By Yassine Elmandjra

このシリーズでは、暗号通貨市場が独占またはほぼ独占となる仕組みについて見ていきます。第1部では、これまでの貨幣の形態の限界に着目しながら、暗号通貨を含めた金融システムの発展について取り上げます。第2部では、ビットコインのような明確な勝者が、なぜ暗号通貨市場のすべてではなくとも大半のシェアを獲得すると考えられるのかについて説明します。第3部では、暗号通貨が世界のマネタリーベースのどのくらいのシェアを獲得することができるのか分析します。

 

第1部:暗号通貨と金融システムの発展

グローバルな貨幣の追求

貨幣制度が出来る以前は、物々交換が交換の共通手段でした。「必要な物の一致」が条件となることから、人々は物々交換がどれだけ実行困難で非効率であるかということに気付くようになりました。その結果、交換を円滑にするものとして、貝殻、ガラス玉、家畜といった仲介となる物を用いた間接的な交換が台頭しました。やがて、蒸気機関、内燃機関、電話や電気といった新しい技術によって製造業や交通が急速に発達すると、貿易が促進され、流通エリアがよりグローバルな貨幣が必要となりました。しかし、既存の交換媒体は、希少であるものの製造費用が安価であったことから、購買力の信頼ある保証がなく、特に外国人が地域固有の貨幣の形態を再現する方法を習得したため、そのことを知らない法域および国々の富は低減し、損なわれました。1

 

こうした初期の貨幣の形態に限界があることがわかり始めると、より優れた価値の保存および交換の媒体として、希少性、耐久性、携帯性、代替性、検証性、可分性、確立性を備えた新しい形態の貨幣が出現しました。自然淘汰の過程を通じてこれらの貨幣は優勢さを競い合い、19世紀に金が世界の貨幣の基準として発展しました。

 

金に続いて、他のコモディティの貨幣も現れました。特に、銀は日々の取引において、金よりも煩雑さを含めた取引コストがかなり低いことからポピュラーでした。銀の1単位重量あたりの価値は金よりも低いため、より少額の取引には金よりも向いていました。2 何世紀もの間、金銀比価は1215倍のレンジで推移し、金銀複本位制に進展しました。

 

金銀複本位制は一時的なものとなり、金に裏付けされた紙幣が情報システムやテクノロジーによって出来るまでの穴埋め的な手段となりました。あらゆる価値の取引が金の単位による紙幣で行えるようになると、銀は金融システムでの立場を失い、下記のチャートに示されているように金銀比価は15倍から70倍まで急上昇しました。つまり、銀は金の単位で75%近くの価値を失ったことになります。

 

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時間が経過するにつれて、世界の貨幣としての金の限界が表面化し始めました。1単位重量当たりの大きさや価値の高さから、中央管理に関連する人の介入に弱みがありました。各取引には、金塊に加えて計測などが必要であったことから、各国は鋳造すること、つまり硬貨を製造して単位を標準化するようになりました。「悪鋳(貨幣当たりの金属重量を減らすこと)」された金の硬貨は、通貨の価値が下がり、購買力が著しく低下しました。

 

やがて、金細工師が貴金属の「管理人」となり、モノやサービスとの交換に使用される紙幣の借用証書(IOU)を発行しました。金細工師は、財産の引き出しが同時に起こらないことから、自身が貯蔵している金で裏付けられるよりも多くの証書を貸し出すことができると学びました。今日の部分準備銀行システムの前身としての役割を持つことで、金細工師は銀行のような存在となり、貯蔵している貴金属の価値を大幅に超える証書を発行して、莫大な利益を生み出しました。

 

銀の貨幣としての魅力が低下し、銀行券が大量に発行されるようになると、1819世紀の間に各国政府は金本位制に向けて進み、1900年に法制化されました。金本位制を着実に実行するために、各国は保有する金の価値とマネーサプライを直接連動させて膨張を抑制しました。

 

しかし、20世紀に入ると、部分準備銀行システムの限界を試す動きが出始め、金融政策を管理するものとしての金本位制の存続能力に疑問が高まりました。米国は、時には個人が保有する金を没収するなどもして金準備を集中管理し、保有量を上回る紙幣を印刷するなど完全に規律を失いました3。そうした状況は、リチャード・ニクソン大統領がドルと金の交換を停止し、1971年に金為替本位制を取りやめるまで続きました。金と紙幣が連動しなくなり、金融当局は保証のみを裏付けとする不換紙幣を自由に発行するようになりました。下記チャートは、米国の金準備に対するマネタリーベースの拡大を示しています。

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通貨・・・・あらゆるところに通貨が存在

今日では195カ国に180種類を超える通貨があり、自由市場が欠如していることが特徴的です。政府は金融コントロールを維持するよう為替市場を規制してきており、法制度によって金融システムの自由市場化を抑制しています。この制約要因には、領域に関するもの、法定通貨の法令、資本規制、州令、通貨発行益特権、地域管理、暴力の地域的独占、負債の消滅法、キャピタルゲイン税、銀行への絶対的な財政援助保証、中央銀行や劣位にある通貨を守るためのその他の人為的な防衛などがあります。ベネズエラのような国の市民は、金融政策や資本規制の信頼性が低いため、ハイパーインフレーションから自身の富を保護することが出来ません。また、ドルのようなより安定した通貨が大幅なプレミアムで売られるなか、モノやサービスの対価として劣位にある通貨を受け入れなければなりません。最近まで、彼らはこのシステムから脱する手段がありませんでした。

 

フリードリヒ・ハイエク氏の、1984年のインタビューにおける有名な発言に、「私たちは、貨幣を政府の管理から外さない限り、優良な貨幣を再び手にすることはないでしょう。政府の管理から不法に外すことはできないため、私たちに唯一可能なのは政府が阻止できない何かを、ずる賢く立ち上げることです。」というものがあります。また、著書「Free Market Monetary System」のなかで、「政府による貨幣発行の独占は、私たちから優れた貨幣を奪うだけでなく、優れた貨幣を見つけ出すことができる唯一のプロセスも奪っています。私たちは求めているクオリティーを正確にはあまりよくわかってさえいません。なぜなら、これまでそういったことを経験する機会が一切なかったからです。最良の貨幣はどういった類のものなのかについて、見出す機会がまったくありませんでした。」と述べました。

 

ビットコインの登場: 試すことの出来る新しい手段

2008年に、ナカモト・サトシ氏は当局のコントロールによらない金融システムであるビットコインを立ち上げました。ビットコインは「信用に依存しない電子取引システム」で、既存の政府や金融システムには収まらないつくりになっていました。

 

ビットコインは試すことのできる新しい手段です。他の貨幣と違って、ビットコインはボーダーレスで自由参加型、検閲耐性があり、検証可能です。言い換えれば、ビットコインは抑圧的な制度や伝統的な金融機関による貨幣へのアクセスの制限をすり抜ける「ずる賢い方法」となる可能性があります。デジタルの金と呼ばれることも多いビットコインは、希少性があり、また偽造ができません。デジタルな特性から、ビットコインは分割可能で、携帯可能であり、差し押さえ不可能であって、金とは違って集中管理される恐れがほとんどありません。

 

Vijay Boyapati氏が作成し、Dan Held氏が発展させた下記の表は、貨幣としての様々な役割についてビットコイン、金、法定通貨を評価したものです。

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暗号通貨の台頭

暗号通貨は貨幣です。一部を除けば、「暗号トークン」は貨幣またはテクノロジーの専門用語によってわかりにくく表現された貨幣です。ビットコインが発展し認知されるようになるにつれて、ビットコイン以外の暗号通貨(=オルトコイン)が市場に溢れ、その多くが「基本的な設計の不具合」や「限定的な機能」を繰り返しています。ビットコインが立ち上げられて10年が経ち、良くも悪くも2,000種類の暗号通貨がこうしたことを繰り返しています。

20世紀に優勢だった国家が管理する貨幣市場とは対照的に、暗号通貨は競争市場に存在しています。オープンソースに基づくものであることから、暗号通貨はオープンで安価な新しい手段です。Jörg Guido Hülsmann氏がEthics of Money Productionで強調している通り、「社会の自然な貨幣を見つけ出す唯一の方法は、人々が自由に利用可能な代替方法に触れ、そのなかから最も良い交換手段を選ぶことです。」

この1世紀で、金は価値の保存手段として、すべてではないとは言えほぼ市場を一時的に独占してきており、この勝ち組みがほとんどを独占するというモデルはおそらく暗号通貨にも当てはまるでしょう。そこで疑問に上がるのは、暗号通貨がどれだけ永続的な現象になるのかということです。

第2部では、独占的な市場モデルと言われる点の妥当性について検討していきます。すべての暗号通貨の貨幣プレミアムとして市場規模を明確にすることで、こうした考えの価値を明らかにしたいと思います。


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[1] ヤップ島の石貨および西アフリカのガラス玉 ↩
[2]  金は、計測や少量への分割が必要であったため、日々の購入に用いるには実用的ではありませんでした。 ↩
[3]  ルーズベルト大統領による大統領令6102 金貨および金塊の保有禁止(1933年)

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