願っています。

 

コロナウイルスは、当然のことながら、マーケットを動揺させました。解決策の半分は問題を理解することであり、私たちは世界各国の普遍的で協調的な政策対応を心強く受け止めています。

 

2020年3月17日火曜日、Laffer Associatesはコロナウイルスに対する医学的、及び科学的対応についての電話会議を開催しました。HCA医療システムのトッププロフェッショナルであるMichael Stabile博士と、Ardent Health Services最高医療責任者兼最高品質責任者であるF.J. Campbell博士によると、米国はヨーロッパの諸国と比較しても、死亡率を最小限に食い止める準備がはるかに進んでいます。 この成功を決定的なものとする要因は、人口10万人あたりの集中治療室(ICU)の病床数です。 米国では、10万人あたり34台のICUベッドがあり、ドイツにおける29.5台に近いものがありますが、イタリアの12.5台や英国の6.6台を大きく上回っています。 博士たちは、後日、致死率がピークを打ったと判断される2ヵ月間の周期に米国が2~3週間前に入ったと見ており、おそらくは、ほとんどの人が現在恐れているよりも、はるかに低い死亡率に留まると考えています。

 

グローバル規模の政策対応によりやがて危機は終わり、上げ相場となったのち、持続すると見る

私のキャリアの中で、このようなグローバル規模での政策対応が取られた時期が3回ありましたが、それぞれが顕著な株式の上げ相場の引き金となるか、それを持続させる要因となりました。1985年のプラザ合意、1990年代中期から後期の2000年問題、2008-2009年のグローバル金融危機が該当します。 いずれも、深刻な景気後退の予測に反応して一旦修正を余儀なくされたものの、その後投資家達は最低でも2年間は株価の上昇を享受しました。

たとえば、1980年から1985年にかけてドルが50%上昇した後、世界各国の財務大臣がニューヨーク市のプラザホテルに集まり、ドルに飢えた世界における広範なデフレのリスクを認識し、ドルを正常化する政策をまとめました。これに反応して、S&P500はその後2年間でほぼ倍増しました。

マサチューセッツ州のプログラマーであるDavid Eddyは、1993年に書いたComputerworldの記事「Doomsday 2000」に続いて、1995年の半ばに頭字語Y2Kを生み出し、1996年にMcGraw Hillが発行した書籍「The Year 2000 Computing Crisis」や、1997年に英国規格協会が発行した「Year 2000 Conformity Requirements」のようなガイドラインが生まれる要因となりました。世界各国の政府は、新世紀の幕開けを迎えるにあたり、テクノロジー関連による経済的崩壊を阻止するために、財政政策と金融政策の両方の策定を目指したため、S&P500は1995年から1999年後半にかけての4年半でほぼ4倍になりました。

最後に、サブプライムローンの暴落とリーマン・ブラザーズの破綻が起きたグローバル金融危機(GFC)の最中およびその後も、世界中の財政および金融政策立案者は経済崩壊を防ぐための努力で団結しました。2012年に欧州中央銀行総裁マリオ・ドラギが「… ECBはユーロを維持するために必要なことは何でもする用意ができています…そしてそれで十分だと信じています。」 という声明を出したことは広く知られています。2009年3月の最悪の時から、S&P500は今年初めのピーク時には5倍以上になりました。

 

世界各国の政策立案者はコロナウイルスの撲滅と不況の回避ために団結しています

さて、わたしたちはまたこの度「SARS-CoV-2」という名前のウイルスとそれが引き起こす疾患「コロナウイルス病2019」(「COVID-19」と略記)の世界的な経済的影響に直面しています。世界各国の政府は、改めて財政的にも金銭的にも決意を持って対応しています。

先週、COVID-19がどれほど深刻かを理解するために、エルサレムのヘブライ大学で構造ウイルス化学の教授であるイザヤ(シャイ)アーキン教授にインタビューしました。

このウイルスがどれほど深刻であるかを軽視することなく、最悪、最良、そして最も起こりうる結果について議論しながら、私はソーシャルメディア上で拡散されているCOVID-19に対する懸念は、実際にウイルスに罹患するよりも過剰な反応になっていると考え始めました。実際、このコロナウイルスは若者を襲っているようには見受けられず、ソーシャルメディアがその点を見逃してしまっているようです。

COVID-19を一般的なインフルエンザと比較した統計からも、意味のある答えが見つかります。米国内だけでも、冬のインフルエンザは通常約3,500万人、人口の10%近くに影響を与え、高齢者や若者などの約35,000人もの命を奪いますが、対照的に、COVID-19は、これまでのところ米国だけでなく世界中で100,000人未満の人々に影響を与え、3,000人未満の命を奪い、執筆時点では米国でも6人の死者が出ています。とは言え、COVID-19は、アジアおよびヨーロッパよりもずっと遅れて米国に到達し、検査が今週本格的に始まったばかりのため、ネガティブなニュース見出しがさらに数ヵ月続く可能性は高いです。

死亡率は典型的な冬のインフルエンザの死亡率よりも高いものの、北半球に春が訪れていることだけでなく、将来的にも次の3つの理由で症例の総数ははるかに少なく抑えられる可能性があります。トランプ政権は1月下旬に中国から、3月中旬にヨーロッパから訪れる非アメリカ人の入国を認めないことを決定しました。また、ロシュは記録的な速さで検査薬を開発しました。また、ギリアドなどのバイオテクノロジー企業は、コロナウイルスを鎮静化するために既存の抗ウイルス療法の再利用を試みています。中国と韓国のデータに基づいた最近の研究よると、マラリア用に開発された75年前のジェネリック医薬品であるクロロキンが、COVID-19を制御するだけでなく、それを予防する可能性を示唆しています。今回は異なる可能性もありますが、ウイルスは温暖な気候では生き残れない傾向があるため、

持続的な人的および経済的な脅威の可能性は減少しています。さらに、消費者と企業がCOVID-19を回避するために講じた予防措置、特に現在米国の州および地方政府が地域を閉鎖しはじめているため、COVID-19だけでなく、より伝統的な冬のインフルエンザへの罹患数や死亡者を抑えることに繋がるでしょう。

 

グローバル規模でのV字回復の公算が増しました

中国およびその他の地域で実施されている極端な政策措置を考えると、この短期的なショックから世界経済がV字回復する公算は増しました。米国における大統領選挙の年であることも既に功を奏しているようです。

過去1年間、私は米国と中国の両国において消費者と企業の景況感が異なる方向を向いていること、また消費者の力強い支出が続いていることに注目していました。 COVID-19の問題が起きるまで、企業が委縮している間も消費者景気信頼感と支出は強かったのです。 2月下旬のブルームバーグのウィークリー消費者信頼感指数で測定されるように、米国の消費者の景気信頼感は2000年以来の強さでした。ほぼ同じ時期に、米国購買担当者景気指数(PMI)は4年間の最低に低迷しました。さまざまな貿易紛争や逆イールドカーブへの平坦化により、企業の不振が続いている間も、消費者は記録的に低い失業率と賃金上昇の加速に反応していました。歴史的に、逆イールドカーブは12~18ヵ月以内に不況が起こるという前触れでしたが、以前のレターで詳細に説明したように、狂騒の20年代に至る前の50年間における真に破壊的なイノベーション期間の終わりでは、逆イールドは当たり前となりました。中国においてもストーリーは同じです。最近まで、 PMIが急落した一方、消費者景気信頼感と支出は堅調でした。

言い換えれば、企業の在庫と設備投資は、消費者支出が引き続き堅調であることと乖離しており、これは典型的なV字回復の予兆といえます。私たちの見解では、実質GDPは、キャンセルされたフライトや会議、その他の在庫や資本支出の削減を引き起こす他のビジネスの混乱によって年半ばまで打撃を受ける可能性がありますが、世界的なリバウンドを伴うゴムバンドは1年以上伸び続けています。その結果として起こるV字回復は、今年の後半から2021年にかけて高い方へと向かい、大きな驚きをもたらす可能性があります。

もうひとつの説は、持続不可能な企業債務の世界規模での蔓延が、デフレ不況を助長する過程にあることを示唆しています。自社株買いや未公開企業への「安定した」投資活動により、多くの企業は将来に十分な準備をしておらず、特にこの危機と破壊的イノベーションによって破壊される産業に被害が及びつつあるようです。 私たちは、エネルギー、銀行、その他の金融サービス、自動車、実店舗、伝統的なヘルスケア、メディアに関連する企業がとりわけ危機に面していると考えています。 技術者のClayton Christensenとオーストリアの経済学者Joseph Schumpeterに敬意を表して、「破壊的イノベーション」と「創造的破壊」は、この危機の間、また今後も新しい意味を持つことになりそうです。

 

激動の時代にこそイノベーションが普及

私たちの生涯で最悪の金融危機の間、ほとんどの投資家が予想していたよりもイノベーションが大きな牽引力を得ました。より速く、より安く、より費用効果が高く、創造的な製品とサービスを提供する企業が大きなシェアを獲得しました。 金融危機の期間中、Software-as-a-Serviceとオンライン小売が主な受益者でした。たとえば、2008~2009年頃に企業のテクノロジー関連の設備投資が20~30%削減された結果、Salesforce.comは最悪の四半期に20%の収益増加を達成しました。同時に、小売売上高が減少した一方で、Amazonは最悪の四半期に14%の成長を達成しました。

弱気市場の前半では、イノベーションは追い風を受けているにもかかわらず、破壊的なイノベーションに関連する株式はパフォーマンスが低下する傾向があります。リスクオフ環境では、ベンチマークに敏感な投資家は、イノベーションの対象となる株式を、ベンチマークの「安全性」を求めて売却します。

私がARK Investを設立した理由が正しければ、この行動は逆効果になります。実際、従来の世界秩序に関連するリスクは上昇しているため、イノベーション重視のポートフォリオは、ベンチマークに敏感なパッシブ戦略に対する重要なヘッジとなります。デジタルウォレットの潮流は、銀行の支店やその他の金融サービスを損なう可能性があります。自動運転電気自動車は、従来の自動車、ライドシェアリング、物流、短距離航空会社、および鉄道を混乱させるはずです。協働ロボットは労働力不足と伝染予防の為の遠隔労働の解決策となり、人工知能とブロックチェーンテクノロジーは世界規模でのサプライチェーンの非効率性と新興市場の決済インフラ問題を解決します。

私たちは、コロナウイルスによって引き起こされた乱気流がイノベーションに伝統的な世界秩序を打ち破る別の機会を与えていると信じています。堅固で官僚的な競合他社とは異なり、当社が保有する企業は、肝の座った、無駄のない、俊敏な群れである傾向にあります。今日進化している5つのイノベーションプラットフォームはそれぞれ、問題に対するソリューションを提供しています。 DNAシーケンスと人工知能のブレークスルーにより、研究者は2003年のSARSコロナウイルスにかけた5ヵ月と比較して、わずか2日でCOVID-19ウイルスの配列を決定しました。結果として、FDA(米食品医薬品局)は12~18ヵ月間ではなく数ヵ月で最初のワクチンを承認する見込みです。現金のやり取りがウイルスを拡散する可能性があることが分かった今、消費者はApple Payなどの非接触型支払いや、Cash AppやVenmoなどのデジタルウォレットを更に急いで導入し、外出に備えると思われます。その時までは、屋内が現在の活動の中心であるため、企業は生産性とコラボレーション・ツール/サービスへの支出を増加させるだけでなく、デジタル従業員をサポートするための設備投資を増やす見込みです。また、一方で消費者はストリーミングビデオやゲームへの支出のみならず、オンライン教育や遠隔医療サービスの利用頻度が高まります。最後に、コロナウイルスはサプライチェーンを混乱させ、世界中で部品不足を引き起こしているため、最終需要に近い部品の短納期製造と3Dプリンティングがより大きな牽引力を得るはずです。一方、ロボティクスは、伝染予防のための遠隔労働と収益性向上に役立つかもしれません。

 

結論

COVID-19は、ソーシャルメディアに植え付けられた恐怖、あるいは過剰反応と共に急速に広まり、1年以上前から万全に整っていた消費者行動とビジネス行動の二つを悪化させました。 在庫と設備投資は今後数ヵ月で減少する可能性がありますが、世界中の政府は対応の過程で団結し、需要を復活させる決意を示しています。このようなアクションは、過去の歴史上では株式市場の上昇の原動力になりました。 その結果、世界的にV字回復の可能性が高まっています。

乱気流の期間中の典型的な事象として、消費者と企業は考え方を変えることに前向きになり、行動も変えようとします。 どちらも自らのニーズを満たすために、より安く、より生産的で、より創造的な方法を探している為、私たちは破壊的なイノベーションが根付き、大きな市場シェアを獲得すると信じています。

 

PDFをダウンロードする

 

当レポートは、ARK社による独自の見解であり、文責はARK社にのみあります。また、ARK社の英語による2020年3月発行のレポートの日本語訳の一部であり、内容については英語による原本が日本語版に優先します。全文を確認したい場合はhttps://ark-invest.com/research/coronavirus をご覧ください。

Catherine D. Wood

About the author

Catherine D. Wood Read more articles by Catherine D. Wood